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不確かな盟友

ひと悶着あったその日。


小田遥の介入でひとまずその場は丸く収まったかのように

取り繕われたが、恐らく北条薫との確執は決定的なものとなったであろう。

まぁそれはいい。彼女については小学生の頃から理解している。

問題が表面化するのも若干想定より早かったが予期していた範囲内である。


しかし正直中等部に入った時点で新規の学生については

正直調査していなかったのである。


そもそも私は本来、頭を使うのは性に合わない気質である。

優秀な父親の血を引き継いだおかげか、学校の学問に関しては

小十郎の毎日の勉強の指導の賜物か、成績も及第点以上は取れているが

正直それに加えて日々の鍛錬を重ねていると一日の殆どが奪われてしまうわけである。


もちろんそれら両方とも時間を削ることは許されない。

鍛錬の時間を減らすのは自分が許せないし、勉強の時間を減らすのは小十郎が許さなかった。

なのでそれ以上の行動をしようとおもうのであれば睡眠時間を削らなければならない。


なので中等部でもし有力な家柄の生徒が入学するようであれば教えてくれと

小十郎にお願いをする形を取ったのだ。


今日乱入してきた男子もそうだし、小田遥に関してもだが

報告を受けた生徒ではないため、正直前知識がなかった。

とりあえず揉め事を起こしても揉み潰すなりなんなりできる相手である、

ぐらいの認識で考えている。


北条薫……実に面倒な存在だと今になって改めて感じている。

中等部から入学した人間にとってはただの頭のおかしな人間に映りかねない。

かといって彼女は初等部では人気者であった。

特に彼女はある意味カリスマ性のようなものを持っていたため

浅井鈴花、朝倉匠子という二名の生徒は初等部時代はよく一緒に居たのを覚えている。


もし北条薫が今日私が彼女に言った発言を彼女たちに伝えればどうなるだろうかを

私は夜な夜なベッドの中で寝転がりながら頭の中でシミュレートしていたのだ。

二人の少女は対照的で、浅井は活発なタイプだが思い込みが激しく

時折男子などと揉め事を起こしているのを見ていた。

一方で朝倉に関しては全く逆のタイプで正直何を考えてるのかわからない。

まぁそれに関して言えば私もあまり人に言えた立場ではないかもしれないが

物静かで争いはあまり好まないタイプには見えた。


小十郎には日頃から学友とは仲良くしましょうなどという戯言をよく言われていたが

正にこういう場面になった時相手のことが全くわかってないじゃないかと

些か反省したくもなるのだが、結局のところ私は「力」こそが全てという

暴力的本性を抱えるが故に、他の事象をすべて些事と感じてしまうのである。


ちなみに今日のことは小十郎にはしっかりバレていたが

とりあえずお父様には報告は今のところは保留するとのことであった。

バレていれば今日も懲罰部屋行きだったのだろうか……だろうなぁ。


結局のところ、なにか考え込むよりよく睡眠を取り

明日臨機応変に対応する判断力を維持することが大事であるという

大雑把な思想に行き着き、そのまま気持ちよく眠りについてしまったのである。





翌日、車でいつも通り学校に向かうと、最後の直線に入ったところで

小十郎は一度車を止めた。

「どうした?何かあったか?」

「お嬢様、今日はどうやら御学友に熱烈な歓迎をされそうですよ」


相変わらず半分困り顔をしながらこの男は物を言う。

しかし彼の視線を送った先を見て納得した。

なるほど、北条、小田、浅井、朝倉の4人揃って校門の前に立ち話をしているのだ。


私は深呼吸をすると深いため息を吐いた。

めんどくさそうだよねぇ……という顔つきで小十郎をみると

相変わらずこの男は苦笑いをするばかりである。


再び車が走り出し、校門の前で停車すると小十郎は私が座っている

後部座席のドアを開けて言った。


「それではお嬢様、行ってらっしゃいませ」


私はあえて無表情の顔を作ると校門に向かって歩いていくと

案の定、4人組に取り囲まれるのである。


「はぇ~、本当に自動車で通学されている人っているんですねぇ~

 おはようございますです!芹さん!」


真っ先に私に話しかけてきたのは小田遥であった。


「おはようございます、小田さん」

私はあくまでも優しく微笑む程度の笑顔を崩さなずに言った。


「嫌だなぁ、芹さん、私のことも下の名前で『遥』って呼んでくださいよ」


実に彼女らしい、距離感であると感じた。


「わかったわ、じゃあ遥さん、改めてよろしくね」

「はいですーえへへー」


私の身長より更に一回りも小さい彼女は微笑んだ。

私も身長は145cmほどだが彼女は更に6,7cmほど低いだろうか?

最もこれから成長期になることを考えると一気に伸びることもあるかもしれないが。


低い身長と愛嬌のある喋りっぷりは彼女をとても引き立てているように感じた。


するとそこにいきなり遥の前にどかっと入り込んでいきなり頭を下げて来るものが居た。


「おはようございます、藤原芹さん」

「お、おはようございます……」


先程の砕けた雰囲気から真顔でいきなり出てきた彼女は…朝倉匠子か。


「では私も遥さんに習って芹さんとよばせていただきますね」

「ええ……まぁそれはいいけど」

「なので私のことも匠子とお呼びください」


胸元に手を当てて真顔でドン!といった感じでいってくる彼女なのだが……。

うーん……全く何を考えてるのか読めないタイプだ。

かなりデカい縁無しの丸型メガネを付けてる彼女……。

ある意味遥より強烈なキャラをしてるかもしれない。


「わかりました、では匠子さん、よろしくお願いします」


「おいおい、それで仲良しこよしってか? 当初の話と全然ちげえじゃねぇか!」


私と同じぐらいの身長でショートヘアの如何にも女子といった感じの女が

横から茶々を入れてきた。


「で、でもですねー鈴花さん、芹さんにも色々理由はあるとおもうんですよー

 ……ですよねぇ?!」


と、若干あたふたしながら私と彼女の間に割って入るように遥が牽制してくる。


「とりあえず、私としては何の話か解りかねますので、ご説明いただけると……」

「お前のそういうお高く止まった態度が気に入らねぇって話だよ!」


浅井鈴花という女はある意味北条薫以上に男勝り……というよりはワガママお嬢様といった所か。


「高く止まっているように見えるならばお前が登る努力を怠っているだけだろう」

「なんだとこの野郎……!」


まるで前日の男子とのやり取りの再来である。

私はこういう口だけの人間は大嫌いである。

たしか彼女は体育の成績が良かったはずだ。体つきはしっかりしているが

それはあくまでも健康体操としての体の良さだ。

まぁそれでも昨日突っかかってきた阿呆とくらべればだいぶマシだが。


「やめろ、俺は別に今日喧嘩しにここに集まったわけじゃない!」


諌めるように語気を強く北条薫は言った。


ほう、そうだったのか……。

まぁ最初の挨拶からしていきなり喧嘩になるとは思っては居なかったが

それなりのことは言われる覚悟でいたので意外ではある。

が、まぁ喧嘩しないと言っているだけできついことを言わないとはまだ言っていないわけで。


彼女は話を続けた。


「まずは昨日のこと、守ってくれたこと、礼をいいたい」

「礼? それは本当にありがたいと思っている人間にすることだ」

「確かに失礼なことは言われたと思っているがそれとこれとは別だ」

「そう思うならそうすればいい。少なくとも私は気に入らない人間を追い払っただけ」


実際言われっぱなしやられっぱなしというのは自身が対象になっていなくても

非常に強いストレスを感じるものだ。


「そうか、それならそれはそれでいい、改めて言う、助けてくれてありがとう」


そういい、北条薫は私に頭を下げた。

その目には困惑の色が浮かんでいるのがわかった。

彼女なりにしっくりこない、喉に支えたなにかでもあるのだろう。

その答えを吐き出すように彼女は言った。


「君はなんでそんなに強いんだい?」


……当然これは言葉どうりの暴力や権力で強いという意味ではなく

精神性についての問いであるのだろう。


「自信よ。私には何にも負けないと信じて努力しているものがある。

 その努力が私という人格を形成している」

「私も……男には負けないように努力はしているつもりだ!」


……あまり人に説教をするのは得意ではないのだがな。


「まぁ努力にも色々あるからな、それで『負けない』ならそれでいいんじゃないの?」

「負けない……か」


そんなやりとりをしてるとまた鈴花が食って掛かってきた。


「何が自信よ、ただエラソーなだけじゃない!」


一番年相応い女だ。

根拠もなく元気に。いいことだ。


「偉そうでもなんでもいい、どちらにしろお前には関係のない話だよ鈴花」

「てめえなんで私だけ呼び捨てなんだよ!」

「相応しい対応を求めるなら相応しい態度をしたらどうなんだ?」

「だからてめぇに相応しい態度してやってんだろ」


「やめないか!」


北条薫は再び声を上げた。

私は無視し、鈴花はずっと私を睨み続けている。


私は薫に対して言った。

「そうだ、やれば出来るじゃないか」

「どういう意味だ?」


それ以上言ってやる義理はない。

そもそも男ならそういう事は自然と気がつくし、気がつくべきであると私は思う。


「あのーまぁとりあえず、そろそろ学校に入りませんかー

 そろそろ朝礼の時間も近いことですしーえーはい」


この中で精神的に本当に勝っているものは誰なのかと言われれば

私ではなく、この者なのだろうなと思う。


こうして一同は促されるままに学校内に入っていった。





そして当然のごとく昼食は私達の机を四人で囲い込むことになった。

細々とですが継続して書き続けていきたいと思いますので

良ければ評価やブクマをいただけると継続の励みになりますので

何卒よろしくお願いいたします。

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