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騎獣転生  作者: 赤月 朔夜
第05章 人が変わるという噂と謎
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103話 ジェドさんの訪問

「本日の予定を伺っても良いでしょうか?」


 ドルフがジェドさんに今日の予定を尋ねる。


「生活基盤を整えるために商売を始めるつもりです。今日はそのための市場調査を行おうと思っています」


 生活基盤を整えるってことには納得だけど、その手段がまさかの商売だった。

 魔族かつ強そうな人だから冒険者になって無双するんじゃないかと勝手に思ってたよ。


「今のところ雑貨販売を考えているので雑貨屋を中心に見て回る予定です」


 雑貨かぁ。

 幅広そうでいまいち想像できない。

 通りを歩いている時に見かけるお店はぬいぐるみとか小物入れ、あとはハンカチとかが売られているかな。

 それ系統なのかな。


「いくつか心当たりがあるのでご都合が良ければ案内します」

「それは嬉しいですね。ぜひ頼みます」


 ドルフの提案にジェドさんは嬉しそうに微笑んだ。


「これもせっかくの縁でしょう。親しくなりたいので敬語での硬いやり取りを止めにしませんか?」

「そう思っていただけることは嬉しいです。ですが、あなたは大切なお客人です。そういうわけにはいきません。ジェド様は敬語でなく話しやすい口調で構いませんので」


 ジェドさんの提案をドルフは断った。


「残念だが仕方ないな。私は話しやすいように話させてもらおう。ドルフさんもいつでも敬語を止めてくれていいからな」


 言葉の通り残念そうにジェドさんは小さく息を吐いた。


「ドルフで結構ですよ」

「分かった。私のことも気軽にジェドと呼んでくれ。ジェドっちでもいいぞ」


 予想外の呼び方だ。ジェドさんてば意外とお茶目さんなのかな。


「ジェドさんと呼びましょう」


 そりゃそうだよね。

 まぁ、ジェド様からジェドさんに変えたのはドルフなりの譲歩なんだろう


 そう思いながら私は2人が握手する様子を眺めていた。


「雑貨屋巡りの前にラナやルナと触れ合ってもいいかな?」


 コホンと咳払いをした後、これまでよりも上がった声のトーンは親しみやすさと穏やかさを感じさせるものだった。


「どうぞ。ただ、嫌がる素振りを見せたら止めてあげてください」

「もちろんだ」


 ジェドさんは嬉しそうに返事をすると私の方を向いた。


 そしてゆっくり近づくと私の体を撫でた。

 それから頭から尻尾、爪まで触られたり観察された。


 この感じ、覚えがある。

 モニカさんに似たようなことをされた。さすがジナルドの彼女さんと言いたくなるほど彼女も生物が好きなようで、目をキラキラさせて全身を撫でまわされた。なんなら抱き着かれた。

 ジナルドとの会話を聞いた感じだと、モニカさんは生物の生態調査をすることが好きらしい。


 そのモニカさんを思い出すくらいにジェドさんは私をじっくり観察している。


「本当におとなしい。ガルには途中で嫌がられ、ギルは座ってから立ってくれなかった。グルには逃げられてしまったのに」


 ガルたちにもやったの!?

 そりゃまぁ、ガルたちならそうだろうね。

 あまり知らない人にベタベタ触られるのは嫌がるだろう。


「ラナを躾ける時や褒める時にあげているおやつはあるか? もしあるならあげても?」

「1つか2つくらいなら大丈夫です」


 ドルフから受け取った小袋をジェドさんが開く。


「はい、あーん」


 ブドウ1粒サイズの木の実をまんだジェドさんが微笑む。

 私はイケメンのあーんに戸惑いつつ口を開けた。


 口を開けて5秒、10秒と時間が過ぎる。

 その間、ジェドさんは私の口の中をじっと見ていた。

 恥ずかしいやら困惑やらでそろそろ止めて欲しいな。


 そろそろ口を閉じようかと思っている時、ようやくおやつが口の中に放り込まれた。


「ほら、もう1つ」


 彼がニコニコと微笑みもう1つ摘まんで私に見せる。

 私は口を閉じたまま彼を見つめた。


 微笑みながら再びあーんと言われたため口を開ける。

 今度はすぐにおやつをくれた。


「ラナ以外のディナルトスであれば機嫌を損ねるだけでなく怒ることも考えられます。ご褒美を上げる時はじらさないでください」

「それは悪かった。次からはすぐにあげよう」


 ジナルドに注意されたジェドさんは素直に謝罪をした。


「ラナも悪かったな」


 謝罪もされたのでいいよという意味を込めてククッと鳴く。


 次に彼はルナを抱えて観察を始めた。


「この右前足の4本線は何だ?」


 ルナの前足にはリステラ症候群にかかった時に現れた4本線の羽マークが残ったままになっていた。

 ジナルドが詳細はお偉いさんに直接聞いて欲しいと前置きしつつざっくりと説明を行った。少し前に起こった問題で解決はしたが、眠り続けてしまう魔法にかかってしまった者の右腕に現れた印だと伝えている。

 ルナも眠ってしまいその時に現れたこと、問題解決後に人間の腕にあった印は消えたが人間以外の生物には印が残ったままになってしまっていること、今のところおかしな様子はないため経過観察中であるといったことだ。


「積極的に調べているというわけではないのか」

「少しは調べたのですが、大した成果がありませんでした」


 私もルナを気にしていた。

 今のところ変わった様子や行動もない。リステラ症候群になって眠っている時には繋がっていた魔力の糸も繋がっていない。

 ただ、羽マークには膨大な魔力が宿っているままなんだよね。


「ルナのおやつもこれか?」

「えぇ、あげて大丈夫ですよ」


 ジェドさんはルナにも私と同じおやつを与えた。

 私の時のようにルナの口の中を見るが2、3秒ほどだった。


「ラナとルナは普段どんなふうに過ごしているんだ?」

「ルナがラナの上に乗ったり、ラナがルナの体に顔を埋めたりですね。2匹くっついて眠っていることもありますよ」

「微笑ましいな。ぜひ見てみたい」

「機会があれば見られるかもしれないな」


 期待して見つめられると変に緊張する。少なくとも今のタイミングで私がルナの体に顔を埋めたりはできない。

 あからさま過ぎるからね。


「さて、それじゃあ雑貨屋巡りへ行こう」


 数分ほど私たちのことを眺めていたジェドさんだが、時間もあるため私たちの観察を止めるようだった。

 こうして、雑貨屋巡りへと向かったドルフたちを私は見送った。

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