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騎獣転生  作者: 赤月 朔夜
第03章 リステラ症候群
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第025話 4本の魔糸

 何事もなくいつもの湖までやってきた。

 ドルフたちの魔糸は黄色のままで流れている魔力も多くなっているわけではなかった。

 2人は少し遅めの昼食の準備を始め、私たちは自由時間となった。


 町の外に伸びていた魔糸のうち4本が同じ方向へと伸びている。

 魔糸の高度は下がり地上へと近づいていた。

 きっとそれほど遠くない場所だ。


 魔糸の先を辿ってみたいけど勝手に居なくなったら心配させるだろうし、一緒に行くにしても今以上に町から離れることになってしまう。

 湖で泳ぎながらうーんうーんと頭を悩ませる。


『ねぇグル、困っていることがあって、危険かもしれないけど情報が手に入るかもしれないって時はどうする?』


 1人で悩んでいても埒が明かないと私は近くを泳いでいたグルに尋ねた。


『んー……もっと安全な手段があったり、時間経過でやり過ごせるなら見送るかもしれない。でも時間が経つと悪化するような時なら多少は危険でも情報を選ぶかな』


 グルの言葉を聞いて確かにと思った。

 今は悪化するであろうことが分かっている状況で、この機会を見送ったら次はいつ外に出られるか分からない。その機会を待っているその間にもっと大変なことになってしまうかもしれない。

 無理やり脱走することもできるだろうけど、そんなことをすれば色々と迷惑をかけることになるし大事にもなる。可能であれば穏便にした方がいいだろう。


『ありがとう。調べてみることにするよ』

『手伝えることなら手伝うから言ってね』


 私は再度お礼を言った。


 水浴びを終えて焚火たきびをしているドルフたちに近づく。

 私たちはそれぞれ1匹ずつ焼き魚をもらって食べた。


「さて、戻ろうか」


 休憩かつ自由時間が終わり、2人はそれぞれ私とグルの背に乗った。


『グル、カイルの指示を無視して私について来て』

『分かった』


 グルは即答してくれた。


 ドルフから走るように指示が出された。いつもならドルフの指示に従って向いている方向へ走り出す。しかし今回はその指示を無視し180度方向転換した。そして魔糸を辿るように町とは反対の方へと駆け出した。


「おわっ!?」

「どうしたラナ?」


 急に方向を変えて走り出したことでカイルは驚きの声を上げた。

 ドルフは落ち着いた様子で私を撫でている。


「どうする?」

「……何かに気が付いたのかもしれない。気になる音は聞こえていないが、俺は任せてみようと思う」


 カイルも私たちがどうするか任せることにしてくれたようでドルフに反論はしなかった。




 ドルフたちに繋がる魔糸の変化に注意しながら1時間ほど走った。

 町から伸びた4本の赤色の魔糸、それは1つのテントへと続いていた。

 そのテントの近くには焚火の跡があり、焚火とテントの間には1人の男性がうつ伏せに倒れている。

 見えていない部分は分からないものの、見えている範囲で男性に怪我らしいものは見当たらない。血の臭いもない。聞こえてくる呼吸は安定していて穏やかだ。


 何より、赤い魔糸が男性の右腕に繋がっていた。他3本はテントの中へ向かっている。

 そして、テントから少し離れた木には馬が4頭繋がれている。


 とりあえずどうするかを伺うように、ある程度は離れつつテントが見える位置で立ち止まった。


「テントがあるな」

「人も横になっているぞ」

「嫌な予感がするんだが」

「同感だ。だが、調べないわけにはいかない」


 話は決まったようで出された指示に従って私はテントに近づいた。

 テントまで数メートルの距離まで近づくと止まれの指示。止まるとドルフが男性やテントの内部にも聞こえるように少し大きめの声をかけた。


「もしもし。お休みのところ失礼します。我々はラテルの騎士です。お話を伺いたいのですが」


 横になっている男性の反応はなくテントの方からも返事はおろか物音も聞こえない。


「近づきますよ」


 ドルフが私から降りる。カイルに目配せをすれば彼は頷いてその場に留まった。


「触りますね」


 再びドルフが一声かけて男性の右腕を掴んで袖をまくった。そこには青色の4本線があった。


「……リステラ症候群患者だ」


 何それ詳しく! と聞きたいのにできないのが残念だ。

 リステラという名前を聞いてこの前の童話が思い浮かぶ。童話では不治の病により命が危ないリステラを助けるため、魔女がリステラを眠らせていた。


 症候群っていうのは確か、原因は分からないもののそれにかかった人にいくつか共通の症状が出ることだったはず。

 風邪っていうのも実は風邪症候群の略称なんだよね。

 その辺りから察するに、眠ったまま起きない、腕に4本の線が現れる、人間が対象、という共通の症状があるんではないだろうか。


「失礼します」


 カイルに報告したドルフは警戒しながらテントに近づく。

 テントの出入口の布を掴んで声をかけるもやはり反応はなく、ドルフはその布をめくった。

 ドルフがテントの中を覗いている隙間から中を見る。


「……どうやら冒険者グループのようだな」


 テントの中には横になった人が見えた。微かに寝息も聞こえてくる。

 ドルフがテントの中に入り彼らの右腕を手に取り袖をまくる。

 3人とも右腕には4本の線があった。


 テントから出てきたドルフがカイルに報告をする。


「リステラ症候群の特徴と同じだが、これまでの患者とは年齢が違う。10代前半までの子どもでも、50代後半以上の老人でもない」

「町の外での野宿に関して注意を促しておいた方がいいかもしれないな」


 2人の話を聞くに、リステラ症候群の発症のタイミングは夜ではないかと考えられているとのことだ。

 というのも、どのリステラ症候群発症者も朝になり起こそうとしても起きず、右腕には4本の線が現れているという。

 リステラ症候群の対象になる年齢の家族や友人を持つ人は、守るために彼らが眠らないように夜を一緒に過ごすという対策を取るという。しかし0時を過ぎた途端に対象者は強烈な眠気に襲われる様子を見せ、意識を失ってしまうとのことだ。起こそうとしても起きず、彼らが眠ってしまった直後に4本の線が現れるという話らしい。


「どうする? このままにはしておけないが、運ぶにしても4人は無理だぞ」

「俺が残って見張りをしておこう。報告を行い上に判断を仰いでくれ。だがこうなっている以上、下手に町を出ることも危険だろう。何が発症のきっかけになるか分からない」


 まずはとドルフが彼らについて知るため持ち物を調べ始めた。最初の見立て通り、彼らは冒険者だったようだ。しかし依頼書らしきものは見当たらなかったこと、大きな荷物があったことから町から町へ移動している最中ではないかと話していた。


 一応荷物も確認していたが、おかしなものはなく争った形跡もなかったようだ。

 私も匂いを嗅いだり気になるものはないかと探知魔法の範囲を広げてみた。それでも引っ掛かるものはなかった。


 一通り調べ終わったものの成果は芳しくなかったようだ。


「かっ飛ばしてすぐに戻ってくるから待っててくれ」

「安全走行で頼む」


 カイルの言葉にドルフは苦笑いして返答した。


 カイルが指示を出してもグルは走り出さず、私は慌ててもうついて来なくていいこと、カイルの指示に従うようにと言った。

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