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第6話  そして旅立ちへ……

流石に物語が進んでないなと思ったので、予定を変更しました。

キンクリ(分からない人はグーグル先生に聞いてくださいね)発動した部分は、その内描きます。

 物語には冒険ものという枠組みがあり、その中には旅立ちという極めて重要な要素が含まれている。

 単に旅立ちといっても、色々な種類があるだろう。希望に満ち溢れた旅立ちもあるだろうし、逃亡などに例えられる悲劇的な旅立ちもあるだろう。

 だが。

 いざ旅立とうとする人間が、ここまでボロボロの状態になっている物語は、そうそうないのではないかと思うのだ。HPゲージがあるとすれば、赤に染まっている状態。

 つまり、


「すごく……具合悪いです……」


 この一言に尽きる。ゲザさんの剣術修行、ミラの魔法修行、おまけに文字の勉強を毎日受けていた俺の身体は、とても今から旅立つとは思えないほどボロボロだった。

 簡単に言ってしまうと、『もうやめて!俺の体力と精神力とその他諸々はゼロよ!』という感じ。

 とはいえ、このまま自分の部屋に留まっているわけにもいかない。ミラは既に約束の場所で待っているだろうから。


「痛いなぁ……!」


 未だ慣れない肉体強化の代償――重度の筋肉痛に顔をしかめながらも、俺は出発の準備を整える。


 ――まあ、何もないんだけどな。


 大体の準備は昨日の内に済ませてある。今から持っていくとすれば身の回りの小物程度なのだが、あいにく俺にはその手の物を持っていない。強いていうとすれば、今までその存在をすっかり忘れていた鞄程度のものだろうか。

 持っていくか、置いていくか。僅かの思考の末、持っていくことを選択した。


 ――若干かさばるけど、もしかしたら役に立つかもしれないしな。


 異世界に召喚された主人公が、身の回りの物を売って資金を手にするという物語はよく見かける。

 一見、価値のありそうな物は入っていないが、何がうけるか分からないからな。もしかしたら、売れば資金の足しになるような物が入っているかもしれない。






 俺の考えは杞憂に終わった。ゲザさんに資金の入った袋を手渡されたからだ。

 ズシリと重いその袋は、中に大量のお金が入っていることを物語っていた。チャリチャリではなく、ジャラジャラという音が中から響いてくる。

 資金難という言葉からは逃れられそうだが、しかしこうも袋が重いと逆に不安になってくる。俺はゲザさんに、袋の中身について聞いてみることにした。

 

「ゲザさん。この袋の中身は、いくら入っているんですか?」

「金貨が百枚程度でしょうか?」

「…………」


 一瞬、思考がフリーズしてしまった。

 ええと、日本円を元におおよその換算をすると、紙幣が一円。銅貨が百円。銀貨が千円。金貨が一万円だから……。

 ……。

 ひゃ、ひゃくまんえん?


 ――絶望した!あまりのリッチさに絶望した!!

 

 こんな簡単に、ぽんと出るものなのか?お金って?

 一応ここも一つの国ではあるし、俺はともかく魔王が旅立つのだから、分からなくはないんだが……。

 それよりも、例えば兵士達の武器を購入したり、村人の農具を買い替えたり、村の規模を広げたりと色々と用途はあると思うんだが……。

 そのことをゲザさんに伝えると、


「ああ、兵士は魔法を使うので武器は最低限の物で十分ですし、村人の方々も魔法を扱えば農具なしでも畑仕事できますし……」

「魔法って便利だねー」


 思いっきり、出来る限りの棒読みで返す。

 人族では魔法を扱えるというだけで相応の地位に立てると聞くが、それも分かる気がする。便利すぎるだろ、コレ。

 だが、ゲザさんの顔に表れたのは苦笑の表情だ。


「まあ、便利ですが……。そのおかげで、私達魔族はこのような辺境に追いやられているわけでして……」

「あ……」


 失言だった。皆の笑顔で忘れがちだが、魔族は『追放された種族』だった。

 普通の人よりも魔法を上手く扱えるということが迫害の理由の一つである以上、魔法をただ便利の一言で括ってしまうのは、彼らにとっては失礼に当たるのかもしれない。

 魔族の人にとって魔法とは、便利な存在であると同時に、忌むべきものの一つであるかもしれないのだ。

 その考えに至った俺は、素直にゲザさんに謝る。ゲザさんを通して、魔族の人達全てへと謝るように。


「すみません。今の発言は軽率でした」

「いえ、そこまでされなくても……。実際、便利なものですからね、魔法は」


 このように、と言ったゲザさんは次の瞬間、手を地面に突き込んだ。ズブッという音と共に、手が更に奥へ奥へと……。


 ――はっ?


 意味が分からない。これが魔法だという事は今までの会話の流れで分かるが、その意図が分からない。


「ああ、驚かせてしまいましたね。これは私の固有魔法でして、名を影繰りと呼んでいます。このように、影をある程度でしたら操ることができるんですよ。今は、別の空間の影に繋げているわけですね」


 説明してくれるのはありがたいんですけど、ゲザさん。俺が知りたいのは何をやっているかではなくて、何故そんなことをやっているかなんですよ。

 呆然とその光景を眺めている俺を余所に、ゲザさんは尚も手を動かし続けている。どうやら、何かを探しているようだが……。


「お、ありましたよ?」


 そう言って、彼は右腕を引き戻した。その手の先には、突き込む前には握られていなかったはずの何かが握られていた。

 いや、何かじゃないな。あれはまさしく、


「剣、ですか?それも二本……」


 ゲザさんの手に握られていたのは、二本の剣だ。鞘の上からでも、訓練で扱っていた物とは明らかに違うと分かる。

 派手ではなく、むしろ武骨な黒い鞘に収められているその二本の剣は、しかし圧倒的なまでの存在感を放ってくる。

 初めて相対した時のミラを思い起こさせるそれは、まさに名剣然とした迫力を纏っていて、


「これは……さぞかし凄い聖剣なのでしょうね」

「ええ。名前は存じませんが、そこそこの力を持つ魔剣です」


 ――魔剣でした。本当に見る目が無いな、俺は!

 ヤレヤレと思いつつ、この剣はどれ程の価値があるのだろうかと考えていると、ゲザさんはその二本を手渡してきた。


「どうぞ。旅の餞別です」


 餞別ってレベルじゃねーぞ!

 黙って返そうとする俺の手を、ゲザさんは止める。


「遠慮はいらないですから、持っていってください。その剣ならば魔法塗装にもある程度は耐えられるでしょうし」

「ですが……」

「このようなことを言いたくはないのですが、今のショウ様では、魔法塗装無しで戦って生き残れるとは思いません」

「…………」


 尚も食い下がる俺に、ゲザさんは現実という名の切り札を翳した。

 それを言われると、俺はもう何も言えない。俺の力が足りないのは事実だから。


「――分かりました。ならばこれは、ありがたく受け取らせてもらいます」


 だが。

 そのまま引き下がるわけにはいかない。

 固有魔法を取得して、俺は気づいたんだ。

 俺は、才能――力への強い渇望があるのだということに。もっと、強くなりたいと思っているのだということに。

 モブキャラと言われてヘラヘラ笑っていた俺を、自身が変えたいと願っていることに。

 ならば、意志の赴くままに変わりたいと思う。変わらなくてはと思う。

 だから、


「この剣は、ありがたく借りていきます」


 そう言った。言外に、「これ無しでも生き残れるだけの力を手にした時は、これをお返しします」という言葉を含ませながら。

 これが、現状で出来る最大限の譲歩。

 力を持たない俺が、しかし現状に甘えないように、更に強くなるようにと誓った言葉。

 誓い主は俺、誓いの相手も俺。見届け人はゲザさんだ。

 果たして、俺の心の中で勝手に見届け人として立てられてしまったゲザさんは、しかし俺の意図を読んだのか、ニコリと笑顔を向けて口を開いた。


「ええ、それではショウ様にコレをお貸ししましょう。いつか、返しに来られることをお待ちしております」


 全くもって、出来た人だと思う。






 あんなことを言ったわけだが、やはり借り物とはいえ業物を手にすると気分が昂揚することには違いなく。

 ミラが待つ馬車の元へと向かっている間、俺はウキウキしてばかりだった。こういう気分って、何歳になっても変わらないと思うのは俺だけか?


「うわ……!」


 試しにと鞘から抜き出してみると、まずはその刀身の美しさに言葉が零れおちた。

 鞘の色は等しく黒、形状も片刃の直刀と同じ。鞘上だけからならば見分けがつかないその二つの剣は、抜いてみると誰もが分かるほどの違いがそこには示されていた。

 片方は触れたものを跡形もなく燃やし尽くしそうな炎の赤、片方は全てを凍らせかねない氷の青。色彩以外は全て等しい造形であるはずの双剣は、しかしその色彩だけで互いとの違いを、己個人の存在感を存分に撒き散らす。

 

 ――やばい。これは興奮する。


 剣を鞘に納め直した後も興奮冷め止まぬ俺は、隣を歩くゲザさんに話し掛けた。


「こんな色をしているくらいですから、もしかして炎や氷の魔法が封じ込まれていたりとかは――」

「ありません」

「ですよねー」


 まあ、そんなに上手く話しが進むわけがないか。……いや、この剣を貸して貰っただけでも十二分に美味しい話なんだけどさ。






「遅い」

「ごめんなさい」


 開口一番がそれかよ。もう慣れたけどさ。


「よいしょ」


 馬車の前で待ちくたびれていたミラが尚も続けてくる文句の言葉を軽く流し、俺は馬車へと乗り込んだ。

 俺達が乗るのは普通の馬車だ。貴族が乗るような無駄に豪華な馬車でもなければ、荷車を引く馬が黒王号であるわけでもない。

 『特に目立つ所のない、平凡な』馬車だ。何故か親近感すら覚える。

 この旅の目的を考えれば、それも当然のことだろう。俺達の目的は人族と魔族の共存。俺達の役割は、潜入役。

 俺は昨日の打ち合わせで話し合った内容を思い出す。俺とミラ、ゲザさんの三人で行ったそれの内容。

 ……。

 …………。


「――よし」


 再度、内心で確認を終えた俺は、静かに呟いた。

 不用意に目立つことは許されない。俺達が演じるものは、出自不明の人族。

 このご時世、身元が不確かな人間など珍しくもないらしい。ならば、後はどうにでもなる。どうとでも出来る。

 そうとくれば、実行に移すだけだ。


「まあ、穴だらけの計画なんだけどな」


 なにせ、情報が少ない。いや、少なすぎるのだ。

 国交を結んでいない――どころか、お互いを敵視し合っているのだから仕方がないのだが、この国には人族の情報がほとんど無かった。

 唯一の情報源が、たまに村で収穫した作物を行商して歩く、魔法で人族に変装した魔族が聞く噂話だけだというのだから、救いがない。

 大陸の地図が城になければ、この旅を投げだしているところだった。


「――やるしかないか」


 二人で使うには広い馬車内部を眺めながら、俺は言葉を吐き出した。

 なんとかしなければならないと思う。

 なんとかなるだろうとも思う。

 俺達が考えているものは、とてつもなく稚拙で壮大な計画だ。

得ている情報などほとんどない。計画は穴だらけ。だのに、最終目標は大きい。成功したならば、アメリカも真っ青のサクセスストーリーになるだろう。

 俺だけならば、決して成しえない計画だ。

 だが。

 幸いなことに、これは一人旅ではない。性格には多少の難があるが、実力は十二分に備わっている相棒が、この馬車には乗っている。

 最も、俺自身の方が、相棒足り得ているかという疑問は尽きないが。

 

「まあ、頑張ろうぜ。俺も、出来る限りのことはやるからさ」


 今は手綱番をやっている相棒の背中へと声を向けた。この言葉が、ミラに聞こえたかどうかは分からない。

 だが、それでもいいと思う。

 今の言葉は、俺の決意表明だ。口にすることで、これから始まる冒険への恐怖を捻じ伏せる。


「ふぅ……」


 ごろんと横になり、荷車の天井を眺める。そろそろ、出発だろうか。

 仕事が残っていますからと言って、ゲザさんも城へと戻っていった。

 俺達の目的は村の人達にも内緒だから、当然、ここにいるわけもない。城に残るゲザさんが、俺達は行商に出かけたと伝えるだろうから、俺達の旅を心配する者もいないだろう。ミラの戦闘能力も、擬人能力も、他の人とは遥かに飛び抜けているからだ。

 ゲザさんと一緒に旅立てないのは残念だが、ミラが旅立つ以上、村の事を安心して任せられるのは他にはあの人くらいしかいないからな……。


「俺達のやろうとしている事を、村の皆に伝えられればいいんだがな……」


 内容を伝えるには時期が早すぎるとはいえ、村人を騙しているようで胸が痛い。


 ――いや、違うな。


 実際に騙しているのだ。


「……ふぅ」


 決意をしたばかりだというのに、自然と溜息が出てしまう。抑えつけたはずなのに、次から次へと自分の弱い心が顔を出してくる。

 ヤレヤレという俺の呟きと同時に、馬車はゆっくりと進み始めた。

 誰も見送らぬ旅立ちだ。朝だからだろうか、未だ静かな魔王城と村の光景は、軟い震動と共にゆっくりと遠ざかっていく。


「……あっ」


 気付きの言葉が漏れたのは、それからしばらく経ってからのことだ。城は視界の隅で、すっかり小さくなった姿で映っている。

 未だ横になったままの姿で、俺はミラへと視線を向けた。

 ……もしかして、魔王に手綱番をさせた人間って、俺が初めてなんじゃあ……?






 私が魔法を覚えたのは二十歳の時。それはとてもブラッディで、濃厚な修行でした。

 だというのに……。


「どうして、通じないんだよ!」


 旅立ってからしばらくの後、俺とミラは一匹の魔獣に遭遇していた。

 これも修行の一環と言って、ミラは高見の見物状態に入っている。死にそうになったら助けてあげるとか、酷くないか?


「――こっちは、初めての戦闘なんだぞ?もっと弱い魔獣と出会うべきだろ!」

「弱い魔獣が、この世界で生き残れるはずがないじゃない」

「……御尤もなお話ですね!」


 返答もそこそこに、俺は魔法を創造イメージする。

 生み出すは炎の弾丸。先の魔法よりも更に速く、より鋭く強い物へと変化させる。

 ……補正、完了。目標は人ほどの体躯を持つ魔狼。狙いを定めて、解き放つ。

 だが、目前の敵を穿つはずの炎弾は、その目標を完遂することなく消滅する。

 理由は一目瞭然。敵の魔法で、掻き消されたのだ。

 

「ちっ……!」


 即座に次弾を装填する。何もない空間から炎が生み出され――、

 一閃。

 灼熱感が右腕を襲い、俺の思考に乱れが走る。ノイズが混じった俺の思考ではその形を留めておくことは出来ず、炎はそのまま元の姿――魔素へと姿を戻していった。

 尚も一閃。今度は俺も反応出来た。鞘に入れたままの青剣で、狼の爪を受け止める。

 左腕に圧し掛かる衝撃に、歯を噛み締めながらも、なんとか敵の攻撃を弾き返した。

 右手の先からは、おびただしい程の血が流れ落ちている。爪で抉られ、斬り裂かれた時のモノだ。正直言って、傷口を見る度胸は湧いてこない。


 ――視えなかった……!


 ギリッと歯を噛み締める。先の時とは違って、今度は敵への恐れからくるものだ。


 ――どうする……?


 血に塗れた右腕で青剣を抜き、構えた。


 ――どうする……?


 魔法は掻き消される。剣で戦おうにも、相手の動きが素早すぎて眼にもとまらない。


 ――どうする……!


 肉体強化を掛けようにも、右腕の痛みのせいで集中できない。創造できない。


 ――どうしようも、ない……!


 今の俺では、どうにもできない。最初から肉体強化を掛けていなかった、自分の落ち度だ。

 両手で強く握り、青剣を正面へ。剣先を狼へ。

 これも、戦いを甘く見ていた代償だ。甘んじて受け止めなければならない。

 今の自分に出来る最大限のことを、する。しなければいけない。そうでなければ生き残れない。

 そして、現状で出来る最大限のことは……。


「ミラ!」

「まあ、最初はこんなものかしらね?意地を張らないだけマシかな」


 素直に、ミラに助けを求めた。負傷した俺では、魔獣を相手するのは荷が重すぎるからだ。

 瞬間移動――ミラ曰く、逆召喚という召喚魔法の応用魔法らしい――を駆使して、瞬時に俺と狼の間に立った彼女は、陽の光を受けて煌めく銀髪をなびかせながら、静かに呟く。


「消えろ」


 ただ、それだけだ。力も込めない動き、何気ない動作をとるかのようなその動きの中で、しかし必滅の魔法を放つ。

 熱風。轟音。そして、異臭。

 突如出現した炎の渦に巻き込まれた狼は、抗うことすら出来ない。奴の『相手の魔法を掻き消す魔法』も、彼女の魔法には通じないのだろうか。そのまま燃え尽き、崩れ落ちていった。

 相手の能力でも対処できない程の、圧倒的な力で敵をねじ伏せるミラ。なんという正攻法だろう。なんという強引な戦い方だろう。

 単純にして困難な戦い方を、しかし彼女はどうということもなく、簡単に実行してしまった。


 ――これが、魔王の力か。


 自分との絶対的なまでの力の差を、改めて見せつけられる。

 まるで息をするかのように、造作もなく魔獣の命を奪い去った魔王は、未だ背中を見せつけたままだ。

 対して、彼女に助けられた俺はというと。


「――!!」


 嘔吐した。目の前に広がる光景を見て、胃の中身を吐き出した。

 生き物が燃え尽きていく様を見たのは初めてだ。焦げ付くような異臭を嗅ぐのも初めてだ。

 ……やはり、俺はこの旅を心のどこかで甘く見ていたのだろう。さっきの戦闘しかり、命を奪う現場もしかり。

 戦うという事は、相手の命を奪うことなのだと。そう理解していたつもりだった。

 だが、現実はこれだ。戦闘では何も出来ず。命が消えていくこの場においては、その光景に耐えきれず、嘔吐している有様。

 ……甘かった。俺は、甘かったんだ。甘く見ていたんだ。

 情けない。情けない情けない情けない情けない!!

 俺の異変に気がついたのだろう、ミラがこちらに駆け寄ってくる足音が聞こえる。

 ……変わりたいな。

 ……変わろう。

 ……変わらなければならない。

 この醜態と共に、俺の甘えも何もかもをここに捨て置いていこうと俺は思った。この世界で生きていくために不必要な物を、ここに。

 そうしなければ、俺は彼女の足を引っ張り続けてしまうだろうから。

 それではいけない。

 誓ったではないか。昨日の夜に、少しでも彼女の力になろうと。

 ならば……!


「ショウ、大丈夫!?」


 彼女の声が聞こえる。足音が近づく。


 ――ああ、心配させてすまない。

 ――俺は、大丈夫だから。

 ――もう、こんなところは二度と見せないから。

 ――だから……!


 それは傷の痛みが招いたのか、自分への悔しさが引き寄せたのか。自然と流れ出てきた涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしながらも、俺は覚悟不十分の象徴を地面に吐き、ぶつけ続けた。

ようやく導入部分が終了しました。長かったですね。ごめんなさい。

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