血の絆編 第一章
第一話 再会
これは鬼と人の争いから始まった。
そして一人の少年と一人の鬼との物語である。
古の昔まだ、鬼の国ができる前のこと。鬼は人とは交わらず鬼が神と崇める紅龍とともに暮らしていた。
だが、一人の子鬼が、紅龍の力を持ち産まれてきた。
その子鬼を村の鬼たちは紅龍の遣いだと考え紅龍の祠のある洞窟へ
暮らさせることにし、毎日のようにその子鬼を崇めに来ることが当たり前のようになった。
その時の鬼たちはなぜその子鬼だけが紅龍の力を宿していたのか、その本当の意味についてまだ誰も気づいてはいなかった。
そしてある日その平穏な日々に終わりが訪れた。
あの日から紅葉は紅龍の祠に引きこもるようになった。
あの日から何年経ったのだろうか。もうあの日のことを覚えているものは居ないと俺は思う。
「紅葉・・・お前は何時になったら、俺に会いに来てくれるんだ。お前はあの日から眠ってばっかりじゃねぇかよ。」
少しの間男は紅葉の手を握ったまま黙り続けていたが返事がなく男が帰ろうとした時だった。
「か・・楓・・其処に居るのか?」
「も・・紅葉。お・・お前目が覚めたのか?」
「わからない。此処は・・何処?」
「え⁉も・・紅葉‼お前、自分の今の状況が分かってねぇのか?」
目覚めた紅葉は、自分が今どういう状況なのか理解出来ていなかった。
そして紅葉は何故自分が紅龍の祠で眠っていたのかも覚えていなかった。
「楓・僕は何時から此処で眠りに就いていたの?僕・・何も覚えてないんだ。
何か大切なことを忘れている様な気がするのに何も思い出せないんだ。」
「紅葉・・・。」
楓は紅葉に話すことが出来なかった。
紅葉にとってあの日のことは思い出したく無いはずの事なのだから。
楓には今の紅葉には、あの日のことを受け止められることは出来ないと考え、紅葉には何も話さなかった。
「紅葉、まずは俺の家に行こうぜ。」
「え⁉でも良いのかな?」
「何がだよ?」
「だ・・だって僕は村の大人達からこ・・此処から出ては行けないって言われてるし。」
その瞬間楓は悟ったのだ紅葉の記憶はあの頃から止まったままなのだと。
楓はとても悲しくなった。
楓は紅葉の兄的存在で産まれた頃から紅葉を見てきたのだから。
紅葉があの日から記憶も心も感情すら止まったまま、まだ動き出していないことに楓は悲しさから涙が溢れてしまった。
「か・・楓?だ・・大丈夫?」
紅葉は自分のことより楓を心配していた。
(お前はあの頃から変わらないんだな。今くらい自分の心配してろよ!)