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ポンニチ怪談

ポンニチ怪談 その66 ある宴

作者: 天城冴

ニホン国元ジコウ党会館でいま、まさに宴会が開かれようとしていた。ニホン国中から集まった人たちが歓談してたが、その後ろの議員たちは…

ニホン国、元与党ジコウ党会館。

初夏の満月の下で、宴がはじまろうとしていた。

壁が取り払われ、大空間となった一階のフロアには細長いテーブルがおかれ、白い敷物の上にはいくつもの料理が並べられていた。

「おお、これはイチゴか、昔と比べてかなり小ぶりだが、確かにイチゴだ。キイチゴも熟せばうまいし、ソメイヨシノの実も不味くはないが、やはりイチゴはいいよなあ」

「あら、こちらにはエビ…にみたてた、山芋の揚げ物ですか。でも、手がこんでいて、それなりに美味しく頂けそう」

「なにしろ、物がないですからねえ。まあ、以前から値上がりに円安も加わって、輸入なんてとてもできないから。それでも、美味しいものは食べたいんで工夫しましたよ。衣なんて、おからを乾燥させたものですからね」

と、料理に目を輝かせる人々の後ろで

“なんだ、あんな貧乏臭い料理”

“刺身も日本酒もないとは、なんて貧相なんだ”

“まったくです、アベノ元総理とご一緒した銀座のお寿司が懐かしいですわ”

と、スーツ姿の男性や着飾った女性たちが料理に文句をいっていた。その中には議員バッチをつけたものも。

それでも、腹が減っているのか、テーブルに近寄ろうとする男性。だが、なぜか、一歩がふみだせない。

“ああ、前の奴が邪魔で前にいけないのか。庶民どもをどかせられないか”

「こういう宴席そのものが久しぶりだよ。首都に来ることだって、久しぶりだからなあ。何日もかかるし」

「そうなんですよね。ガソリンがないから、車もロクにうごかせないし。それでも、残った電力施設でなんとか電気自動車は使えますが。ソーラーパネルをかき集めてなんとか。最近は、荏胡麻やら古い油でのディーゼルカーが主役ですけどね」

「それだって、前みたいに一日では、無理ですよ。食糧の確保が最優先。ああ、こんなことになるとはね」

「って、そんなことわかっていたでしょ。ニホンは地震列島で、一か月の間でニホンのあちこちで地震起きてた。だから、食料の貯蔵とか、防災への備えとかにお金を割けばよかったのよ。ウイルスだって収まったわけじゃないのに、もう大丈夫みたいな感じでジコウ党の大臣とか御用学者とか、変な女子アナが言っちゃったから」

「まったくだ、ひどい奴らだった。あの年は前から値上げが続いたし、天気は変だったし、家畜のウイルスも流行ったし、作物が不足するのはわかってたのに。軍事費がーって食えなきゃ終わるっての、だいたい仮想敵の隣国から食料やら薬の原料を対象に輸入してたんだから、大笑いだ。マスクだって隣国からの輸入がとまったらすぐ不足したのに」

「そうそう、だいたい、あいつらが選挙に当選したいがためにハン国本国でも嫌われてるカルトに傾倒して、ニホン国民のためになる政策を全部潰しやがったんだ。ジコウ党議員どもはどいつもこいつも自分と能無しの息子どもが贅沢したいために無茶苦茶やりやがって」

「そうですよね、国民に大勢で集まるのはまだ、とかいいつつ大懇親会とか、開いてたんですよね。この会館で。子供食堂とか、大人食堂までできて、食えない人がいるってのに。銀行強盗して刑務所入った方がマシって、先進国かよって状況を本気で改善なんかしないで、ひとりよがりの政策でお茶を濁して」

参加者たちの会話の内容は、いつのまにか前政府ジコウ党の大批判になっていた。

“な、何をいいだすんだ、こいつらは。トン一協会との関係のことは沈静化したし、改憲とかも賛成派が、だいたい、なんでこんな一般人がこのジコウ党会館にいるんだ”

“党員としても、こんな粗末な身なりのやつらを追い出せ!”

後ろの男たちの声など全く無視して客たちは歓談していた。

「それによ、国民にはコオロギ喰った方がいいって、昆虫食を無理やり進めてたんだぜ。エビとかのアレルギーの人は死んじゃうんだろ、おんなじアレルゲンとかがあるから。ひでーよな、自分たちは新鮮な肉とかを輸入しようとしてたくせに、しかも国民の金でよ」

「で、こんな豪華な建物維持してたのよね。駅前の高級ホテルとか銀座の料亭とか、もうとっくの昔に廃墟だけど、地震で。銀座のママさんだかが、地方で議員になったんだっけ、その直後にアレで、下敷きになって悲惨だったけど、全然かわいそうなんて思えなかったわ」

「むしろ、いい気味とかおもっちまったよ。だって、地震やら他の災害で俺らが苦しんでるのに、対策と称してここに集まって、たらふく喰って寝ていやがったんだぜ、あいつら。西のメイジのやつらも。あいつらは埋め立て地の豪華ホテルに逃げたけど、余震でホテルの下敷きになったらしいな、マスコミ連中と一緒に。警告してた京大の先生の言うこと無視したから自業自得だけどな」

「それでも、ジコウ党は動かなかったんですよね。まあ、この建物が頑丈だったからさ、あのトンキン大震災でもなんとか耐えて、でも、そのせいで…」

「あ、新首相がでてきた」

ドアに注目する人々。後ろの身なりだけは整った連中は

“新首相だと、そんな、キジダダ総理はそのまま留任していたはず。それに、なんで誰も気が付かないんだ、普通、席をゆずるだろう。俺はジコウ党のニシダダだぞ、党の幹部なんだぞ。新聞にもテレビにもでてるのに”

“そ、そういえばジコウ党会館なのに、党の許可もえずに壁を取り壊して、しかもカーペットが汚れたままなんて、清掃員は何をしてるんだ。宴会にコンパニオンとかいないし…。政府付きの記者とかは…一体”

困惑している彼らを気にも留めず、人々は新首相の話に耳を傾けていた。

『お集りの皆さん、ニホン国復興の祝いに全国からお集りいただきありがとうございます』

古びた背広をきた髭面の男性が、大声で人々に向かった話始める。

『202X年の複数回の地震に、新型肺炎ウイルスの第10波、そして増税に次ぐ増税そのほかもろもろの被害によりニホン国は壊滅的な被害をうけましたが、皆さんの努力で復興の道を歩み始めました』

「いーぞ、ヤマダノさん、新政府首相!」

「あんたらや、シイノさんたちのおかげだよ、なんとかニホン国が立ち直ったのは」

“いえ、皆さんニホン国民の努力のお陰です。ご存じのように旧ニホン政府と与党議員や支援者、財界の面々が首都で全滅したのち、大混乱に陥るところでした。私たち残った野党で新政府を急いで立ち上げたのを、ニホン国の皆さんが支持してくれたおかげです』

ヤマダノ氏の言葉に

“全滅だと…、そんな我々が、ニホン国与党の、この国のトップが…”

動揺するジコウ党の議員や支持者たち。ぎゃあぎゃあと喚くのは、ガタヤマ議員、ダカイチ議員といった女性たちやマスコミ関係の女性たちが、離れた場所で元野党の悪口を言い合っていた。その中で

“う、嘘だ!や、ヤマダノめ、馬鹿なことを!”

ニシダダ議員が人々を押しのけて、ヤマダノ氏のところへ行こうとしたが、

“あ、足が動かん”

そばの作業服の男性の肩を掴もうとして

スカッ

手がすりぬけた。

“わ、儂の手がせ、背中を通った”

“も、モノが触れない、か、体も透けてるわ。まるで幽霊”

“ま、まさか、俺たちは、も、もう、こ、この世には”

“ば、馬鹿な、誰か助け、そ、そうだ米国は、トン一協会の連中は!”

動揺するジコウ党議員ら。

彼らの姿に気にも留めていなかった人々だが、気配を感じたのか

「祝いの席だけどさ、アイツらが死んだここで、やったのは、不味かったかなあ。だって、飢え死にしてさ、挙句の果てに」

「発見されたとき、悲惨だったよなあ。ネズミどころか、ゴキブリ口にしようとして、逆にさ…、オマケに」

「オオイズミさんの息子さんとか、モンリさんのお孫さんでしょ。まさか、ねえ、自分らの子供を…」

「自分のことしか、考えないアイツららしいよ。そこまでしたのに、全員結局飢え死にってのは、ある意味笑え…笑えないよな、あの歯形のついた子供の骨を見ちまったら」

「ああ、片付けに来たんですね、相当ひどい有様だったそうですねえ。それにしても、首都はほぼ壊滅状態だったのに、なんで逃げなかったんでしょうね、彼らは」

「まあ、なまじ頑丈たったから、ここを離れなかったんだろ。懇親会だとかやってたから、大勢集まってたし、水も食料もあったし、大宴会だったんで、その料理の残りとかもあったらしいし。それに逃げたら、地震の被害が相当深刻だったてのに、宴会してたのがバレちまう。さすがに非難ごうごうだろ」

「参加してた新聞社や、大企業の幹部たちもね。ニホン国中食糧不足、物資不足だってのに、豪勢に飲み食いしてたら、さすがに国民も怒るでしょうよ、隣国からの支援物資すら横流しして開いてたんですから」

「だいたい全国のあちこちで、被害が出ていて、どこもかしこも人手が足りないってのに、ジエータイとか警察が最優先で助けてくれるって思ってたらしいからな。スマホがつかえなくなっているって、しかも警察の幹部連中もかなり死んでるのに、知らずに怒りのメールを送ろうとしてたらしいな」

「ホント、地震で通信網がやられるのはわかりきってたのに、緊急事態どうのこうのって言ってたくせな。まあ、国民さしおいてジコウ党のお仲間だけ、いい思いをしてきたし、大被害が出てもそうしようとしたんだから、自業自得だろ。マイマイナンバーカードの情報が滅茶苦茶だったから、首都から避難してたんだろうってみなされてたし」

「懇親会がバレたくなくて、カードの情報書き換えたんだろ、マスコミや財界連中もな。だから、米軍だって、トン一の連中だって探しに来なかったんだろ。ま、トン一の奴らはとっとと米国に逃げて、散々叩かれてるけどな。だいたい高層ビルが倒れて、中心部、ましてや議員会館とかには、行けなかったし環状道路の内側は誰も助からなかったって噂だったが」

「普通の会社員とかは、だろ。ま、いわゆる上級国民の奴らも高層マンションで頑張ろうとしたらしいけど、食べ物も水もないしねえ。ニホン国守るーって、ミサイルは食べれんのよ」

「輸入に頼って、飽食してた奴らが、共食いまでして挙句に餓死か。…そんなところで宴会やって大丈夫かな」

「大丈夫っていうか、逆に見せつけてやりたいぐらいだろ。なんたって、アイツらのせいで直接、間接的に死んだ人、飢えた人、苦しんだ日がが何千、何万人もいるんだ、腹を空かせて苦しんでる気持ちを味わえばいいや」

「そうだよな。ニホン国の入管に殺された人や支援者を揶揄した、あの女みたいに」

「ああ、あれですか。メイジの党の議員で逃げ延びて、アジア諸国に助けを求めようとして、袋叩きにあったあげく、魚のえさになったっていう。確かに自業自得ですよね、ニホン国の犯した罪を究明するどころか被害者や支援者のほうが悪いって言ったんですから。相手の人権を無視するような言動すりゃ、わが身にいずれ帰ってきます、当然の報いですよ」

「そうそう、だいたい、こういった田舎料理なんてお気に召さないんだろうからな、お偉い連中は。気にせず楽しもう」

目の前の出来立ての料理をつまむ人々。

その後ろで動けず、聞こえない愚痴を言い続けながら、料理と人々を食い入るようにみるジコウ党議員たちや取り巻き立ち。

”か、勝手なことをいいおって“

“は、腹が減った。田舎料理でもいいから”

“しょ、庶民ごときが儂らを差し置いて…”

自戒どころか、反省も、後悔すらせずに、孫、子や仲間まで食い合うという醜い争いで死んだ彼らは、恨めしそうにその宴の場所にとどまっていたが、新ニホン国民たちは誰一人として気が付かず、新たな希望を胸に、国の再生を祝っていた。


どこぞの国では、もう痛い目に遭ったかを忘れたかのように宴席だのやってますが、地震他災害でじわじわと報いが来ているようですねえ。まあ、忘れっぽい人が多くても、覚えてるところはおぼえてますしねえ。いい気になって身内うけの?な発言をしている方々も、よそでバレていないと思っているのは甘いと思いますよ、ホント。

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