表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cast Re:cord  作者: 落水彩
6/8

第5話

 冬夜の実家は俺の実家に近い場所にあった。

 とはいえ、田舎ゆえ徒歩でも自転車でも距離が遠い。車やバイクの免許は持ってないし、電車で行っても結局駅から歩く。少し交通費が嵩むがバスで行くことにした。

 あたりには青々とした木々が生い茂っている。相変わらず蝉はミンミンと鳴いているが、大学で聞く声よりも遠かった。

 冬夜の実家は一軒家だったが山奥にあるため、途中で何度もひなに連絡をした。

 汗だくになって家を見つけると、玄関先でひなが手を振っていた。


 挨拶をしようと「ご両親は?」と尋ねると「仕事で町の方にでています。」と返された。


 そして玄関のドアを開け、「どうぞ入ってください。」と俺を招き入れた。

「良かったらどうぞ。」とひなはトレーに乗せた冷たいお茶と和菓子を置いて


「じゃあ、私は席を外しますね。」


 気を利かせて襖を閉めていった。

 俺は仏壇の前で正座をし、りんをチンと二回鳴らして、手を合わせる。

 飾ってある遺影を見つける。成長した冬夜は爽やかな好青年に見えるが、無邪気な笑顔は今にも話をねだってきそうだった。


「……なあ冬夜、お前が俺の声が好きだって、話がもっと聞きたいっていうから、配信活動始めたんだ。お前に見つけてほしくて。内容も色々工夫したさ。何がつまらなかったんだ……? 八画面配信か?」


 膝の上の拳をぎゅっと握る。目頭が熱くなる。


「……なんで先に逝ったんだよ。」


 ぽたぽたとあふれる涙はとどまることを知らない。鼻の奥がツンとした。

 目を閉じて頭を押さえていると、後ろで人の気配がした。


「あの……つくしさん、先日こんなものを見つけたんですが……。」


 腫れた目で、ひなが手に持っていたものを見る。どうやらリングノートのようだ。使い込まれていたのか、紺色の表紙は傷だらけだった。


「兄が生前書いていた日記のようでして、ご覧になりますか?」


「……はい。」


 冬夜は何を綴っていたのだろう。純粋に気になった。

 ひなから手帳を受け取ろうとした。が、手を離さなかった。


「……本当に、読みますか。」


「へ?」


 ひなは眉毛を八の字にさせて、困ったような、気まずそうな顔をしている。冬夜の直筆の日記だ、読みたいに決まっている。


「……見せられないようなこと書いてあるんですか?」


「いえ! ただ、つくしさんが傷つくかもしれないです。」


「あー……。それなら、きっと大丈夫です。」


 一呼吸置いて「多分。」と付け足す。そこまで心配されるとだんだんと不安になってくる。

 「それなら。」と渡された手帳を開く。

 ページをめくると日付と一日の出来事の他に、俺の配信内容や感想などが細かく書かれていた。


『7/25 今日はお医者さんに余命宣告をされた。半年らしい。三日坊主の僕だけど、頑張って日記をつけようと思う!』


『7/28 動画配信サイトで自動再生していたら、つくしの配信が流れてきた! 話し方も笑い方も変わってなくて安心した。つくしって名前で活動してるのもなんだか嬉しい。』


『7/29 初めての投稿から見直している。相変わらずのトーク力。少し低くなってたけどつくしの声と、あと話し方が好き。』


『8/5 リアタイして、初めてスパチャする。つくしにバレないように匿名で。』


 冬夜に見つけてもらえてたことも、俺の配信について記していたことも嬉しかったが、同時に照れくさくなって手帳を閉じてしまいたかった。ひなが心配するような内容は、今のところ見当たらない。

 しかし、ページをめくっていくと、称賛の声ばかりでもなくなっていった。


『12/4 いつも楽しみにしている雑談配信がつまらなかった。なぜだろう。』


『12/7 八画面でゲームの実況をしてた。内容は置いておいて、なんだかつまらない、というより寂しく感じた。』


 寂しい……? 何で……?

 八画面配信。パソコンのモニターに八つのゲームを表示させて同時に攻略していくという配信。人気があるフリーゲームを選んだので、あの日は画面もコメントも賑やかだった気がするが。

 その先も俺の配信に対する不満の声が続いた。

 何枚も何枚もページをめくる。めくる。すると、ある一文が目に止まった。


『こんなに近くて遠いんだ、つまらないに決まってるだろ。』


 このページには日付は書かれていない。

 掠れた字には、冬夜の本音が綴られていた。

 文字を指でなぞると水滴が落ちて乾いた跡に気がつく。


『昔は同じ病室で、カーテンを開けたらすぐそこにつくしがいたのに。』


「冬夜……。」


『でも、つくしは楽しく配信を続けてるようだし、僕がわざわざ関わりに行く必要もないかな。こっそり覗くことにしよう。』


「違う、俺は、お前に見つけてほしくて……。」

『僕が話したくても、こんな体じゃ心配させちゃうだけだし。』


 言えばよかった、俺が配信を始めた理由を。


『でもやっぱり話したいな、会いたいな。』


 小さく隅っこに書かれた本音。


「俺だって、会いたいさ。」


 どんな姿でも構わない、会って話がしたい。また昔みたいに笑って欲しい。でも叶わない現実にやるせなさを感じる。

 この日を境に、俺の配信に対するネガティブな感想はなくなった。


『1/25 宣告から半年経った。まだ生きているみたい。でも鏡をみると、自分かわからないくらいやせてた。』


『2/13 起き上がるのすらしんどい。でも、つくしの声を聞くとなんだか安心する。』


『3/3 夕飯はちらし寿司だった。いつもの半分しか食べられなかったけどおいしかった。ひなまつり配信って何笑』


 ページをめくるごとに筆圧が薄くなっていく。細かく記された病状の辛さは、きっと俺には想像できない。


『3/15 少しずつあたたかくなってきた。もうすこしでつくしの配信活動も一周年。今年は桜見れるかな。』


 次のページは白紙だった。手帳を閉じ、膝の上に置く。

 冬夜に会いたくて始めた配信活動。話や声が好きだと言ってくれたことが素直に嬉しくて、自分の長所だと思えるようになった。他のリスナーなんてどうでもいい、ただ冬夜にだけ届けばよかったのに。初めから配信の目的を話すべきだった。配信者として最低な考えだということはわかっている。でも、このやり場のない思いをぶつける手段がなく、こうしてやけになるしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ