107話 辻馬車関係者のあれこれ
「私は先に彼をラテルまで運ぼう」
レパルがいなくなった後、馬車が動かなくなってしまったので調べてみると車輪が壊れてしまっていた。
ドルフやブライトさんも手伝って車輪の交換をすることになったんだけど、時間が惜しいということでジェドさんがケネスさんを運ぶと言った。
そして、ドルフが止める前にジェドさんはケネスさんを背負って走り出していた。
森の中だというのにあっという間に見えなくなった。ちらっとしか見えなかったけど、体はあまり揺れておらずケネスさんの体を気遣って走っていたんだろう。
その後、ラテルに戻りながら彼らから話を聞いた。
彼らは同じ村出身で組んだ【クスフェの苗木】という4人の冒険者パーティーで馴染みの辻馬車の護衛をしている途中だったという。辻馬車っていうのはバスの馬車版みたいなものらしい。
これまでにも数十回と受けた依頼で豹ことレパルに襲われたのは今回が始めてだったという。
というのも、本来はもっと西南に生息する動物だそうだ。
メイデナさんから連絡を受けたカイルたちとも合流できたので、ドルフが事の顛末を伝えた。
他の馬車が襲われる恐れがあるため、カイルたちはこれからフロジアの森へ向かってレパルを退治するという。
それから特に問題が起こることなく私たちはラテルへと到着した。
「ケネスさんは城へと運び治療してもらっています」
そこで門の前にいたジェドさんとも合流した。
ジェドさんは【クスフェの苗木】の人たちに囲まれて感謝をされていた。お礼だと膨らんだ布の袋を渡されていたが、ケネスさんの療養やその間の滞在費用などで何かと必要だろうからと断っていた。
「改めて、助けてくださりありがとうございました。ぜひお礼をさせてください」
ノーマンさんや【クスフェの苗木】がドルフたちや乗り合わせて途中から戦闘に参加してくれた2人にもお礼を言った。
「いえ、駆けつけた時にはすでにレパルはいなくなっていました。その後のことについても騎士として当然のことをしただけです。それに、あなた方の窮地はこの子が教えてくれたんです」
ドルフに撫でられたことが嬉しくてクルクルと鳴く。
「お礼ということであれば、私の店に来てもらえないでしょうか。近々ラテルで雑貨屋を開業するんです」
ジェドさんは微笑みお店の場所やいつ開店するかを伝えた。
抜け目がない。
「オズワールさんとフィオニーさんは何かご希望はありますか?」
馬車から飛び出した2人だ。
オズワールさんは薄緑色で肩にかかるほどの髪に青色の目をした20代前半ほどの男性だ。黒縁の眼鏡をかけていて杖を持っている。
フィオニーさんはというと、薄水色の髪で肩より少し上ほどのボブヘアだ。小柄なこともあって10代後半くらいの歳に見える。それから体内に魔石があるから魔族だろう。
あと、彼女の顔の上半分は犬の仮面に覆われていた。
探知魔法で分かったんだけど、彼女の目は2つではなく、大きな目が1つだけあった。
それが理由で犬の仮面をしているのかもしれない。
「あ、いえ。気にしないでください。本当に」
オズワールさんはおどおどと居心地悪そうに答えた。
「私はあるよ! ラテルのオススメの宿と飲食店が知りたいな。特に甘味処!」
フィオニーさんの方は即答だった。ちらりと見えた歯は尖ってギザギザしていた。
2人は観光目的でラテルへ向かっていたのだそうだ。
彼らの予算を聞いたノーマンさんは言われた通りにオススメの場所をいくつか伝えた後、それだけだけでは気が済まないからと数日分の宿代と食事代を渡した。
そんなやり取りが行われ中、私はずっとフィオニーさんに見つめられていた。
触りたいのかなと思って屈んでみても、顔が下がっただけでじっとしている。
「……あ、あまりじっと見ない方がいいんじゃない? 威嚇していると思われてしまうかもしれない」
私を刺激しないためか、オズワールさんは小さな声でフィオニーさんへ話しかけた。
オズワールさんとは1度も目が合わないんだよね。じっと見つめると顔を逸らされた上で距離を取られる。
フィオニーさんへ話しかけるためか今は近くにいるけどね。
まぁ、見た目が結構いかついから怖がられるのも仕方ないかもしれない。
「大人しい子なので大丈夫ですよ。ラナがどうかしましたか?」
「ディナルトスが大人しく言うことを聞いてるのが凄いなって。それにカッコイイ!」
フィオニーさんは大興奮という様子で答えた。
「触ってみますか?」
ドルフは彼女の言葉にお礼を言った後でそう提案した。
オズワールさんは顔を引き攣らせてフィオニーさんの腕を掴み首を横に振っていた。フィオニーさんは大丈夫だってとオズワールさんへ微笑むと、ドルフにお礼を言った。
そして、ゆっくりと手を伸ばすと恐る恐る私の体に触った。
その手つきはとても優しく、私はクルクルと喉を鳴らした。
「おぉー。ツルツルしてる」
「フィー、何か音を鳴らしてる。まずいんじゃないの?」
「えー? でも気持ちよさそうに目を細めてるよ」
フィオニーさんは楽しそうに、オズワールさんは怯えたようにフィオニーさんの袖を引っ張っている。
真逆の反応だなぁ。オズワールさんの反応は最初の頃のリオルさんを連想する。
それから少しして私たちは解散した。フィオニーさんは私に手を振ってくれた。
その後、私たちは森へ戻ってカイルたちと合流した。周辺にレパルや他の危険生物がいないか、困っている人がいないかの調査をする。
「レパルの生息域はどこなんだ?」
「近くだとラテルから西南にあるサンプトの森です」
ドルフの返答にジェドさんは考えるように左手を顎に添えて考える素振りを見せた。
可能性の1つだと前置きしてジェドさんが言うには、ウォルダムたちがラテルへ来る前にウォルダムたちがサンプトの森で食事をしたり、森の上空を飛ぶなどしてサンプトの森に住んでいたレパルたちが逃げ出してしまったのではないかということだった。
「ラナへ会いに来ているというウォルダムたちは、恐らくゴルガ山に住んでいるウォルダムだ。そして、ゴルガ山とラテルの間にはサンプトの森がある」
「確かにウォルダムを見たレパルたちが驚いてフロジアの森へ移動したと考えられますね」
ドルフはジェドさんの意見に納得した様子を見せた。
シロさんたちが来てくれて嬉しかったけどこういう問題も起こるのか。でもどうやって解決したらいいんだろう。
レパルがいなくなったらいなくなったで生態系が崩れたりと別の問題も起きそうだ。
何か手伝えることがあればいいんだけどな。
「とても参考になりました」
「力になれたのなら良かった」
ドルフがしたお礼に対してジェドさんは微笑んだ。
調査では特に問題はなさそうだったため、私たちはラテルへと戻った。