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フィオリアとヴィクター

 朝の開店準備、窓を開け新鮮な空気を取り込む。


 冷たい空気を肺いっぱいに吸い込むと、鼻が少しつーんと痛くなる。そんなことをしていると、階段をドタドタと降りて来る音が聞こえてきた。


「お、おはようございます! ヴィクターさん!」


「おう、おはよう。フィオル」


 フィオルーーフィオリアは、店の前で一人でうずくまっているのを俺が保護した。ただ、詳しいことを聞こうとしても思い詰めた表情になるばかり。

 今、彼女について知っていることは、頼れる大人がいないこと。そして、この国の統治外の村から来たということだ。


「ヴィクターさん、昨日提案してくれた事についてなんですけど……」


 保護してからというもの、この数日間彼女は店の手伝いを一生懸命してくれている。だが未成年の彼女にとって、この国ーー王国プラメリアで国籍を手に入れる方法は、一つしかなかった。


「私ーー、お城の兵士、目指してみます!」


 そう、プラメリア城で兵士に志望することだった。


 兵士になる、と言っても正直大変なことではない。この国で『兵士』という職業は割とポピュラーなものだ。とても大きなこの国では、日雇い兵士などの募集なんかもあったりする。親を亡くした子の受け入れ先として、城の兵士見習いという選択肢もあるくらいだ。


 そして何より重要なこと。こんな小さな花屋であまり美味しいとは言えない、俺が作る下手な料理をいつまでも食べさせるのは申し訳がない……!

 城の料理は腕のいいシェフが作るため、しっかり栄養も取れる。ましてやフィオルはまだ育ち盛りの14歳だ。こんな所より、衣食住が約束されている城勤めの方がいいに決まっている!


「分かった、そしたら今日は店を休みにしよう。 俺も城に少し用事があるから、一緒に行こうか」


「はい! ありがとうございます!」


 フィオルは深々とお辞儀をする。


「ほらほら、腹が減ってはなんとやら、まずは朝飯準備するぞ」

 

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