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第4話

「……言っておくけど、私はそんな汚い言葉絶対に言わないからね、咲」


 背後から聞こえてきたドスの利いた声音に、志織は振り向くことなく辛辣なツッコミを入れた。その背後の非常口から顔を覗かせたのは、一人の小柄な少女だった。


「ちょっとちょっと。その言い方だと、私がいつもそんなこと言ってるみたいじゃない」

 くせ毛の強いショートボブの髪型の少女、影宮咲は背と同様に小顔の頬を膨らませる。

「友人が大変な目に遭っているのに、その後ろでニヤニヤしながらメモ取ってる人には十分な評価だと思うんだけど?」

「うげっ、なんでバレたし」

「ここ一ヶ月の間あなたと付き合っていれば嫌でも想像つくわ。言っておくけどそれで変な記事書いたら分かってるよね?」

「ねぇちょっと顔が怖いんですけど」

「分かってるよね?」

「おーイエスイエス、理解しました、はい」

 降参とばかりに咲は両手を上げてアピールした。

 咲は新聞部に属している。噂好きな趣味がそのまま高じて、収まるところに収まったと言った形である。だがいかんせん有益な情報ではなく、どちらかと言うと大衆向けのゴシップネタを多く集めている傾向があり、新聞というよりはどこぞの週刊誌と言った方がしっくりと来る。

 そんな咲にとって見れば、中学時代から有名人であった志織の存在は、まさに良い取材対象だった。あらゆる分野に秀でている天才少女が、高校生の魔境とも言うべき栄凌学園において、どれほどの活躍を見せてくれるのか注目を集めないはずがなかった。

「でもー私としても志織にはさっさとどこかに所属してもらって、何か活動してくれないと話題にできないんだよね」

「そんな事言われたら余計所属したくなくなるわね」

 報道や取材などにはある程度慣れてはいるが、咲のそれは今までとは違った取り上げられ方をされそうで怖いものがある。

「まぁ志織の立場も分からないまでもないんだけどね。結局あの人たちだってどこかに入れば? とか言っときながら、結局根回ししてるんだからギルドも面倒なもんだよね」

「咲!」

 志織は慌てた表情で咲に忠告をする。

「大丈夫だって。ここで私に何かあれば、志織は絶対に首を縦に振らなくなるでしょ? ギルドの連中だって馬鹿じゃないんだから、そう短気も起こさないでしょ」

 楽観的に話す咲だが、対照的に志織はまだ周囲を警戒していた。

「だからと言って、軽々しく言って良いものでもないでしょうが。どこで誰が聞いているのかも分からないし、短気を起こす人だっているのかもしれないし」

「志織は相変わらず心配性だなぁ。それに私は新聞部だから、ちょっかい出すにも出すにくいと思うよ。うちギルドにも顔が利くけど基本的に中立だし、あちらさんもそれを知ってるだろうからね。部長なんて去年ギルドの悪事特集なんか組んでるんだから笑っちゃうよね!」

 咲は腹を抱えて笑っていた。当の本人がそんな調子だと、眉間に皺を寄せていた志織は自分が馬鹿らしく思え、呆れたため息をついた。

 栄凌学園が抱える闇、それはギルドと言われる学生による非公式の組織である。その活動は単純明快、報酬次第でありとあらゆる依頼を請け負う便利屋だ。この場合の報酬とは大部分で金銭のことであり、相応の金さえ払えばどんな願いでも叶えてくれると言うのだ。

驚くべき事にこのどんな願いも、というフレーズには違法な案件でさえも引き受けると言うニュアンスが含まれている。盗聴や盗撮、暴力はもちろんであり、事故の揉み消しや果ては違法薬物の売買にすら手を出しているとも言われ、その悪行は許しがたいものばかりである。

もはや犯罪組織といっても間違いでは無いギルドは、栄凌学園に入学したものならばその名を知らない者はいないほどの知名度を誇っている。何せ五千人を超える生徒数、そんなに大勢の同年代が集まれば、日々の生活の中で問題が起こらないはずが無い。ちょっとした不満、苛立ち、願い、それをかなりの値は張るが解決してくれる存在がある。

一度その味を占めれば抜け出す事のできない優越感。それは正しく麻薬のように、倫理観や判断能力などを一瞬で破壊する。

栄凌学園を生き残る上で最も重要な物は良くも悪くも力である。そして財力も、ある意味で力。上質な設備が整っている栄凌学園には上流階級出身の御息女が多数在籍していることもあり、ギルドと言う虎の威を借ることで擬似的な権力を手にしている者も少なくない。

ギルドは手を出す生徒が増えるにつれてその勢力を広げることで、いつしか学園の中で許容され、ギルドに入っていることが普通であるというムードが出来上がっていった。ギルドに加入することなく学園で優秀な功績を残した者は皆無に近い。生徒会活動とは異なり、それよりもより巨大な影響力をもって学園を支配しているというわけだ。

柏原はそのギルドの数少ない幹部の一人である。学内にも拘らず多くの取り巻きを従えていたのはそういう理由であり、柏原が廊下を歩けばギルドに所属する者は黙って道を譲る。通り過ぎるまで会釈をする者がいるほどであり、そこに年功序列のルールは無い。

その光景はまさにギルドの影響力の大きさと異質さを物語っている。

 そんな柏原が志織に声をかけてきたのは当然のことだった。一般家庭の出身ではあるが、どの新入生よりも注目を集め、そして何かと優秀な能力を持つ少女。派閥を持つ者からしたら、志織はぜひとも引き入れたい優良物件なのである。

実のところ声をかけてきたのは柏原だけでは無い。別のクラブに誘うフリをして、実は派閥に勧誘していたなど、姑息な手を使ってきた輩も少なくない。

 そのギルドの思惑を感じ取り、志織はどこのクラブにも入らないことを心に決めた。

そもそも志織はギルドの存在自体気に食わなかった。困っている他者を助けるという話ならば、志織は喜んで手を貸す。しかし報酬を貰うだけならまだ目を瞑るとしても、違法な案件にすら手を貸すことは志織には認められなかった。

運動部のライバルに怪我を負わせたり、他人の所有物を勝手に盗み出したり。ギルドに入っていなければ、不利益を被るわけで、なかなか参加するものもあると聞く。

入学式初日からギルドの勧誘を受けていた志織は、同級生とろくに会話する時間も機会もなかった。他の新入生自身もギルドとどう付き合っていくのかを模索する必要があり、その中で幹部から直々に声をかけられている志織は、お近づきになりたいを通り越して、腫れ物に触る様な扱いを受けた。

そんな中で唯一志織に声をかけてきたのが、既に新聞部に入部しネタを探していた咲だったというわけだ。

「いくら新聞部がギルドに顔が利くからって、後先考えずに話す理由にはならないんだから。注意しているに越したことは無いでしょ?」

多くのクラブ活動がギルドの傘下になっていく中、新聞部は未だにギルドに取り込まれていなかった。新聞部はギルドに対して情報を提供する代わりに報道の自由を獲得することで、従うのではなく共存する道を選んだ。新聞部には独自の学外の情報ルートが存在し、ギルドの影響力がまだ学内で収まっているからこそ使える交渉材料であったわけだ。

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