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騎獣転生  作者: 赤月 朔夜
第02章 護送任務
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番外編 マルコスの趣味

「……お金がない」

「お前、給料日前はいつも言ってるよな」


 訓練後の休憩でぼやくマルコスにレスターが苦笑いする。


「何に使っているんですか?」

「お気に入りの子に会いに行ったりプレゼントしたり、魔道具だったりお酒も好きで珍しいのが入ってるとついつい」


 会話に入って来たフレイにマルコスが答える。


「やめろとは言わないが散財もほどほどにしておけよ。何かあった時に困るぞ」


 レスターに注意されたマルコスは「はーい」とやる気のない返事をした。


「まぁ、レスターさんの言うことも分かるけどね。でもいつ死ぬか分からないんだから生きているうちに楽しんでおくのもアリだと思わない?」

「そういう考え方も分からないわけではないです」


 レスターが離れた後、残っていたフレイにマルコスは尋ねた。

 フレイは苦笑いしてマルコスに答えた。


 後日、フレイが調べてみると確かにマルコスは遊廓やそこの女性への貢物と思われる宝飾品を扱う店や魔道具店にそこそこの頻度で出入りしているようだった。

 なぜ騎士になったのかと尋ねた時も給料や待遇などが良かったからという返答だった。

 真面目や正義感があるタイプではなく、訓練や掃除も手を抜いていることがあった。


 女性にだらしなく金遣いが荒くて金欠。不真面目でいい加減。快楽主義的な面があり後先をあまり考えない。

 だからこそフレイはマルコスが金で転ぶと信じて疑わなかった。


 その結果、フレイはマルコスに取り押さえられ地面に転がっていた。

 しかもその時のマルコスは、訓練でも見たことがない機敏な動きでフレイを捕らえた。


「なぜ……」

「俺は現状で満足してるんだよね。給料も待遇も。人間関係だって気に入ってる」


 マルコスは楽しそうに話す。その口調はまるで世間話をするように軽いものだったが、フレイを拘束している手は一切緩んでいない。


「だからこそ少し残念だよ、フレイ」


 静かに言ったマルコスは前もって決めていた合図を出して待機しているジェフリーたちを呼ぶとフレイを引き渡した。




「どうして断ったんですか?」


 寮にある図書室で机に突っ伏して眠っていたマルコスは聞こえた声に目を覚ました。体を起こして大きな欠伸をすれば正面の席に座ったジェフリーが目に入った。

 先ほどの言葉を頭の中で反芻し理解すればさりげなく周囲を見回す。ジェフリー以外に人の気配はない。


「誘いに乗った俺ごと叩き出したかったですか?」


 マルコスは他者から見た自分の評価がそう高くないことを分かっている。

 それはジェフリーも例外ではない。彼が真面目な性格だからこそ特に嫌われているだろうということも理解していた。


「そういうわけではありません。ただ、あなたなら乗るだろうと思ったので単純な疑問です」

「それ、俺のことは信用できないって言ってるって分かってます?」


 ジェフリーのストレートな物言いにマルコスは気を悪くした様子もなく苦笑いした。


「そう聞こえませんでしたか?」

「超聞こえました」


 不思議そうに首を傾げて辛辣な言葉を発するジェフリーにマルコスは即答した。


「質問に答えてください」


 正直に答えろと言わんばかりにじっと見つめられてマルコスは思案する。


「俺は今の環境が気に入っていますんで、わざわざそれを壊すようなことはせんですよ」


 マルコスは正直に答えた。

 しかし本当のことを答えてもジェフリーは疑うようにマルコスを見ている。


「あと、趣味の釣りもしやすいんで」


 そう言って微笑んだマルコスは片手で釣り竿を引くような動作を見せた。

 ジェフリーは彼の趣味が釣りだということは初耳だった。


「ジェフリーさんは釣りをしたことはありますか?」

「いえ、ありません」


 なぜ今、釣りの話をしているのかとジェフリーは疑問に感じたがひとまずは彼の話を聞くことにした。


「興味があったら今度やってみてください。釣りのコツはしっかりとした調査と情報収集です。水はあっても魚が居ないところで釣り糸を垂らしたところで釣れません。魚がいるならどんな魚でどんなエサを食べるのか、どんな習性を持っているのか。環境も大切ですよ。水温や水の量、それから流れの速さ、時間帯や陽のあるなし」


 マルコスの語る釣りについてのコツは確かに納得のできる内容ではあった。

 だが、ただの釣りの話だとは思えなかった。


「必要ならエサを撒いて魚をおびき寄せて、時に罠を仕掛けて。そうして魚を釣り上げた瞬間が最高なんです。あ、食べられる魚なら美味しくいただきますよ」

「最近行った釣りで魚は釣れましたか?」


 楽しそうに話しているマルコスへ質問すると彼はにっこりと微笑んだ。


「はい。狙っていた魚がいたわけではありませんが、撒き餌に寄せられた魚を釣り上げることができました」


 ジェフリーはため息をつきたくなったものの、追及したところで彼が素直に答えるとは思えず短く相槌を打つだけにとどめた。


「俺がどっかのスパイだと思ってるなら調べるだけ無駄ですよ。そもそもスパイなら俺みたいに変に目立ったら駄目でしょう? それこそフレイみたいに目立たず馴染むように努力しないと。で、スパイになってという勧誘なら断りました。これ以上、何が必要ですか?」


 肩を竦めると話は終わりだと言わんばかりにマルコスは立ち上がって図書館を後にした。

 ジェフリーもマルコスを引き留めることはしなかった。


 マルコスには釣り以外にもう1つ傾倒する趣味があった。

 それは隠された秘密を探ることである。

 知った秘密をどうするかは特に考えていない。ただ気になるから調べるだけだ。


 そして現在、彼の興味はラナにあった。

 勘ではあるがラナには何か隠し事があるように感じたのである。

 こういう時の勘は得てして当たるものだ。


 そうだな、まずは血液か爪、それから鱗に唾液のどれかを採取してラナが変異種かどうかを調べてみるのもいいかもしれない。

 マルコスはどうやってラナの一部を採取しようかと思案した。

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