第23話
「前回参加していただいた神北さんが、今回から正式に私たちの同士として協力してくれる事になりました」
翌日、緊急で開かれた会議の初めで、戸根からの報告が行われた。
「皆さんご存知だと思いますが、神北さんは異色の経歴の持ち主であり、ギルドですら一目おいている存在でもあります。前回は見学という形を取りましたが、今回からはその才気を思う存分発揮してもらいたいと思います。それでは神北さん、一言お願いします」
戸根の隣、水林とは反対側に座っていた志織は起立し、一度礼を挟んだ。
「改めましてご挨拶させていただきます神北志織です。この度は私を仲間として受け入れていただいたこと、大変嬉しく思います。ギルドによる学園の支配はやはり認めがたく、学生としてのあるべき姿とは離反しすぎています。何かとギルドに目をつけられている身分ではありますが、だからこそ感じ取れること、できることを見つけていき、少しでも皆様と力を合わせていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします」
一同から拍手が沸き起こる。心強い味方が増えた。ほぼ全員がそう思っている。
「そして早速ですが、私から一つ提案があります」
そんな甘い考えに、一石を投じる。
「本当に早速だね。一体どんな話だい?」
「私たちは今のままで何かを変えているのでしょうか?」
にこやかだった水林の顔が、志織の言葉で瞬く間に変わる。
「言葉通りです。ギルドの動きを話し合うだけで、それがはたして学校をより良くする活動になっているでしょうか? ギルドから学園を開放する。そんな理想を実現するためには何かしらの手立て、手段が必要です。内輪だけで話し合うのではなく、学園の表に出る形で」
部屋にどよめきが広がった。誰も彼もが不安げな顔を浮かべ、隣近所の仲間とヒソヒソと話を始める。発言者である志織に質問をするのではなく、ただ仲間内で意思を確認する。
ここに集まっている学生の大半は、ただギルドに不満を持つ仲間が欲しいだけなのだ。
水林の咳払いで、ざわつく周囲を学生が静まる。
「僕たちが今まで活動を行えていたのは学園の裏にいたからだ。真っ向からギルドと戦うなんて、無茶も良いところだ。今までの先輩方が残してくれた思いを軽んじる事になる」
「いつまでも学園の裏に居続ける事こそ、私は歴代の先輩方の思いを踏みにじっていると思います。ギルドから学園の開放を願っている。その思いは十分ですが、必要なのはその思いを達成するための行動です。そして今、ギルドの長が変わるこのタイミングが動く時です」
水林の言葉に頷こうとした学生が、志織の言葉で再び困惑の表情を浮かべる。
「皆、神北さんの言葉を聞いて!」
「利根先輩。これはあなたも承知のことなのですか?」
詰問するような水林の口調に、利根は負けることなく力強く頷いた。
「学園を変える。口では言ってるけど、私たちのしてきた事は確かに理想を語るだけで終わっていた。そして申し訳ないけれど私にそれを主導する力は無い。でも神北さんなら、その思想と意思を持って成し遂げられる。私はそう思います」
今までになく熱く語る利根を、周囲の学生は固唾を呑んで見ていた。
「神北さんの考えを始めて聞いた時、私は恐ろしさと同時に喜びを感じたの。今までの理想でしかなかったものが実現するかもしれない。そんな思いが湧きあがったの」
利根は胸の前でギュッと手を握り締めた。
「私は今年度で卒業してしまう。でもあなたたちはもちろん、これから先の後輩に辛い思いをして欲しく無いの。大変な道のりだと思う。でもここで立ち上がらないと、いつまで経っても変わらないままなのよ!」
静寂の室内に、利根の熱い思いは駆け巡る。
「……分かりました。神北さん、話の続きをお願いします」
「ありがとうございます」
「話を聞くだけです。あなたの考えを実行するかどうかは別の話です」
そんな事は百も承知。志織にとって見れば、発言が出来ればほぼ問題はクリアした事になる。
「まず学園の表に出る、というのはどういうことですか?」
「一つのクラブを作ります。そこは無償で生徒の悩みを解決する、生徒の・生徒による・生徒のための奉仕活動を目的としたクラブ。ギルドに代わる、新たな組織を作ります」
「そんなクラブ、完全にギルドの商売敵じゃないか! 学園が許可するわけじゃない!」
「だからこそ、このタイミングなんです」
志織はテーブルに広げてあった校内新聞を広げ、生徒会長立候補者一覧を指差す。
「会長選挙に対抗馬を出し、新生徒会長のお膝下で活動を始めます」
これこそが、志織の出した答えである。当然部屋のざわめきは先ほどの比ではなかった。
「対抗馬って、まさか神北さんが出るってこと?」
「私ではありません。流石に私も今の状態で立候補して当選できるとは一切思っていません。事後報告になりますが、既に立候補者には確認が取れています」
「いくらなんでも無謀すぎる! 織田と柏原に対抗できる人材なんてこの学園には」
「誰だ、俺の事を呼んだやつは?」
突然現れた。気づけば志織の隣に立っていた。驚きのあまり、この場にいた全員が息を呑んだ。
無頓着な髪に、気だるそうな表情。学園の真の便利屋。
「結崎……涼斗……!?」
「元気そうだな、水林」
闖入者はのんきに欠伸を返す。ただ周囲はそれどころではなかった。突然出てきた存在に戸惑いを隠せない。全校生徒五千人を越えているのだ。たとえ同級生であろうと、その全てを把握している訳ではない。
「水林先輩は彼をご存知なのですね?」
だがこの場で最も納得していただきたい存在は、ありがたい事に名前を知っていた。
「どうでしょう? 彼ならば十分会長選でも戦えると思いますが?」
「それは…………」
水林の目が泳ぐ。志織を見て、涼斗を見る。志織にはもう語ることは無い。無言の圧力をかけ続けるだけだ。
「本当に……いいのか?」
「俺は自分の仕事を果たすまでだ」
便利屋は、出会えれば何でも依頼を引き受けてくれる存在である。正真正銘ギルドの商売敵。その存在があるからこそ、その庇護の下ならば、志織の理想は実現する。
「確認させてください」
渋々、不安そうな周りの顔色をうかがいながら、水林が言う。
「分かっているとは思いますが、この反旗が失敗に終われば、それこそ学園での私たちの立場がなくなります。それはこれから先の後輩の未来を、より改悪するものかもしれません。現状を維持していれば起きなかった悲劇を、生み出す元凶になりかねない」
「リスクは承知の上です」
クーデターとはそういうものだ。現政権、実権を握った存在に楯突けば、命の保障はない。少なくとも、安寧の生活を望む事は叶わない。
「ただ、リスクに足が竦み、やりたいことをやれないなんて、私には耐えられません」
直感を研ぎ澄ませて、行く先を決める。隣で嘲笑気味なため息が聞こえたが、あえて無視だ。




