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第24話

 対抗馬、結崎流斗は翌朝には学園中に広まっていた。


 もちろん、新聞部の動きがあってこその戦略である。


 陰の便利屋が表に、それもギルドと敵対する立場に出たことが話題にならない訳が無い。


 さらに動向が話題となっていた志織が便利屋側についたことで、ファーストインパクトはまずまずの成功を収めた。


「最新の調査が出たよ!」


 出馬して一週間、事務所として借りている手芸部の部室に元気よく咲が入ってきた。


《両雄の牙城は崩れない。支持率に大きな変動はなし。話題性○も、数字には表れず》


 大きく張り出された新聞の見出しを見て、誰かが息を呑んだ。


「まぁ妥当なところでしょうね」


「何冷静になっちゃってんのさ! これスタートダッシュ失敗してない!?」


「まずは予想通り……かしら?」


 慌てる咲の横で、利根が尋ねる。


「でもでも、結崎先輩の立候補が、かなりのインパクトだったのは確かだよ!?」


「インパクトだけで勝てれば苦労しない。基盤がしっかりしている二つの勢力が動かないのは当然ね。その他も、大半が様子を見るってとこかな」


 珍しいものに飛びつく酔狂な生徒はいない。誰もが結崎涼斗を支持するリスクを知っている。


「今のところの目標は二日後の立会演説。ここで各候補者が政略を述べる。そこでどれだけその基盤を揺るがすことができるかが鍵ね」


「政略の内容はもう固まってるの?」


「あらかたね。各部活動の活動内容、予算の精査。停滞している委員会活動の見直し。理不尽な校則の撤廃。そして学生の学生による学生のための奉仕活動を目的とした組織の発足とかね」


 前半は一般的な公約。後半が本命である。


「その学生なんたらって長くない? もっと覚えやすい名前にしようよ」


「確かに。ギルドに対抗するにあたって、分かりやすい名前は必要かもしれませんね」


「できる限り短く、それでいて内容を理解できる名前……ね」


「カタストロフィとか?」


「字ずらで選ぶな馬鹿者」


「だってカタカナかっこいいじゃん! アヌビスとかでもいいよ!」


「もはや何を目的としているかわからないでしょ!」


 一体エジプトの神がこの学園に何の用だって感じである。


「学芸……特殊分室というのはどうでしょうか?」


 じゃれあっていた志織と咲は、利根の言葉で動きを止めた。


「学びという意味の学芸。少し特別なという意味で特殊。生徒会からは独立しつつも、その存在をすぐそばに置くという意味で分室。略称を『分室』にすればちょっとおしゃれ感出ません?」


「か、かっこいい!」


 一瞬にして咲の目が輝いた。


「学芸特殊分室! なんかいい響きがする!」


 プレゼントをもらった子供のようにはしゃぐ咲を見ながら、しかし志織も少し心がざわつく感じを覚えた。


 ただの名前、しかもまだ実態も成果も残していない。


 ただ、心のどこかで何かがぴったりと嵌まった気がした。


「学芸特殊分室……ふーん、まぁいいんじゃないか?」


 女子三人しかいないはずの空間。そこに変声期を超えた大人の低さをもった男の声がし、三人とも身を震わせた。一体いつからいたのか。


 無頓着にも伸びた癖の強い髪、死んだ魚のほうが活気に満ちていると感じさせるほどのやる気のない瞳の持ち主が部屋の奥のソファーに寝っ転がっていた。


「あなた、性格悪いわね」


「人の行動に難癖付ける人間のほうが性格悪いと思うが? 言っておくが、俺は最初からここにいたんだ。あとから入って来たのはお前たちの方だ」


 噓を付け、言いたいところだがこれまでのことを考えるとこちらが気づいていなかったことはあり得るかもしれない。


 と思ってしまうのがなんだか悔しい。


「それで、次の手は何だ? まさかさっき言った演説内容で形勢をひっくり返せると思っているわけじゃないだろう?」


「え、そうなの? 分室ってみんな賛成しそうじゃない?」


「話題性はあっても。実績はない。支持を変えるほどのきっかけにはならないよ」


「じゃあどうするの?」


「じつは、立会演説の前に、もう一つ決めなければならないことがあります」


 咲の言葉に利根が答える。


「それは生徒会役員人事案です」


 この学園の生徒会選挙は会長のみだ。立候補者は立会演説の際に、自身が当選した際の生徒会役員の人事を発表する。


 私が当選した際は、この人間たちで学園を回します、ということだ。


「政略も大事ですが、この人事案がほとんど本命といえます。学園にある無数の派閥から、より支持を集められる人材を確保した方が有利になります」


 有権者は出された人事案を見て候補者の力量を図る。自分の所属する派閥や力関係を見て、投票先を選ぶのだ。


 そして柏原の人事案は文化部で固められ、織田は運動部で固めている。


 当選後、それぞれの支持母体が有利に活動できるようになるわけだ。

何よりこのシステムこそが織田と柏原が入学当初から志織を勧誘していた最大の理由だ。


 神北志織というパンダを使い、支持を集めようとしたわけだ。


「人事案には五名を選びます。立候補者の会長・副会長・常任役員三名の五人です。ただ、常任委員には生徒顧問と言って、三年生を一人入れると定められています。基本的に前会長を指名する形になります」


 会社で言うところの名誉会長のような立場。卒業までの名誉職というわけだ。


「私が勝手に考えていたことなのですが、利根先輩に生徒顧問をやっていただきたいです」


「えっ!? 私ですか!?」


「分室を発足するにあたり、もちろん新生徒会役員は全員分室賛成派になるわけですが、今のこちらから誰かを入れる必要があります。それには利根先輩が適任かと」


「神北さんはどうするのですか?」


「私は、言い出しっぺの責任を取ります。分室の室長に私を出してください」


 すべてを企画した元凶、その矢面に出る。生徒会人事とは異なる、別の人事で神北志織を利用する。


 そのインパクトは少なからずあるはずだ。


「でも私が生徒顧問なんて」


「大丈夫です。基本は会長が何とかします」


「その会長を無視して話を進めるなよ」


 無視してほしくないなら『やる気ありません』みたいな姿勢で座るんじゃない。

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