第四話 記憶
注・本作は、残酷な描写が含まれています。
15才以下の方は閲覧を控えることを推奨します。
教頭先生の転移魔法により、俺は寮へと飛ばされた。
「イテテ…」
「あら。いらっしゃい。」
目の前にはカウンターがあり、おばあさんが座っていた。
「ええっと、レンド・フレーンさんね。はい、108号室のカギ。
108号室はここをまっすぐ進めばあるから。」
「あ…どもっす。」
「すげぇ…」
思わず声が漏れた。
俺は部屋に入って興奮状態。
何せ、初めての一人暮らしだ。ずっと憧れていたんだ。
一通りの家事は前世で覚えている。
この世界は優しそうな人だらけだ。
みんな平和に暮らしている。
前世…か…
俺の前世…渡世友輝という名前だった人間の一生。
俺は父さんと母さんが大好きだった。
元々あまり仲の良い夫婦ではなかった。愚痴を言いあったりはぶつかって、
時には大声を出して威張り散らしあっていたそうな。
でも、その日は違った。いつものように喧嘩し始めて…
「父さん…どこに行くの?」
「…ご…うき…」
父さんは何か言っていた。でも聞き取れなかった。
そして、父さんは二度と俺の前に姿を現さなかった。
父さんは大酒飲みで、どうしようもない人だった。
母さんに愚痴ばかり吐き、ろくに俺の世話もしなかったらしい。
でも母さんも、結構奇抜な人だった。
いつも派手な格好をする人だった。
でも育児放棄はしない主義で、そこは守ってくれたおかげで今の自分はある。
俺は学校では平凡だが、家の中はあまりいい気はしない。
ゲームも父さんが出て行ってからは使えなくなった。
共働きでやっとだった家計も、父さんの分がない今、母さんだけの賃金では生死が危うい。
オンボロアパートに住み、一日一度しか粗末な食事を食べられない。友達もそこそこいるくらい…
それが、俺の平凡だった。
でも、だからこそ、困った人は助けられずにはいられない。
俺とおんなじ思いをしてる人かもしれない。
こんな思いはさせたくねえ。
でも、この世界にきて分かったことが一つある。
智花の存在だ。
幼馴染だから…というわけでもなく、友達として普通に接してくれた優しい人。
もし、俺が向こうの世界で解視を使えるようになったとしても、智花は
使わなくてもわかる。優しい人なんだって。
よく俺に焼いてくれたあのうっとおしかったお節介も、俺のボケに対するツッコミも、
俺に向けてくれたあの優しい笑顔も。
全てが恋しい。
あいつがいなければ、俺はやべぇ奴になりかけてたのかもしれない。
あいつと一緒に…帰らなければ…
あそこに…あの車が突っ込んでこなければ…
あいつは…巻き込まれなかったのに…
ふと、気が付くと、俺は前世の制服姿で交差点のど真ん中に立っていた。
周りを見渡すと、モヤっとしているが街の真ん中のようだ。そばには横転したトラックがある。
「気が付いたかい?」
横転したトラックの上に、誰かが座っていた。
「やあ。レンド君…いや、この際は『友輝』と呼ばせていただこうかな。」
誰だ?俺の前世の名前を知っている?
「私は君に宿るもう一人の人間のようなものだ。ここは私が、君の記憶から再現した領界。」
そこには、妖艶な雰囲気に身を包み、ローブを着た美しい女性がいた。
この人…強い…いや、そもそも人かさえわからねぇけど。っていうか魂ってどういうことだ?
「私は…君の新しい体、レンド・フレーンに宿った。」
な…こいつ…俺の心の中を読んでいるのか?
「…初対面に”こいつ”はひどいんじゃないかい?まあいいや。君なら許せる。
そうだよ。思念体のような物だから君の心も読める。だから声に出さなくても君が私に聞きたいことは分かる。」
「じゃあ、宿っているとか言ったが、名前とかあるのか?あんたのことなんて呼べばいいかわからないし。」
「声に出さずともわかるって…まあいい。名前…か。”フローラ”とでも名乗ろうか。」
「…そうか。」
「ハハハ。堅いね。」
「あんたも死んだ身か?」
「ああ。だからこうして魂となって君の元へ来た。いくらこの私といえども、
この世界とは違う異なる世界があるなんて想像もできなかったよ。」
「これは…夢じゃないのか?」
「いや、本当に存在する世界だ。私たちの世界も、君が元居た世界も。これは確かだ。」
そうなのか。本当にあるのか。
…
…戻りたい。
全てが元通りの、あの日常に。辛くても、幸せを感じていたあの場所に。
「…これからどうしたい?レンド・フレーン…いや、渡世友輝。」
「どうするって…どうすればいいんだよ…」
「その子を…見つけたいのではないかい?」
…?その子…?
「忘れたのかな…?ほら…そこにいる子…」
フローラさんは俺の後ろを指さす。
そこには、智花がいた。
制服姿の、事故にあう直前の恰好で目の前に立っている。
もう俺の感情はぼろぼろになっていた。
触れたとたんに、”それ”は砂状になり、目の前にパラパラと落ちる。
「見つけるって…なんだよ…」
俺の瞳には、涙が浮かんでいた。
「君は、本当はこう思っているんじゃない?君自身は思っていないかもしれないけど、
君の心の中では強く求めている一つの可能性だ。」
『本当は、…|天望智花(てんもちともか)は自分と同じく、この世界のどこかにいるんじゃないか…という可能性を…さ…』
何言ってんだよ…?智花がこの世界のどこかにいるだって…?何ふざけたことを言ってるんだ…
「よく考えてみろ。君が”この世界”にやってきたのも、その一つの可能性があったからじゃないか。」
その瞬間、俺は分かった。そうだ。そうじゃないか。
俺が”この世界”にやってきたのも…
”異世界転生”を果たしたから…
だとしても、そんなことがあり得るのか?
智花も…俺と同じで転生を果たし…この世界に魂が存在するということが…?
「信じてみる価値は、あるんじゃないかい?”レンド”君。
…別に、君がこの話を信じずに、そのままでもいいというなら私はこのまま消えてもいいんだよ…
私は君が何を選択しようと構わない。」
そう言いながら、なぜか彼女は今にも泣きだしそうな顔になっていた。
だが、俺も助けたいという気持ちは同じ。
「…分かった。やってやるさ。」
「君ならそう言ってくれると思ったよ!」
あからさまに嬉しそうな顔をしている。その顔も、どこか懐かしかった。
「よし!契約を交わそう。」
「は…?契約…?」
「私は君の命の危機の時にだけ、力を貸そう。その代わり…条件もある。」
「条件は何だ。」
「二つある。一度助けたら、しばらくは助けられない。そして…
必ず、私のことを忘れないこと。」
「は…?それってどういう…」
「フフッ…簡単でしょ?私のことは…はずだから…まあ破れば君も死に、私の魂もこの世から消える。」
一部聞こえなかったが、まあいいだろう。
「まぁ…いいよ。」
別に条件は俺にとって悪くない。
この人の力がどれだけ強いかまだ未知数だが、心強いのは確かだ。
「それじゃあ…契約成立ね!
そろそろだ…私と話したければ、またこの場所に来るといいよ…」
今日の、魔術図鑑!
今日はコレ!「転移!」
説明不要なくらいわかりやすい魔術だが、一応説明しておこう!
物体を瞬間移動させることのできる魔術だ!
高ランクの魔術師は覚えたほうがいい技の一つとして認知されている技だぞ!
とにかく移動が便利で、100km離れた先でもテレポートできるぜ!
それじゃあ、次回もよろしくなッ!