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騎獣転生  作者: 赤月 朔夜
第05章 人が変わるという噂と謎
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112話 ジェドさんの料理

「待たせてすまなかった」

「いえ、大して待っていません」


 待合室に入って20分ほど経ってからジェドさんはやってきた。床で横になりながらジェドさんを見る。


「店は順調そうですね」

「ありがたいことにな。だが、これを継続し発展させていくことが難しく、またやりがいのあることだと知っている」


 そう言うジェドさんの言葉には不思議と説得力があった。「聞いている」とか「分かっている」じゃなくて「知っている」というのもその印象を後押ししているのかもしれない。

 何かこう、実感のこもった言い方な気がする。雑貨屋じゃないけど他にもお店を持っているとか?


 ……いやー、お店はないか。

 商人というよりも、王様って感じだし。

 お店じゃなくて国として考えた場合でも、今のジェドさんの台詞が当てはまりそうなんだよね。

 まぁ、ファンタジーアニメや漫画でのイメージだから色々違うかもしれないけどね。

 でも王様だったらここまで自由に動けないような気がする。それにジェドさんはラテルに移住したいって話だよね。


「ラテルでの生活はどうでしょう?」

「まだ数日だが楽しく過ごさせてもらっている。善良な人が多くそれなりに活気もあって良い町だな」


 私にとっては2つ目の故郷みたいなものだ。褒められると嬉しくなる。

 それはドルフも同じだったようで嬉しそうに微笑みを浮かべていた。


「さて、昼食にしよう。また待たせてしまうことになって申し訳ないんだが、これから作るのでここで少し待っていてくれ。あぁ、調理風景が見たいなら構わないがどうする?」

「興味はありますが、邪魔になってしまうでしょう。ここでラナと待っています」


 では行ってきますとジェドさんは待合室から出て行った。


 ジェドさんの料理か。どんな料理だろう。

 ただ待っているだけというのも暇なので、ドルフに近づき彼の膝に頭を乗せた。


「大人しく待っていて偉いぞ。もうしばらく頑張ろうな」


 ドルフは優しく言いながら私の頭を撫でてくれた。それが心地よくて自然と目が閉じる。


 そうして待つこと約20分。

 お盆の上にいくつか食器を乗せたジェドさんが戻ってきた。

 その食器からは美味しそうな匂いが漂ってくる。


 この匂いはお味噌汁!?


 今の世界へやってきて初めて嗅いだ、懐かしい匂い。

 ジェドさんが机の上に置いたお盆にはご飯と揚げと豆腐のお味噌汁、そして焼き魚に玉子焼きまであるザ・和食だ。フォークとスプーンの他にお箸まで用意されている。

 これまで見た主食はパンやらパスタといった小麦粉系の料理ばかりだった。ご飯もお味噌汁もこの世界で初めて見た。


 凄く懐かしい。食べたい。

 ドルフにねだれば少しくらいもらえないかな?

 いきなり興味津々そうにしていたら怪しまれるかもしれない。こう自然な感じを心がけよう。


「初めて見た料理ばかりだ」

「鴉の故郷で良く食べられているという料理を再現したものだ。繊細な味わいで私は好きなんだ。気に入ってもらえたらいいんだが」


 そう言いながら箸を手に取ってドルフに使い方を説明した。

 すぐに使うのは難しいだろうからフォークとスプーンも用意したとのことだった。

 言われた通りにドルフはお箸に挑戦してみたが、上手くいかずフォークとスプーンで食べることになった。


「優しい味ですね。とても美味しいです。特にこのお味噌汁というのがご飯に良く合います」

「それは良かった。私も作った甲斐がある」


 自分の分も用意していたジェドさんはお箸を完璧に使いこなして食事を進めている。

 鴉さんから教わったんだろうね。


「鴉は食にうるさくてな」


 試行錯誤しては駄目出しをされたとジェドさんは懐かしそうにしながら苦笑いをした。


 私はドルフに用意されたお味噌汁に顔を近づけて匂いを嗅いだ。

 お味噌の良い匂いがする。


 私も飲みたい。もらっちゃダメ?


 と、問いかけるように私はじっとドルフを見つめた。

 この方法でたまに焼き魚や果物なんかをもらっているのでドルフには伝わっているだろう。

 問題はもらえるかどうかだ。


 ドルフがお味噌汁の原材料をジェドさんへ聞いてくれる。


「それならあげても大丈夫そうですね」


 ジェドさんに許可も取ってくれた。


「あげるのは構わないがどうやって飲ませるんだ?」


 お味噌汁は液体だ。

 水を飲むように舐めて少しずつ飲んでもいいけど、衛生的なことを考えてドルフへの影響が怖いからそれはできない。


 そういうわけで私は口を開けた。

 ドルフはスプーンでお味噌汁を何回かすくって私の口の中へ入れてくれた。

 懐かしいお味噌汁の味だ。凄く美味しい。


 私はお礼をするようにドルフの体に顔を擦り付けてクルクル鳴いた。


「美味しかったか? 良かったな」


 そう言ってドルフは私の頭を撫でてくれた。


「ドルフとラナは本当に仲が良いんだな」


 ジェドさんはそんな私たちのやり取りを微笑ましそうに見ていた。


「ドルフとラナをモデルに絵を描いてもいいか? ドルフとしてもここへ通う理由になって私の監査がやりやすくなると思うぞ」


 彼の提案はドルフにとってもメリットがある。逆にデメリットもあるのかもかもしれない。

 ドルフは考えるように黙った。


「私の手料理もつけよう。どうだラナ? また食べたくないか?」

「ラナを食べ物で釣ろうとしないでください」


 前半はドルフを見ながら、後半は私を見ながらジェドさんは言った。

 そんなジェドさんにドルフが注意をする。

 私はと言うと、ジェドさんの言葉につい期待して尻尾を揺らしてしまった。


「ラナが嫌がったら止めさせてもらいます」

「もちろんそのつもりだ」


 少し考えた後、ドルフは了承した。


 その後、ジェドさんは私たちを見て絵を描き始めた。特に動きを制限されることはなく、ドルフにくっついたりジェドさんが描いている絵を覗いても止められることはなかった。

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