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騎獣転生  作者: 赤月 朔夜
第05章 人が変わるという噂と謎
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114話 リジールさんが気になっていること

「あ、ドルフさん、こんにちは。ラナも元気かい?」


 散歩へ向かう途中で声をかけてきたのは冒険者のリジールさんだった。

 屋台で買った焼き鳥をちょうど食べ終わったところのようで、ゴミ箱に串を捨てた直後だった。

 近くにいたガロイドさんも私たちを見ると手を上げて挨拶してくれた。

 彼らとはこれまでにも何回か交流がある。


「ラナに焼き鳥をあげてもいいですか? ちゃんと冷ますので」


 くれるなら欲しい!


「1本であれば構いませんよ。ありがとうございます」


 私の期待が通じたのか、ドルフからの許可が出る。

 リジールさんはその屋台で焼き鳥を買ってから息を吹きかけ冷ましてくれた。


「ええと、どうやってあげたらいいですか?」

「そのまま口元へ持っていってください」


 言われた通りにリジールさんが手を私の口元へ近づけた。開けた口の中に焼き鳥が差し入れられてから口を閉じる。


「串をゆっくりと引いてください」


 ドルフの指示でリジールさんが串を引く。


「かたっ」


 私はがっちりと串をくわえて離さなかった。

 困惑した様子でリジールさんがドルフを見る。そんな彼の表情が面白くてクルクルと喉を鳴らした。


「ラナ?」


 ドルフから少し低く、とがめるように呼ばれてあごの力を緩める。


「あ、抜ける」


 串はスルスルと抜けて私の口には焼き鳥だけが残った。

 うん、冷たすぎずいい温度。タレも鶏肉も美味しい。


「すみません。ラナのイタズラです」

「いえ、大丈夫です。気に食わないことがあったのかと不安になりましたけど」

「むしろその逆でしょう。ラナに気に入られているんだと思いますよ」


 ドルフの言う通りだ。

 こう、友達の肩を叩いて振り返らせた時に伸ばしていた人差し指が友達の頬に当たるとかそんな感じのイタズラに似た感覚だね。

 初対面の人にはやらないし、苦手だったり関わりたくない人にもしない。


「それなら良かったです」


 撫でてもいいのよ? と、私はクルクル喉を鳴らしてリジールの体に頭を近づけた。


「良ければ撫でてやってください」


 ドルフが言うとリジールさんは微笑んで私の頭を撫でてくれた。


「おー、最初は顔を引き攣らせてたのにな」

「仕方ないじゃないですか」


 ニヤニヤとからかうガロイドさんにリジールさんは嫌そうな顔をした。


「爬虫類は得意じゃないんですよ。でも、こう懐いてくれると可愛く見えますね」


 最初はちょっと距離があったもんね。仲良くなれて良かったよ。


「冒険者稼業は順調ですか?」

「まぁそれなりにな」


 ドルフは彼らに限らず、散歩や見回りの時に知り合いを見かけると積極的に声をかける。


「何か困っていることや気になることはありませんか?」


 これもお馴染みの質問だ。

 日頃から交流しておくことで聞きやすくしているんだろう。

 凄いよね。

 でも、私だって交流には貢献しているという自負がある。今回みたいに私へ話しかけてくれる人も結構多いからね。


「困ってることはありませんが、気になることなら2つあります」

「ぜひ聞かせてください」


 場所を移した方がいいかとドルフが尋ねると、リジールさんは少し考えた後にそこらの裏路地でいいと返答した。

 それならと大通りから裏路地へと入る。


「まぁこの辺りでいいでしょう」


 大通りの喧騒が遠くなりやがて聞こえなくなった辺りでリジールさんは止まった。

 念のためとドルフが魔道具の音消しを使用する。リジールさんはそこまで大袈裟なことじゃないと言いながらもお礼を言って話し始めた。


「1つ目は人手の問題ですね。先日、ラテルがリステラ症候群に見舞われたでしょう? あの時、真っ先に逃げ出した冒険者やら商人は気まずくなったり、図太くラテルで活動しようとしていたものの上手くいかなかったりで町を離れた人がそれなりにいるんです」


 人が眠ったまま起きない、原因も分からないとなれば怖くなって仕方ないよね。出て行こうとした人の気持ちも分かるけど、その人への態度が変わってしまうのも分かる。

 そんな状況でもリジールさんたちは残ってくれた冒険者だ。凄くありがたいし大切にしたいと思うのは当然だ。きっと他の人も同じなんじゃないかな。


「盗賊や危険な魔物が現れた時に調査または討伐で人手が必要になります。そういう事態になった時に冒険者だけでは対応できなくなるかもしれないんですよね。心配しすぎなのかもしれませんが」

「いえ、とても参考になります」


 苦笑するリジールさんにドルフはお礼を言った。


「もう1つの気になることも冒険者に関してなんですが、デニスさんて知っていますか?」

「えぇ、知っていますよ」


 知っているなら良かったと微笑んだ後、リジールさんは何か考えるようにドルフを見た。


「僕が知っている彼は、昼間っから酒浸りになり、新人冒険者がいれば馬鹿にし喧嘩を売るなど正直関わりたくないタイプです。ただ、以前の彼はとても真面目な人だったという話も聞いたことがあります」


 ドルフは肯定して以前の彼について話し始めた。


 デニスさんは中級冒険者だそうだ。さらにその先を目指して努力したが、報われなかったらしい。

 思うようにならない現状と伸び悩む能力に苛立ちや不安を募らせているように見えたという。


 リジールさんが聞いた話と差はないようでドルフは頷いていた。


「じゃあやっぱり変ですね。ここ2周間ほど前から急に素行が良くなったんですよ」


 酒は飲むがきちんと加減をし、新人冒険者に絡むこともなくなった。

 絡んで迷惑をかけてしまった新人冒険者には謝罪まで行ったらしい。


「それ自体は大変喜ばしいことなんですが、人ってそう簡単には変われないもんでしょう? だから何があったのか調べてみたんです」


 まずは客観的な事実を得るために冒険者や冒険者協会の事務員たちにデニスのことを聞いた。

 彼らは口々に憑き物が落ちたかのようにデニスさんが真面目な冒険者に戻って良かったと答えた。

 彼らの中にはデニスさんへ何があったか尋ねた者もいたらしい。


「彼はこう答えたそうです。『運命的な出会いがあった。彼女のためにもう1度頑張ろうと思った』と」


 その発言は何人か聞いていたようで信憑性が高いそうだ。


「その女性について調べようとしたんですが無理でした」


 女性との出会いについて聞いた冒険者たちは自分たちにも紹介してくれと言ったそうだが、断られてしまったという。


「『これから口説こうとしているのにライバルを増やせるか』ってことらしいです」


 リジールさんは疲れたようにため息をついた。


「どうにも怪しいですよね、その女性」


 まぁ確かにね。私もその女性がきっかけだろうとは思う。デニスさんを更生させたこと自体はいいことだろうけど、いきなり様子が変わったことが不安で何か別の目的があるんじゃないかと感じる気持ちも良く分かる。

 ……似たような話をつい最近聞いた覚えがあるんだけど、これって偶然なのかな?

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