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プロローグ

「魔王よ! コレで最後だ!」


 聖剣が俺の胸を貫くと、全身に激しい痛みと抗えない脱力感が俺を襲う。


 しかし痛みや死の恐怖よりも、やり遂げたという安堵感や達成感の方が強く、危うくガッツポーズを決めてしまうところだった。


 チートスキル持ちの俺がワザと負けるのも楽じゃない。この茶番劇が終われば、世界は救われるんだ。


 俺の前世は普通のサラリーマンだった。 


 ある日、暴走したトラックに牽かれそうになった白猫を助けようと車道に飛び込んだが、そのトラックに轢かれてしまった。


 平凡で凡人な俺でも、最後は良い事ができたと思っていた。きっと夕方のニュースは白猫を助けようと死んだヒーローとして報道されるんだ。悪くない。


 でも違った。


 白猫だと思って助けたのは、実は白いビニール袋だったのだ。それを異世界に転生させてくれた創造神に聞いた時には泣いたね。


 創造神は俺の事を気の毒に思い、自分の世界の勇者としてチートスキルとやらを手土産に転生させてくれると約束してくれた。


 だが何故か俺は魔族の王子として魔界に生まれてしまった。しかも勇者用と魔王用のスキルまでセットされてた。創造神に訊ねると凡ミスしたとのこと。創造神は想像以上にポンコツだったのだ。


 最初は良かった。チートスキルを使い、みんなにチヤホヤされて異性にもそれなりモテた。だが魔物だ。スライムやら昆虫にモテても嬉しくない。いやちょっとは嬉しいが、あいつ等は容姿が魔物なんだよ。


 人化?


 そんなに都合よく出来る訳がない。だって創造神はポンコツだからそんな設定を作ってない。魔物は魔物なんだよ。


 しかも娯楽がない。漫画もテレビもアニメもネットもない。


 自分で作って提供すればいい?


 そんなのダラダラ生きてきた一般人の俺に作れる知識や技術があるわけねーだろ!


 それで人恋しくて、人間界の人間に会いに行った時は大変だった。


 俺は魔王の息子で容姿は人間にしてみれば極悪顔だ。魔物にはモテモテでも、人間には嫌悪感しか持たれなかったんだよ。


 それでも慣れとは恐ろしいもので、俺はこの異世界をそれなりに楽しんで過ごしてきた。


 転生してから数百年経ったある日のこと、突然、創造神からお告げがきた。


 俺が魔王スキルと勇者スキルを持ってるせいで、因果律だの運命の理がどうのこうで、この世界が消滅の危機らしい。


 確かに不満だらけの異世界生活だったけど、それでもこの世界が好きになっていた俺は、なんとかこの世界を救いたいと思った。


 創造神に世界滅亡を救う方法を訊ねると、魔王と勇者が戦いどちらが、もしくはその2つが滅べばいいらしい。


 つまり俺のせいで世界が消滅しそうだから、俺が滅べば世界が救われるのか。 


 もうね。クレームの鬼と化したね俺は。


 俺は何一つも悪くないよな?


 そもそも創造神の凡ミスから始まったことだからね! 転生させてもらった恩はあるけど、もう一度言わせてもらうよ!


 あなたの凡ミスから始まったことだからね!


 まあ、グチグチ言ってても仕方ない。どうせ一度は死んでるんだ。


 転生前も含めて数百年も生きたし、ここは一つ滅んでやるか。


 だが、ここで問題が発生した。


 俺は勇者スキルと魔王スキルの制約で自決が出来ない。しかもこの異世界においては何者も俺を倒すことができないらしい。


 創造神に俺を滅してくれと頼んだが、創造神が直接的に破壊することはNGだそうだ。だからと言って破壊神を作れば、俺を倒した後に世界を破壊するだろうから無理だそうだ。


 因果律だの運命の理だのを含めて色々とアイデアを出した結果、創造神が俺を倒せる聖剣を創造し、それを人類に渡して倒されるのが一番いいという結論が出た。


 そこからも大変だった。


 まず人間側にやる気を出させないといけない。俺は平和主義者だ。魔物と人間の戦争なんて起こさせなかったから、わざわざ俺倒す理由が人間側にはない。


 次に人間は聖剣を使っても俺に致命傷を与えるほど強くない。俺の部下の魔物たちだけでも本気を出せば人類を3回は絶滅させられるほどの戦力差があるんだよ。


 そこから紆余曲折を隔ててさらに数十年、人間を鍛え、部下を説得し、悪役になりきり、今この瞬間を迎えた。


 今度こそ俺は本当に死ぬんだ。


 いい人生、いや魔生だったよ。


「この世界を救ってくれてありがとう。お礼に元の世界に戻してあげるね」


 創造神が現れてこう言った瞬間、俺の意識は消えた。

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― 新着の感想 ―
白いビニールだとやるせないですね〜。(苦笑)
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