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第14話  こんな日もある

ようやく、序章が終わって第一章に突入します。

――展開が遅い?以前も言ったはずですよ?作者は遅筆だって。


「作者が言う遅筆の意味は、『執筆速度も遅ければ展開も遅い』という意味だったんだよ!」

「な、なんだってー!!」


そんな伏線はいらなかったですね、すみません。

 『ベキゴキメキィッ!!』


 おそらく、こんな感じの音だったはずだ。俺の砕け散る胸部から漏れ出た破砕音は。


「グブッ……!?」


 胸の骨が折れた――いや、砕けた。粉砕した。受け身を取ることも体勢を立て直すことも出来ず、俺は吹き飛ばされる勢いをそのままに地面に突っ込んでいく。

 二回三回……、ゴム球のように地面を弾むこと実に五回。そこでようやく、俺の身体は地面に倒れ伏すことを許される。

 ……それから僅かに数拍遅れて、吹き飛んだ際に手元から離れていった双剣が地面に突き刺さる重い音が聞こえた。


「ガハッ……!」


 真っ赤な液体を地面にぶちまけた。吐き出された血液はビチャビチャという音を伴いながら、大地を朱に染めていく。

 息が出来ない。胸が焼けるほどに熱い。……身体の状態は、思っていた以上に深刻みたいだ。肺にでも折れた骨が突き刺さったのだろうか?呼吸をするたびに、激痛と血の塊が腹の底からせり上がってくる。

 ならばと回復魔法を念じようと試みたが、痛みがそれを妨げる。苦痛が思考を中断させる度に、構成しかけていた治癒の光が力なくその場で霧散していった。


「ショウ!!」


 ミラの声が聞こえる。その声は今までに聞いたことが無いくらいに深刻なモノ。


 ――この状況はヤバイ……!


 ここは戦場だ。こんな所で呑気に寝そべっている人間など、都合のいい的でしかない。

 助けを請おうと思ったが……無理だろう。ミラの緊迫した声から察するに、こちらへ手を貸している余裕など彼女にも無いはずだ。……俺が余計なことをしてしまったがために。

 普段の彼女ならば、この程度の窮地など一蹴してしまうだろうが――、今は違う。

 人族に自分の姿を見られている以上、その持てる力の全てを彼女は使うことができないのだ。

 あまりに強大すぎる力は、人々にあらぬ疑いを向けられる恐れがある。……魔王であることを、魔族であることを知られるわけにはいかない彼女は今、力を制限セーブしながら戦っていた。

 放てば鋼鉄すら穿つその拳も、撃てば大群を一掃する大魔法も、今の彼女には扱えない。迫る一撃を辛うじて躱すことで精いっぱいだ。

 あの様子では、モノの数分ももたないだろう。現に彼女自身も、苦しそうな表情を上げている。

 テオは――いや、考えるまでもないだろう。魔法を使えるようになるかもと言われて以来、ミラに教えを請うていた彼だが……どんな方法であったにせよ、こんな短期間で魔法を完全に制御出来るようになるとは到底思えない。今は、怯え戸惑っている名も知らぬ女性をその小さな体で守るように立っているだけだ。


 ――俺が、俺が動かないと……!


 この状況を生み出してしまったのは、他ならぬ俺自身だ。だというのに、その原因がこんな所でのんきに寝転んでいていいわけがない。

 

 ――オーガに殴られたくらいで、ダウンしてられるかってな!


 そう自分を奮起させた。俺は地に付けた右腕に力を込め、そのまま一気に起き上がる。


「グッ――ぬぁぁぁぁっ!」


 力を込めると共に身体の内から噴き出てくる赤い血は――この際無視しよう。それよりも優先するべきことがあるからだ。身体中を疾走する激痛を堪えて俺は身体をゆっくりとだが起こし上げていく。

 体中から湧きあがる激痛と脳から下される行動停止の指令を全て退けつつ、俺はどうしてこんなことになってしまったのかと、今までの経緯を思い返していた。






 馬車の手綱を引き、進路を聖アルト王国へ。ここまで来るとすれ違う馬車や旅人の存在も増えてきており、改めて王国に近付いているんだなと実感させられる。

 アルト王国へ近づくにつれて街路もしっかりと整備されたものになっており、こちらとしても移動がしやすい。流石は大陸南部で最も繁栄している王国なだけのことはある。


 ――というよりも、最初が酷過ぎたのか。


 人族に発見されるわけにはいかないから仕方がないのだが、当然ながら魔王城の周辺は人の手が加えられていない。大自然がそのままの姿で保たれている。

 そんな中を馬車で進んでいくのだから――最初は振動で尻が痛かったものだ。「ダートってレベルじゃねーぞ!」なんて愚痴を言ってたあの頃が懐かしい。


「……ん?」


 魔法が動く気配を感じた。

 魔素ではなく魔法が動くという極めて不自然な現象に、しかし俺は驚きもしない。もう慣れてしまったからだ。

 周囲に人影もない状況下で何らかの魔法の気配を感じたならば、普段の俺ならば敵襲かと警戒する。だが、今日の俺はなんら心を動かすこともなく馬車を繰り続ける。

 何故ならばその魔法が動いている場所は俺のすぐ真後ろ。即ち、荷車の中だからだ。


「……またかな?」


 結果として、俺の予想は的中していた。俺が口走ったそのすぐ後で、前触れも無く突如爆発が起きたからだ。

 言わずとも分かる。今のは先ほど感じ取った魔法だ。この位置からではその様子までは窺えないが、今まで通りの魔法であるのならば、それほど大した威力ではないだろう。


「ヤレヤレ……」


 怪我人は出なかっただろうか?あいつらのことだから大丈夫だとは思――えないな。今までの経験的に考えて。

 万が一にも誰かに怪我を負わせてしまっていたのならば……その時は治療をした上で、謝り倒すしかないだろう。勿論、山吹色のお菓子を持参して。

 ……そんな対応策がぽんと頭に浮かんでくる自分自身が時々嫌になる。


「困ったもんだよな?」


 話しかけるのは荷車を引く馬に対してだ。流石にこうも何度も爆発が起きれば慣れてしまうものなのか、爆発音を聞いても特に暴れる様子もなく普通に進み続けている。――慣れって恐ろしいね。


 ――さて……?


 俺はチラと背後へ視線を送る。荷物が向かって手前側に積み重ねられているために、荷車内の様子を完全には窺うことはできない。精々見えるとすれば、テオとミラの上半身くらいのものだ。

 ミラが身振り手振りを交えて何かを口走り、テオが頷く。ここ数日、ずっと繰り返されてきた光景がそこには広がっていた。

 もはや言うまでもないとは思うが、突如起こった爆発は彼らによるもの。

 文字通り日夜行われている、テオが魔法を扱えるようになるための訓練。爆発はそれの産物だ。


「それ自体は悪いことじゃないんだけどなあ……」


 頭を抱えながら呟く。

 訓練が悪いことだとは言わない。テオが魔法を扱えるようになることも悪いことではない。だが……その後始末というか代償が全て俺に降りかかっているという現状はどうにかならないものだろうか?

 例えば昼の訓練では――さっき見た通りだ。

 魔法は数撃つことが大切という教育方針をもつ彼女は、さっきのようにテオへ魔法を外へ向けて連発させる。最近は自重してくれているが、特訓を始めた最初の頃は酷かった。コントロールが定まらなかったというのもあるだろうが、本当に辺り構わず撃ちまくっていたからな。――そこに人がいようといまいと関係なく、な。

 その度に謝礼金を片手に謝りにいく俺の気持ちを察してくれ……。

 ちなみに、それだけでゲザさんから貰った金貨の五分の一が消えていった。無駄使いにも程があるだろ。

 夜の場合は――ほら、アレだ。爆発の音に魔獣がどんどんどんどん誘われてくるわけで……その相手を俺がするわけ。当然ながら、俺一人でだ。もう一度言う。俺一人で、だ。大切なことなので二度言いました。


「まあ、仕方の無いことではあるんだけどさ……」


 ぽつりと呟く。色々と鬱憤は溜まっているものの、俺自身は実害を被っていないものだから何とも言えない。間接的な害ならばこれでもかというくらいに溜まっているが。


「我慢するしかねえかな?ハハハ……」


 当然ながら、馬は返事をすることはない。かっぽかっぽと荷車を引いて進んでいく馬に対して笑いかけた。……実に乾いた笑い声だと思う。

 今日もいい天気だ。御者台に座っているものだから、程良い温さの日光を全身で感じ取ることが出来る。俺は座ったままの状態で掌を組み、そのまま上へと持っていった。通称、伸びといわれる行為だ。ストレッチによって程良く筋肉が解れていく感覚に身を委ねる。

 その俺の頬先を一刃の線が通りぬけていった。ソレは『チュィィィィン』というおよそ自然界では存在しないであろう音を伴いながら、俺の顔のすぐ傍を通り抜けていく。


「ハハハ――ハ……?」


 当然ながら、笑みが固まる。顔の表情どころか全身が、今何が起こったのかを図りかねて硬直した。

 唯一動く存在があるとすればそれは、今も尚我を崩さずに進み続けていくマイペースな馬と、俺の頬から勢いよく噴出していく鮮血くらいのものだろう。


「ちょっと、そっちじゃないでしょ?」

「やっちゃった……。兄ちゃん、ごめんね!」


 固まったままの俺の背後から、二人の声が聞こえてきた。そうかそうか。これはキミ達の仕業か。


「――ふぅ……」


 再起動し始めた脳が出す指令に従い、手綱を引く。

 停止の命令を受け取った馬が、その歩行速度をゆっくりと落としていった。






「――分かりましたか?」

『ハイ……』


 荷車の縁に座りながら口を開いた俺の言葉に、二人が足をムズムズさせながら頷いた。やはりこの世界の人間は長時間の正座には慣れていないらしい……まあ、それを言うならば俺もなんだが。昔の日本人って凄いよね。

 ……道行く人たちが俺達の姿を見てクスクスと笑っているのが見える。まあ、美女と少年が野外で地べたに正座しながら怒られているのだ。失笑に値する光景だろう――が、この状態を変えるつもりはない。たまにはキツく言わないといけないと思うのだ。


「あの……」


 その内の一人が顔を上げた。なにかな、ミラくん?


「その、このままだと恥ずかしいんですが……。せめて馬車の中で話をするというわけには……」

「却下」


 羞恥からか顔を赤らめながらの彼女の懇願を、一言の下に切り捨てる。だって、こうでもしなかったらアナタ達は反省しないじゃないですか。そりゃあね?今までは我慢してましたよ?テオが魔法を扱えるようになれればって。でも、いくらなんでもその後始末を全部僕に押し付けるのはおかしいと思いませんか?一度だって、アナタ達が頭を下げにいったことがありましたか?いや、それだけなら我慢できますよ?でもねぇ。僕にまで怪我を負わされたら溜まりませんよ。ほら、ココ。見えます?この傷。これがちょっと横にズレていたら、今頃僕の首がズレていたんですよ?そんなことをされて、黙っていられると思いますか?そんな人たちには罰を与えてもいいとは思いませんか?そうでもしないと聞いてくれないんですから。僕の話ちゃんと聞いていますか?


「ごめんなさい……」


 自分でも何を言っているんだか分からないが、とにかく怒りの感情にまかせた俺の息もつかせぬ口撃に、二人は顔を項垂れる。そんな殊勝な態度を見せられると、それ以上怒れないじゃないか。

 ……俺も甘いのかもしれないな。


「はぁ……」とため息を一つ。


「まあ、こんなところでいいか。反省もしたみたいだしな。」


 羞恥プレイ――では語弊があるかな?まあ、ともかく――は流石に堪えたのか、『反省』という単語に激しく首を縦に振る二人。調子のいい奴らだ。

 俺は二人に立つよう促す。ホッとして立ち上がろうとする二人だったが、そうは問屋が卸さない。


「アラ……?」

「あ、足が……」


 ミラは片足を付き、崩れ落ちる。――妙に様になっているのは、流石魔王というべきか。

 テオに関しては――本人の名誉の為、伏せておこうか。実に豪快だったという一言だけを残しておく。

 そんな四苦八苦している二人だが――まだ話は終わっていない。最後に一言だけ釘を刺しておこうか。


「いいか?今度からはちゃんと周囲の人に気をつけて訓練してくれよ?」


 特に俺に対して。


「二人はあまり気にしていなかったみたいだけれど、アレで結構被害が出てたんだぜ?俺が謝りとおしたから何とか大事には至らなかったけどさ」


 正確にはお金を握らせたから――なんだが。どの世界でも、お金先生の力は絶大です。


「ごめんなさい……」

「いや、分かってくれるならいいんだけどな?」


 ここはもう王都に近いのだから、問題になりそうな行動はなるべく抑えてもらいたいと思う。――王都に到着したら、次の瞬間には牢屋にぶち込まれましたなんてのは勘弁してもらいたい。笑い話にもならないぞ。


「――誰か助けて!!」

「そうそう。こんな感じで大事になるのは出来るだけ避けたい……?」


 下手したら、こんな感じで被害者が騒ぎ立てていたかもしれないからな。――って今、悲鳴が聞こえたような……?


「誰か!!」

「――あっちか!?」


 間違いない。これは助けを求める声だ。声の大きさから、そんなにはここから離れていないのだろうと判断した俺は、その声が聞こえてきた方角へ向けて駆け出し始める。

 俺は正義の味方などでは断じてないが、それでも困っている人は可能な限り助けてあげたいと思う。

 馬車への守護結界魔術をミラに依頼しようと思った俺は、後ろへと振り返る。


 ……そこに広がっていた光景に、足が止まった。


「足が!足がぁっ!?」とはテオ。いや、そんなムスカ大佐みたいな声を出す程のものではないと思うぞ?……あれは眼か。


 身動きが取れないのはミラも同じだ。先程から全くと言っていいほど体勢が変わっていない。


「足が動かない……麻痺している……。――ハッ、これはまさか、ショウの電撃魔法!?」


 違います。


「――っと、呆けている場合じゃないか!」


 呆気にとられていた俺だったが、大地を揺さぶる破砕音によって気を取り戻した。それが聞こえてきた方角は――先程の助けを求める声が聞こえてきた方向と同じ。

 これは――急がなければならないな。

 とりあえず俺は足手まといの二人を馬車に積み込む。こういう時、強化魔法って便利だよな。

 粗末に投げ捨てられた二人からは文句を言われるが、そんなものは無視だ、無視。いいから俺が馬車を動かしている間にさっさと回復しておきなさい。

 一方の俺は、すぐさま御者台へ。……一瞬ではあるが、この戦闘力を持たない馬車をこのまま戦闘現場へ連れていくことにためらいを覚える。

 だが、身動きが取れない二人を運びつつ、少しでも早く声が聞こえてきた場所へ到達するためには、これ以外に方法はない。


「急ぐぞ!」


 手綱を握り、俺は馬を急かす。

 命令を受けた相棒は巡航速度から一気に最高速度へ移行し、声が聞こえてきた方角へと突き進んでいく。






 かくして、俺達は現状に立たされているわけだ。この、絶望的な状況に。


 ――まさか、あんな緩い場面からこんなシリアスな場面に移り変わるなんて思いもしなかったな。


 こんなに窮地に立たされるなんて想像もできなかった。もはや苦笑すらも浮かばない。肉体的にも精神的にも、だ。

 起き上がった際の負担は予想以上に大きかったようだ。身体が思い通りに動かない。正直言って、立っているだけで精一杯だ。


「ショウッッ!!」


 ミラの悲痛な声が聞こえた。

 俺の周囲の地面を、巨大な人影が覆う。……いや、『人』影なんかじゃないな。

 太陽の光を遮って映るその影は、俺の身長などよりも遥かに高い上背を誇っていて。

 俺は既に明らかである答えを一応確かめるため、首を上へと向けていく。


 ――オーガ……。


 予想通りとでもいうべきか。筋骨隆々とした体躯に一つ目の赤眼を爛々と輝かせた鬼が、俺の目の前に立っていた。


 ――人族から与えられた危険度のランクは、Dだったはずなんだけどな……。


S、A、Bと数えていき、その上から五番目程度の危険度しか持たないとされるこのオーガという魔獣は、鈍重な動きしか出来ないために、その強靭な肉体を駆使した破壊力抜群の攻撃にさえ注意すればさほど相手取るのは難しい相手ではない。並みの人間でも四、五人が協力して挑めば、勝てない相手ではないとテオは言っていた。


 ――現実はこのザマだけどな。


 決して油断していたわけではない。ただ、思慮が足りなかったのだ。

 複数のオーガを相手取るのに、『相手側よりも少ない人数で』『守勢に回る』ということの持つ意味を考えていなかったのだ。……今更後悔をしたところで、遅すぎるのだが。

 オーガの丸太のような太い腕が持ち上げられる。


「ショウ、逃げて!」

「兄ちゃん!」


 アレが叩きつけられた瞬間に、俺の命は容易く奪い去られるだろう。

 何か手を打とうにも、身体が思考に付いて来てくれないのだからそれも適わない。

 最早俺に出来ることは、拳が振り下ろされるのをただ眺めることくらいのものだろう。

 俺の名前を呼ぶ悲痛な声が聞こえる。

 オーガの唸り声が聞こえる。

 拳が振り落とされる。




 そして、俺の視界は血の色に染まった。

ポイントが増えていると嬉しいですよね。仕事から帰って来てポイントが増えているのを見ると、一日の疲れが吹っ飛びます。

さて、今日のポイントは――減っている、だと……?

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