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発見

第一章

二人の大学生

――何が起こったのか――


一、発見


 三月のある日。

 男性は、埼玉県の西部にある山中の林道を、オフロードバイクで走っていた。

 大学が休みの日に、お気に入りのバイクで山道を走るのが、男性の趣味だった。昨日は夜遅くまでサークル活動があったので、今日の昼前まで睡眠をとった後、一走りするために、この山を訪れた。

 九十九折れの峠道を三十分ほど走り、渓谷を流れる谷川を越えたところで林道に入った。

 この林道を一時間弱ほど走り、山を二つ越えて北側の町に抜ける予定だった。

 夏とはいえ、この周辺は標高が比較的高い。ヘルメットの隙間から入り込んだ風が、頬を撫でる感触が心地よかった。

 男性は、二日ほど前に降った雨で少しだけぬかるんだ道に注意を払いながらも、高揚する気持ちに任せてアクセルを捻る。

 右曲がりの緩やかなカーブを抜けたときだった。

 男性は、慌ててブレーキをかけた。

 カーブの先で、右側の崖が崩れ、道路を塞いでいる。

 幅は、十メートル以上はあった。崩れた崖は、まるで巨大な獣が爪で引っかいたように、ごつごつとした断面を見せていた。

 ――引き返すしかないか。

 そう考えたとき。

 土砂の中に、ちらりと白いものが見えた。

 ――白化した枯れ木だろうか。あるいは……。

 ――動物の骨だろうか。

 男性はバイクから降りると、土砂がさらに崩れてこないか注意を払いながら、白いものに何気なく近づいた。

 やはり、骨のようだった。

 恐る恐る、骨に触れてみた。ひんやりとした感触が、指先に伝わってきた。

 試しに、ほんの少しだけ、持ち上げてみた。思ったよりも軽かった。

 だが、動物の骨にしては、どこか不自然に見える。

 骨があった地面を見て、男性はぎょっとした。

 土砂の間から、衣類のような淡い茶色の布が覗いていた。それは、明らかに日焼けか何かで色褪せた、薄汚れた布だった。

 男性は、心臓が鼓動が速まるのを感じた。冷や汗が背中を伝い、気がつくと掌にも冷たさが広がっていた。

 ――まさか、これは……。

 ――人間の骨、なのか?

 周囲を見渡すと、深い緑の葉を茂らせたコナラの大木が、崩れた崖を見下ろしていた。

 木漏れ日が、土砂に覆われた地面に影を落としている。

 カラスのけたたましい鳴き声が、静寂を破った。

 不気味な響きが、男性の鼓膜を震わせ続ける。

 時刻は、午後二時過ぎ。

 日差しは強かったが、この場所だけは、周囲から隔離されているかのように、妙に冷たい空気に包まれていた。


          *


 山中で見つかった遺体は、その状況から、ほどなくして事件性があると判断された。

 埼玉県警は、さっそく捜査本部を立ち上げ、事件解決に向けて動きはじめた。

 財布やスマートフォンなどは見つからなかったが、遺体と一緒に見つかったスカートのポケットから、一枚の診察券が発見された。その診察券の持ち主は、佐伯美羅という二十歳の女性だった。

 佐伯美羅は、埼玉県にキャンパスを構える浅見女子大学の二年生で、七ヶ月ほど前の八月十二日に行方不明になり、その三日後である八月十五日に捜索願が出されていた。

 診察券による身元の確認と同時進行で、司法解剖やDNA鑑定もおこなわれた。

 死後半年にしては遺体の損傷が激しく、DNA鑑定は想像以上に時間がかかった。かつて通っていた歯科医院が廃業していたために歯型の照合はできなかった。一方で、頭部を含めた全身の身体的特徴の照合は順調に進み、概ね一致するという結果が出た。

 埼玉県警は、犯人の逃亡や証拠隠滅の可能性なども考慮し、身元を推測される恐れがある情報を公表しないまま、捜査を継続することを決定した。

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