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第0話  血に染まるセカイ

初めまして。七志と書きまして、「ナナシ」と読みます。


この作品が初投稿作品となりますので、色々と至らぬ点も多いかと思いますが、暖かい目で見守っていただけると幸いです。

 びちゃっ、と生暖かい液体が私の顔に降りかかった。どろりとした生暖かいその液体は、私の額を伝ってそのまま目の中に入ってくる。


「……っ!」


 痛みと共に私の世界は赤く染まった。先ほど飛んできた液体は、おそらく誰かの血液だったのだろう。

 だが、そんなことに構っている余裕など私にはなかった。私に覆いかぶさるように倒れてくる人影を力いっぱい押し飛ばす。

 首を斬られたのだろう。白眼を剥きながら首を押え、こひゅっ、こひゅっ、と息が零れ出る音と共に崩れ落ちる父。私が撥ね退けた、人影。

 私はソレを脇目に走りだした。

 この場から逃げなければならない。さもなければ、殺されてしまうから。ただ、ただ走り出す。 父の死を悲しむ余裕など、今の私にはなかった。

 他人の死を悲しむことなど、後からでもできる。今は、逃げきることだけを考えなければ。


「…………!!」


 背後から、剣を持つ男の怒鳴り声が聞こえたが、止まるわけにはいかない。私は走り続ける。逃げ続ける。

 彼らに捕まるわけにはいかなかった。捕まれば、それは死を意味する。

 破壊され、燃え続ける家屋の間を一人、走り続ける。

 頼れる者などいない。顔見知りは既に皆、殺されてしまったからだ。父は今しがた、目の前で殺された。母も生まれたばかりの弟も、お隣のリアナやお調子者のヴォルグも皆、奴らに殺されてしまった。みんな、ヤツラに殺されてしまった……!


「はぁ、はぁ……。……くっ……!」


 道に転がる死体を飛び越え、踏み越え、時には足を引っかけて転びながらも、私は走り続けた。

 膝が笑いだす。身体を支えきれない。だが、それも仕方のないことだと思う。

 当の昔に、私の体力は尽きていた。もともと運動が苦手だった私には、長く走り続けるだけの体力などない。

 止まれば、捕まってしまうのだと。殺されてしまうのだという強迫観念だけが、今の私を動かしていた。

 何故こんなことになってしまったのか。足を動かし続けながら、私は自分の、この村の人々に課せられた運命を呪う。

 私達は、ただ普通に暮らしていただけだというのに。彼らには何も手を出していないというのに。

 何が勇者だ。何が英雄だ。これではただの殺害者ではないか。

 この村を滅ぼした彼らは、きっと国に帰れば褒め称えられるのだろう。褒章を受け取るのだろう。そう考えると、悔しくて涙すら出てくる。


 ――こんな、こんな惨状を生み出しておきながら、私たちを殺しておきながら、それが罰せられるどころか褒められるなんて。


「これが、人族か……!」


 ――コロシテヤル……!絶対に、コロシテヤル……!!


 いつか必ず、奴らを根絶やしにしてやる。滅ぼしてやる。殺し尽くしてやる。 出来ることなら、今すぐにでも引き返して、奴らを皆殺しにしてやりたい。村のみんなの仇をとってやりたい。

 だが、残念なことに今の私には力がない。経験もない。知識すらない。今の私は、何の力も持たないただの獲物でしかない。

 

 ――逃げきろう。


 そして、力をつけるのだ。復讐のための牙を研ぐのだ。

 ほら、もうすぐだ。村の出入り口がすぐ目の前まできている。ここを抜ければ、この村を抜ければ。土地勘のないヤツラからは逃げきれるはず。

 さあ、いよいよだ。私は残る力を足に込め――。


「おっと、鬼ごっこはここまでだ」


 怒りの炎に心を委ねすぎたのがいけなかったのか、一瞬とはいえ、村の入り口を見て気を緩めてしまったのがいけなかったのか。腹部を灼熱感が襲い、私は立ち止まってしまった。


「え……?」


 足が、動かない。お腹が、焼けるように熱い。身体が動かない。

 視線を降ろす。腹部から飛び出した剣の先端が、こちらを覗いていた。

 追手が投げた剣が、私の腹部を貫いたのだ――。そう理解した瞬間、身体が傾いた。力が入らない。受け身すらとれず、私は崩れ落ちる。

 視界がぼやけ、思考が乱れる。まるで霞がかったかのようだ。

 剣が貫いているというのに、その痛みすら感じない私の体。私は定まらない思考の中、自分はもう助からないのだと本能で理解した。


 ――ああ、逃げきれなかったか。残念だなぁ。


 こちらを見下ろしてくる複数の男たちを見上げながら、私はぼんやりとそう思った。

 男達の一人が口を動かしているが、上手く聞き取れない。私は思った事をそのままに口に出す。


 なにを言ってるんだか、わからないよ。


 もしかしたら、喉の奥から湧き上がってくる血のせいでうまく発音できていなかったかもしれないが、構うものか。


 ――どうせ、死んでしまうんだし。


 唾を男に吐きかける。せめてもの意趣返しのつもりだ。残念ながら唾は男に届くことはなく、地面に落ちたが。

 別の男が剣を抜き、ゆっくりと振り上げた。

 あとはその剣を振り下ろすだけ。それで、私の人生は終わる。復讐の願いを、誓いを叶えることなく、私の人生は終わりを告げるわけだ。


 ――ああ。結局、みんなの敵はとれなかったなぁ……。


 白銀の刃が振り下ろされ、私はゆっくりと、目を瞑った。

お疲れ様でした。


以上で、序章部分は終了となります。

本編はここまで重い話ではないので、これよりは気楽に読んでいただけるかと思います。



作品の感想、誤字脱字の報告、辛い指摘など、皆さまのお言葉が作者の糧(文章力や意欲的な意味で)になります。

ですので、皆様のお言葉を頂けますと、作者は喜びます。尻尾を振って喜びます。

作者は、皆さまの感想をお待ちしております。

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