何が入っているか分からない箱
とある部屋の中央に、小さな箱があった。
その部屋の中には何もない。
ただ小さな箱があるだけ。
その箱は、大人の手の中にすっぽりと入るくらいのサイズだ。
その小さな箱の中には、何かが入っているらしい。
時折りその箱は動いて、ごとごとと左右に揺れていた。
その箱の中に、何が入っているのか分からない。
しかし、部屋の外の人々は「箱の中には危険なものが入っているに違いない」と思っていた。
だから、箱は誰もいないこの部屋の中にあった。
箱の表面はつるつるしていて、温かくも冷たくもない。
その情報では、中にあるものを推理する事はできなかった。
だからずっと誰も箱の中身は分からない。
やがて箱は、なぜか大きくなる。
大人の頭ほどのサイズになって、体ほどのサイズになって、最終的には部屋のサイズに迫るほどになった。
あともう少ししたら、部屋よりも大きくなってしまうかもしれない。
そう思った部屋の外の人々が、何日かぶりに部屋を開けて中に入った。
箱を別の部屋に移動させるためだ。
しかしその瞬間、箱はごとりと音を立てて、猛烈な勢いで転がっていく。
そして、捕まえようとした人々を潰して転がりぬけ、部屋の外へと出て行ってしまった。
それきり、箱の姿を見た者はいない。
全く関係のない事だが。
近隣では、なぜか箱のような帽子をかぶった少年がよく目撃された。