123話 町の廃墟にて
「俺とドルフは近くにいたから分かるんだが、ジェドは何でこの『夢世界』にいるんだ?」
そういえば、とデニスさんは怪しむようにジェドさんを見た。
情報量の多さにそこまで気が回らなかったけど、言われてみれば確かにおかしい。
「ドルフたちがいた家に私も後から来たからだ。家の前でオズワールさんが右往左往していたから事情を聞いた」
オズワールさんが起きたんだ。
セレスさんに何かされたような雰囲気だったけど大丈夫だったのかな?
ジェドさんはオズワールに騎士とブライトさんを呼ぶよう言ってドルフたちや地下室のことを調べたという。
その結果、ドルフたちは夢見せ魔法にかかっていることが分かり、助けるため自らこの『夢世界』へとやって来たのだと言う。
「外から夢見せ魔法を解くことはできなかったのか?」
「あまり強引なことをすれば、夢の主の精神にどんな影響を与えるか分からない」
できないこともないが、危険だと判断したため内部から解くことにしたそうだ。
その話が本当ならおかしくはないかな。
「ジェドさんは夢の主を誰だと考えているのでしょうか?」
「地下室で倒れていた女性じゃないかと思っている」
ん? 倒れていた女性? 地下室にいた女性はセレスさんだけなはずだけど。
じゃあ、あの後セレスさんは何かあって倒れたってこと?
何だかこんがらがってきた。
推理ものとか苦手なのに。
デニスさんがその女性の特徴について聞けば、セレスさんと一致していた。
「その女性はセレスだ。だがどういうことだ。俺たちはセレスに眠らされた。なのに、そのセレスも誰かに眠らされたっててのか?」
ドルフがセレスさんを探すことになった経緯と地下室で起こったことをかいつまんでジェドさんへ話した。
「では聞くが、セレス嬢が私たちを『夢世界』へ連れてくる理由はなんだ? まずいことを見られて逃げるための時間稼ぎがしたいなら、ただ眠らせるだけでいい。わざわざ『夢世界』を展開する必要はない」
確かにそうかもしれないけど、『夢世界』がどういうものかは全部ジェドさんから聞いた。
普通に眠らせる場合と『夢世界』に引き込む方法で眠らせた場合の違いが分からない。
『夢世界』の方が使用する魔力が多くて難しそうだけどそれは私の予想でしかない。
「だったら俺たちに夢見せ魔法をかけたのは誰なんだ?」
デニスさんの当然の疑問にジェドさんは首を左右に振って肩を竦めた。
そんなことを話しつつ、私たちは歩き続けていた。
鬱蒼とした森じゃ私も速く走れないから歩くしかない。
「思っているより随分近いんですね」
歩き始めて10分もしないうちに町が見えてきた。
早くない?
「空から見た時は1時間近くかかると思ったが、ここは『夢世界』だからな」
夢だからこそこういう不思議な事象が起こることもあるそうだ。
今とは逆で近くに見えているのに全然近づけない場所とか、空に鏡映しになった町が見えるとか、滝が下から上へ流れていくということもあるとのこと。
それだけ聞くとワクワクするんだけどなぁ。今回みたいな非常事態じゃなければ良かったのに。
近くに見えてから近づけないということはなく、私たちは町の目の前まで行くことができた。
石造りの建物が立ち並んでいるが、壁や扉はボロボロで窓ガラスも割れているものがほとんどだ。
爪跡といった何かが暴れたような跡はなく、年月が経って風化したという雰囲気の廃墟だ。
場所によっては探知魔法が使えるようにならないかなと歩きつつ試していたけど今のところ使えない。
「人がいる気配はありませんね」
物音1つ聞こえないし、匂いもしない。
「あれが巨大な目か」
デニスさんの言葉に空を見上げてみると、遠くからでもはっきりと見えるほどに大きな目玉が空に浮かんでいた。
ただでさえ不気味なのに、瞬きもするから不気味さが増しているような気がする。
ジェドさんの言った通りいくつもの目が浮かんでいて、どれもこの町の方を見ていた。
「このまま黙って見ているわけにもいかない。建物を調べてみよう」
ホラー映画にありがちな、手分けしての調査ということにはならず全員で調べるということなのでそこは安心した。
巨大な目は町の中央からやや北東を見ている。
いきなり町の奥へ入り込むのは危険だということで、まずは手前の建物から調査することになった。
建物の中は思っているよりも綺麗で不思議なことに埃も積もっていなかった。
「気になるものはないな」
気になるような情報はなく、私たちは2階へと上がった。
1つ1つの部屋を調べていく。
最後の部屋は寝室だった。
みんなが調べている中、私は邪魔にならないよう部屋の端でしゃがんでおく。
ジェドさんが描いた絵もそうだけど、布がかけられて見れなくなっているものって気になるよね。
私は近くに置かれた布がかけらている姿見らしいものを見た。
かかってる布、外してもいいかな? 外すくらいならいいよね!
ドルフたちが私の方を見ていないことを良いことに、白い布に爪を引っかけてグイッと引っ張る。
布が落ちて現れたのは予想通り姿見だった。
その姿見はここじゃないどこか別の場所を映していた。
かなり大きな洞で中心にはこっちを見て目を丸くしているセレスさんの姿があった。