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運命の交錯

武の道を歩んできた私にとってそれ以外の道を選ぶことは

結局殆ど知らないことばかりであり

知っていることはせいぜい面子の事程度であるという事実は

私の判断を大きく誤らせるリスクを抱えていることを私は承知しておかなければならない。


それはわかっているのだが……。





この年頃の、特に男に至ってはほぼ本能で生きているといっても

言い過ぎではないレベルの生物である。


北条薫のその容姿は彼ら男子の好奇心を焚きつけるには十分すぎた。

なにせ彼女の服装は白のTシャツの上に青のYシャツにに青の短パンある。


服自体は女子でもありうる服装だが、完全にカラーリングが男子である。

加えて髪型はベリーショート……というよりほぼ男の子と同じである。




ここで考えなければならないのは、この小学校生活は

十年以上にわたって私達の人生を決めかねないという事実である。

何故ならこの小学校に進学してくるものは、その殆どが大学までエスカレーターで

進学していくからである。




案の定、彼女は既に授業が始まって二日目の段階で休み時間に

男子達に取り囲まれていたのである。

当然私は隣の席にいるわけで、私は男子たちがよってくるのをみて

予め席を立って窓際に立ち様子を見ることにしたのだ。


聞くまでもなく会話の内容は想像が容易であった。


こういう時の男子は謎に元気である。

「お前女子なのに男みてえだな!」

「男女じゃん!キモっ!」


そんな様子を私は傍観していた。

何故か拳に少し力が籠もっていたが。


そんな男共の戯言に彼女は

「別にどんな格好をしようと私の勝手でしょ!!」

と、考えうる中で最も悪手だと言える回答をしてしまっていた。


いや厳密に言えばそんな格好をしている時点で悪手であり

言葉の回答に意味はないかもしれないが

この年頃の男子などは相手の反応を見て喜ぶものが大抵である。


この学校に来る生徒は程度の差はあるにしろそれなりの家柄であることは確かである。

仮にここが十歳以上の男子が多ければまた違ったのかもしれないが

残念ながらここは小学生の集いである。

皆、流石に人の痛みを知るには些か若すぎるのだ。


案の定、雰囲気はかなり悪くなり、男子たちの言葉は徐々に厳しくなっている。

私はもう巻き込まれないようにこの場を離れようかと考え、彼女の近くを通り過ぎて

廊下に向かう……つもりだった。


私が通り過ぎようとした瞬間である。


男子は「彼女に手を上げようとしていた」ことに反応して

私は咄嗟に彼の手を払ってしまっていたのである。

日頃の訓練の賜である。

暴力には体が自然と反応してしまうのである。

反射的であったためかなり強く彼の腕を払ったため、やや男の子は腕をいたそうに抑えている。

まだまだ男女差は少ない年齢である。

全く修練をしていない男子を抑え込むことなどは造作もないのだが……。


「女子に向かって手を上げるなどとは……親御さんの顔を見てみたいものですわね」


勢いで言葉を発し、手を痛めている男子を見下すような目で見てしまった。


どうしても前世の記憶でこういう場面になると血が沸騰したように滾ってしまう。


「おい……藤原はやべえよ……やめとこうぜ」

「何ダセーこと言ってんだよ、そんなの関係ねーだろ!」


もうこうなると引き下がるのも難しいか。

小学生の男子などはこの程度のものだろう。

いや小さい男ほど大人になってもそんなものかもしれない。

私は再び彼が飛びかかってくるのをみてブンブンパンチを払い除け

流石に殴るのは問題があるので手を鞭打のようにしならせて

彼の頬を10発ほどビンタした。


バチン、バチン、バチン、バチン!とかなりでかい音を立てて彼の頬は真っ赤に腫れ上がった。


このクソガキはその時点でその場にしゃがみ込み、大泣きし始めてしまった。

ワンワンと泣きわめくガキに苛ついた私は更にダメ押しをしようとしたところを

がっしりとした手がそれを止めた。


それは騒ぎを聞きつけてやってきた担任の手であった。

当たり前だが大人の力には到底及ばない。

私はその時点で抵抗を諦めた。





こういった場合、大義名分があろうとも大抵は暴力をふるった側が責められる。

それが世間の常であることは百も承知である。


しかしそれは一般常識の場においてである。




改めて会話の場が職員室にて設けられた。

私の横には小十郎がおり、対面するように先生と問題を起こした生徒が座っていた。


泣きわめく生徒を横目に小十郎は話を進める。

「先生これは一体どういうことでしょうか? うちのお嬢様に手を上げようとした

 生徒がいると聞いて来たんですけどね」


いつもよりドスの聞いた声で、あえて少年ではなく、先生に圧をかけている小十郎がいた。


「はい……おっしゃるとおりでございまして……ほ、ほら、涼介くん、彼女に謝って!」


先生はひたすら焦った様子で涼介と呼ばれた少年に謝罪を促すと

彼は泣きじゃくりながらかろうじて謝罪を言葉にした。

「ご……ごめん……なさい……です……」


「涼介くん、よく謝れたね……はは、じゃあこれでお互いに……」

穏便に事を済ませたい、という先生の予定は残念ながら通すつもりはなかった。


「先生、涼介くんとは別の件でお話したいことがあります」

「そ、そうですか……じゃあ涼介くん、君は教室に戻っていなさい」

「はい……」


そういうと涼介という少年はトボトボと教室に向かって歩いていった。






残念ながらもう彼と二度と会うことはないだろう。


「先生、申し訳ないのですが彼のような生徒は私のクラスには相応しくないと思いませんか?」

そういい、私は先生の顔を見た後、小十郎の顔を見る。


先生は心なしか顔色が青くなりつつも答える。

「そ、それは彼をクラス替えしろ……ということでしょうか?」


私はわざと小十郎の方を再び見た後言った。

「そう聞こえましたか……まぁあとは全て彼に任せたいと思いますので

 先生とじっくり話し合ってもらいたいと思いますね」


作り笑顔をすると私は勝手に職員室を後にした。






教室に戻ると、私は無言で席に戻った。

横に座る北条薫は、まるで今さっき私がしたことを見透かすような視線を向けていた。

その顔には明らかに不満の色が見える。


「……貴方、あの子になにかしましたか?」と彼女が私に問いかける。


私はその言葉に少し驚いた。彼女が私に何を期待しているのか、全く理解できなかった。

「別に『私』は何もしていないよ」と、少しばかり誇張して返す。


彼女はその返答に対して、微かにため息をついた。

「……そうですか」と言いながら、彼女の表情は変わらなかった。

まるで私の行動が信じられない、というように。


私は彼女の反感を感じていた。

まるで私の行動が、彼女の道徳心を冒涜するような感覚があった。


故にそれ以上の言葉を発するのは憚られた。

なにかの下手な弁明をすることは。

これ以上にない絶対的な決別を意味してしまうように感じられたからであった。

細々とですが継続して書き続けていきたいと思いますので


良ければ評価やブクマをいただけると継続の励みになりますので


何卒よろしくお願いいたします。

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