101話 探知魔法で探知できない人
新章開始しました。
本日から章の完結まで毎日20時に投稿します。
パチリと目を開ける。欠伸をしつつググッと体を伸ばしてから起き上がる。
今日は快晴で日向で寝転がっているうちに眠ってしまったようだ。
転移魔法なのかよく分からないけど、見知らぬ土地へ飛ばされてからラテルへ戻ってきて約2週間が経った。
いい経験になったと思うものの、1人の時はかなり不安だった。
ローレンさんたちはとても良くしてくれたけど、やっぱり馴染み深い我が家は落ち着くわぁ。
もしまた出かけるならドルフたちみんなで行きたい。それだけで安心感が違う。
ラテルでは基本的に平和な日々が続いている。
もちろん、トラブルがないということはない。酔っ払いへの対応、冒険者同士や夫婦の喧嘩を仲裁したり、迷子の子どもを探したりということはあった。
私からすれば平和なんだけど、騎士や冒険者たちからすれば今のラテルは危機的な状況なのかもしれない。
というのも2、3日に1回はシロさんがお城や町の外にある湖などにやってくるからだ。
つい2日前にはエメさんとラルドさんも来てくれた。2人に会うのは久しぶりだったので嬉しかった。
どうやら私の様子を見に来てくれているようだ。
ただ、ドルフやジナルドたちにとっては大変な出来事で厳戒態勢をとっていた。
そりゃそうだよね。
シロさんたちはウォルダムという竜なんだから。優しいけど、怒らせるときっと怖い。
体が大きいし、草食っぽいけど鋭い爪がある。持っている魔力だって多い。
カバだって草食だけど人間には脅威だからね。
ウォルダムはカバよりよほど大きいし空だって飛べる。脅威にならないはずがない。
のしかかられるだけで潰される。
だからこそ、ドルフたちとも仲良くして欲しい。間違っても戦って欲しくない。そう思って仲良くなるきっかけになればとドルフを彼らへ近づけた。でも、残念ながらシロさんたちには避けられてしまった。威嚇までされてしまったドルフには申し訳なかったよ。
何であんなに嫌がるんだろう。本当に不思議だ。
で、ジナルドの方はというと、シロさんから抜け殻や切ったらしい爪、それから生え変わった鱗などを渡されていたので仲良くなれるかもしれない。
あーでも、うっとりした顔でそれらを撫で回していたせいで、シロさんが少し引いていたような気もする。
『凄いな、手土産か』
『猫や鳥も狩った生き物や見せたい物を見せたりする。それ自体は不思議なことじゃない』
問題はその品だとジナルドは言ってたな。
『ウォルダムの変異種だぞ!? どれだけ貴重か。これまで作れなかった魔道具だって作れるかもしれない』
受け取った品を見てたジナルドは、やや興奮気味にドルフへ説明した。
何か色々言っていたけど専門用語らしい言葉もあって良く分からなかった。
『その反面、できたものによっては大きな争いになりそうだ』
と、その後で頭を抱えた。
ジナルドはそのことを報告しに行き、そのまま戻ってこなかったので緊急会議が開かれたのかもしれない。
どうなるんだろう。
このまま何事もなく落ち着いてくれるといいなぁ。
それはそうと、と近くの木へ意識を向けた。
探知魔法はその木の枝に1匹のマルメが留まっていることを示している。
エリックさんのマルメだ。リステラ症候群事件の後からいるのでかなり長い。
そろそろ監視するのをやめて欲しいけど、残念なことに許可は取ってあるみたいなんだよね。
エリックさんの目的は何だろう。
私に対してあからさまな接触はない。
それがまた不気味でもある。
エリックさん本人はと言うと、たまにお城へやってきて2、3時間ほどで帰っていく。
黒板のようなボードがある部屋で悪魔についての講義をしている。参加者はドルフとリオルくんの2人だ。
何をしているのか知りたくてあれこれ考えた結果、探知魔法でエリックさんの指の動きを見て書いた字を推測するという方法を編み出した。
同じように、口の動きを観察することで話したことも分かるんじゃないかと思ったけど難しすぎた。
そんなことを考えている時、探知魔法で気になる反応があった。
場所は正門。
お客さんがやってきて手続きが終わった後、普段であれば騎士がそのお客さんを目的の場所へ案内する。
それが手続きも含め、いるはずのお客さんが探知魔法に反応していない。
否が応でも、ウォルダムたちと一緒にいたある夜のことを思い出す。
謎の集団がウォルダムたちの住処へ来ようとしていた時のことだ。
それを阻止してくれた人たちもいた。そのうちの1人が探知魔法に反応しなかった。
目視で見えたのは、男性と思われる足だけだった。しかも、その足先は私の方を向いていた。
その後は結局何もなかったんだけど、とても不気味な夜だった。
私は不安に思いながら誰かを案内しているであろう騎士の行く先に注目した。
お城の階段を上がり廊下の端を歩いている2人の騎士。彼らの間に訪問者がいるんだろう。
お、このルートだと窓からお客さんの姿が見えるかもしれない。
立ち上がってお城の3階にある窓を見る。
残念。窓の近くを歩いている騎士しか見えない。
ともかく、見える範囲にいる間は見続けよう。
騎士が窓を通り過ぎた後、長い金髪に金色の目をした男性の姿が見えた。
歳は20代後半くらいで黒い外套を羽織り、中には白いシャツを着ていて赤いネクタイを締めている。
切れ長な目に高い鼻、形の整った眉に染みひとつない肌。パーツが良いだけではなく配置も絶妙だ。
細身で長身。手足も長そうだ。ムキムキとは言わないまでもそれなりに体格が良い。
非常に容姿が整った彼は窓から外を眺めていて、私を見ると微笑み手を振った。
探知魔法に反応のない透明人間はイケメンだった。
私が見ていることもバレた。
え、こわっ。
何だろう。偶然じゃないような気がする。
彼は最初から私の方を見ていた。ただ庭を眺めたかっただけなら、まずは見やすい正面を見るはずだ。
しかし、私がいるのは彼から見れば斜め左上辺りだ。
真っ先に見るような場所じゃない。
私は驚いて彼を見ていたが、彼は5秒も私のことを見ていなかった。
その後は騎士たちに何か声をかけられ再び歩き出した。彼らと一緒に目的の部屋へ向かっているんだろう。
次に彼らが足を止めたのは、お偉いさんがいる応接室らしき部屋だった。
騎士たちは部屋の前で待機し、中のお偉いさんが来客を迎えるように部屋の入口へと移動し、その後でソファーへと移った。
お偉いさんの動きしか分からないものの、相手にとても気を遣っているような気がする。
少なくなった相手の飲み物を追加したり、とにかく相手の動きに注視しているような感じだ。
お偉いさんがそんな態度を取るということは、それだけあのイケメンが凄い人なんだろう。
私は得体の知れないイケメンに不安を覚えながら、お偉いさんの観察を続けた。