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第7話 ダウナーギャル、家出か

 翌日の事だ。

 朝からダウナーギャルと一緒に家を出て、同じ電車に乗ってきた。

 別の車両に乗った分まだマシではあるが、それでも精神的疲労感は隠せない。

 

「ふぅ……」


 そのため、生まれて初めて学校に着いてようやく気が安らぐという、謎な状況に至っている。

 まさかこんな日がこようとは、夢にも思わなんだ。

 と、朝からそんなデカいため息を吐く俺を見逃す訳もなく、隣の席の女は怪訝そうに眉を顰める。

 それと同時に、鼻をひくつかせた。

 スンスンと、俺に向かって鼻を近づける。


「女の匂いがするわ」

「お前は犬か?」


 的確過ぎる指摘に頬が引きつる俺。

 小唯はそんな俺に真顔で言い放った。


「あなた、いくら一人暮らしって言っても未成年よ。家にデリヘルを呼ぶのはやめなさい」

「呼んでないよ!?」


 いきなり失礼な奴である。

 朝から変な事を言い出すもんだから、周りの生徒たちも何事かとこちらを一瞬向いてきた。

 勘弁してほしいものだ。


「じゃあ何? 風俗にでも行っていたの? 女性と一緒にいたのは事実でしょう?」

「仮にそうだとして、なんで俺が正当な手段で女の子と一緒にいたとは考えないわけ?」

「確かに。言われてみればそういう可能性も若干あるわね」

「……」

「冗談よ」

「嘘だろ。目がマジで犯罪者見る目つきだったぞ」


 絶対後付の言い訳に、俺はジト目を向けた。

 不服だ。不服過ぎる。

 仮に冗談なら冗談になっていない。

 

 超人離れした特技をちょくちょく見せてくるこの女に、俺は昨晩からの出来事を思い出す。

 そういえば紫埜、結構しっかり香水の香りがしたもんな。

 好みの匂いだったから気にしなかったが、部屋も同じだし匂いが残っていてもおかしくはない。

 

「で、どうなの?」

「何が?」

「昨日何かあった? 不安と幸せを混ぜたような顔をしているから」

「脳内を表情から汲んで言語化するのやめろ。どんだけ超人技を見せれば気が済むんだお前は」

「……で?」

「あぁ、親と話したんだよ。母ちゃんの香水きついから」


 嘘は言っていない。

 母親と話したのは電話上とは言え本当だし、あの人のつける香水は香りが強いものも多い。

 一緒にいる時はやめてくれとよく言っているが、本人が理解しているかどうかはわからない。

 何はともあれ、嘘は言っていない。

 まぁ本当のことも言っていないがな。


 小唯は俺の言葉に納得いかなそうに口をとがらせるが、詮索はしなかった。

 ラインを見極める能力は高いので、こうなると追及はしてこない。

 ただ自分に壁を作られたと気付いて、独りで落ち込むタイプだ。

 だからこそ、俺としてもやはり罪悪感が湧く。


「今度、飯奢るから」

「わたし、大盛り三人前くらい食べるけどいいのね?」

「……あ、あぁ。任せろ」

「はぁ。わかったわよ。もう詮索しない」

「ごめん。誰にも話せない事だから」


 流石の友人と言えど、柊華院のギャルと婚約をする羽目になって、そのギャルが昨日自分の家に泊まっていただなんて話せるわけがない。

 深く語ってこなかった俺の家庭の話にも当然疑念が湧くだろうし、これ以上事態をややこしくしたくない。

 話さないことは話さない、で通した方がマシだ。


 なんて話していると、様子のおかしい男が俺の方に走ってきた。


「か、可児辺ェーーッ!!!」


 教室の扉を勢い良く開け、俺の席に直行。

 同じクラスで唯一仲のいい男友達の松山田まつやまだである。

 暑苦しい、醤油顔イケメンフェイスをギラギラに光らせながら、彼はスマホの画面を見せてきた。


「こッ、これを見ろッ!」

「朝からうるせーな。なんだってんだ……よ?」

「柊華院のギャル、今ヤバいことになってるぞ!」


 松山田に見せられたのは、ラインのグループチャットの一部である。

 誰かが張り付けた、七村紫埜の写真だった。

 恐らく昨日の夕方に撮影されたものだと考えられるそれは、俺にとって嫌な予感を覚えさせるに容易い代物だった。

 何故なら、問題はそいつの格好である。


 スマホを片手に、ボストンバッグを抱えていたのだから。


「『柊華院のギャル、家出中』か。面倒な事になってるな」


 俺が言うと、松山田は小唯の方をチラチラ見ながら、慌てて言う。


「べ、別にオレはやましいこととかは考えてないぞ!? ただ、お前の家の近くっぽかったから、何か知ってるかと思って」

「あ、本当ね。丁度昨日この近くのスーパーに佑己と行ったわ」

「おい可児辺。どういうことだ」

「……別に、ただの暇つぶしだよ」


 一層暑苦しくなった松山田に詰め寄られ、俺はまぁまぁとなだめた。

 こいつは恐らく小唯の事を意識しているから仕方ない。

 と、問題はそっちじゃない。

 ギャル(家出中の疑い)が拡散されている事の方が問題だ。

 だってそれ、絶対うちに来る前に撮られた写真なんだもの。


「佑己?」


 小唯に聞かれ、ハッとした。

 ここで黙れば、俺が関係者と言ってるようなものである。

 二人の視線に動揺を隠しつつ、できるだけ冷静に答えた。


「まぁ大丈夫だろ。そいつ、デカい家のお嬢様なんだろ? 大抵バッグやら所持品に嫌という程発信機がついてる。何か起きた翌日には、犯人は湾の底だろ」

「で、でもよ。うちの学校の連中も、正に絶好の機会と言わんばかりに、ワンチャン狙い始めてるぞ?」

「けだものね」

「お、オレは違うけど」


 地味に噛み合ってない小唯と松山田の会話をなんとなく聞きながら思う。

 これは思ったより、面倒ごとになっているのではないだろうか。

 

 とりあえず今度からうちに来るときは、わかりやすくバッグを持ってこさせないようにしようと思った。

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