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騎獣転生  作者: 赤月 朔夜
第03章 リステラ症候群
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第046話 力が有り過ぎる故に

『ククルクは、あなたが人間に害を及ぼす悪神だとされないようにできる限りのことをしたんじゃないの? 少しでもあなたが人間と仲良く過ごせるようにって。それを、あなたはぶち壊すようなことをしている』


 マルコスの話し方が相手を馬鹿にするような言い方から、子どもに言い聞かせるような落ち着いたものに変わる。


 先ほどの行動に驚愕したのか、はたまた言い方や言葉に困惑したのかロレットラリッサは少し落ち着いていた。

 触手の動きは鈍くなり、やがて止まってしまった。


『そんな、はずは……』


 彼女の動揺が手に取るように伝わってくる。


 ロレットラリッサは黙りこんでいる。

 マルコスは続けた。


『あなたは人間を眠らせて、動物は眠らせないといったように例外を作っていた。でもそれは、特にこの国リーセディアではするべきではなかった。なぜか分かる?』

『……分からん』


 彼女はポツリと答えた。


『この国は人間以外の種族も、それこそ他の国では恐れられ、討伐対象になっているような者たちですら受け入れている国だからだ。あなたにとっては人間ではなくても、彼らは人間と仲良く暮らしている。もしかすると親友や恋人、家族にだってなっているかもしれない。あなたはそんな彼らを引き裂いたんだ』


 静かに、けれどもはっきりとマルコスは告げた。


『ある日突然、彼らを残して人間だけが覚めない眠りについてしまった。あなたの力が無くなって人間たちが目覚めた時、彼らの方は死んでいるかもしれない。あなたは、人間と彼らが共に生きることができたはずの時間を奪ったことになる。それでも、ただ眠っているだけなんて言える?』


 あったかもしれない未来だ。

 ドルフたちは眠り続け、私たちは残される。

 考えるだけで怖くなる。

 しかも、まだその未来から逃れられたわけではない。


 ロレットラリッサは答えない。

 先ほどまでは慌ただしく物事が動いていたというのに、今はその真逆で静寂に満ちていた。


 そんな静寂の中、しゃがんでいたエリックさんが手でドルフに合図を出した。

 たぶんだけど魔法陣の修復が終わったんだろう。


 氷の箱の中まで音が聞こえているかは分からないけど、氷の透明度が高いので戦闘をしていないことは分かる。

 だからどうするかをドルフに尋ねているんじゃないかな。


 ドルフがエリックさんに手でサインを送る。


「マルコス殿、彼女との対話を変わってもらえないだろうか?」

「えぇ、どうぞ」


 お礼を言ってドルフはロレットラリッサに近づいた。

 何かあっても対処できるほどの距離は保ちつつ止まる。


『……すまない。私はまた間違ってしまったようだ』


 最初の時とは違って沈んだ声だった。


『こちらの伝えたいことが伝わったのであれば幸いです』


 許すとも許さないともドルフは言わなかった。


『"生きる"という言葉にはいくつか意味があります。命を保つ、生存しているという意味ではあなたの言う通り眠らせた人々は生きているのでしょう。しかし、生活を営むこと、目標へ向かって努力を重ねることも"生きる"ことなのです』


 そういう意味では、眠らされた人たちは生きているとは言えない。


『眠らせた人々にかけた魔法を解いていただけますか?』


 ドルフが静かに問いかければ、触手は彼女の元へ戻り吸収されるように消えた。


『私のしたことが間違っていると分かった以上、そうするつもりだ』


 ロレットラリッサにどれほど伝わったか分からないものの、話自体はまとまりそうだ。

 気が緩みそうになる。でも、何がどうなるか分からないんだからと自分に言い聞かせた。


『可能であればなのですが、見ている夢の内容を本来の夢のように朧気なものにすることはできますか? 無理であればそうはっきり言ってくださる方が助かります』


 今回のことでどれほどの影響が出るか分からない。それを少しでも減らすためだろう。

 ……下手なことをしたら被害が拡大しそうだけど大丈夫かな?


『可能だ。起きてすぐは夢の内容を覚えている者もいるかもしれないが、時間が経つにつれて忘れてしまうだろう』


 それならいいのかな?


『……分かりました。お願い致します』

『眠らせた者の中には健康とはほど遠い者がいたのだが、彼らを治療してからでは駄目か?』

『それは……』


 ドルフは言葉に詰まった。


 良いことかもしれないけど、良いことだけとは言えない。少なくともここで勝手に決めていいことじゃないのは確かだ。


「はい、無しに1票。例えば重病人が突然回復したなんてことが起こったら、奇跡を期待した人たちがラテルへ押し寄せるかもしれません。1度起こったのだから、2度目もあるかもしれない、と」


 重い空気の中、場違いに明るい声と共に挙手して言ったのはマルコスだった。

 言っていること自体は当然のことだと思う。


「……僕もあまり不用意なことはしない方がいいと思います。影響が大きい分、何が起こるか分かりません」


 リオルさんもしない方がいいという考えだった。


「そうだな。彼女が提案したことは得難い内容ではあるが、得られるものが大きい分リスクも高い」


 そのリスクを減らすためにはロレットラリッサと話し合う必要がある。でもその話し合いが上手くいくとは限らない。

 彼女がドルフたちの意図と違ったことをしてしまうかもしれないし、話し合いの途中で気が変わらないとも言えない。


『ご提案いただいた内容はこちらを思ってのことであると分かるのですが、要らぬ問題を招く恐れがあるため辞退させてください』


 その理由も答えた後、ドルフはロレットラリッサの申し出を断った。


『そうか。では、私を止めてくれた主らに何かお礼をしたい。私にできることはないか?』


 彼女は再び頭を悩ませるようなことを言ってきた。

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