表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【短編908文字】亜人の父 【3分で星新一のようなショートを読んで見ませんか?】

作者: ツネワタ

カクヨムにも掲載中

 国一番の腕を持つ写真家の男がいた。


 男は人があまり好きではなかった。


 とある日、男は世界で一番美しいアルバムを作ろうとカメラを持って旅に出た。



 しかし、身の回りの世話をしてくれる者たちが必要だと男は思い、『山羊』と『灰狼』と『野豚』を連れて国一番の科学者の元を訪れた。



 科学者は写真家と同い年で優秀ではあったが性格の悪い男だった。



「この三匹を二本の足で歩き、人の言葉を解せるようにしてほしい」


 その頼みに科学者は応え、男の細胞を使って三匹は人間のように振る舞えるようになった。


「父よ。荷物を持ちましょう」と運搬役の山羊が言う。

「父よ。食事を作りましょう」と食事役の野豚が言う。

「父よ。敵が出たら私が追い払ってみせましょう」と護衛役の灰狼が言う。


 写真家を『父』と呼ぶ働き者の三匹を連れ、男は諸国を旅して写真を撮った。


 同時に人嫌いの男も従者三匹には心を開き、楽しい記憶も増えていく。



 しかし、男は「所詮は獣。写す価値はない」と写真には残さなかった。



 ある晩。灰狼が食事役の野豚を喰って、そのまま逃げてしまった。



 どうやら、夕食の匂いに充てられて我慢が効かなかったようだ。

 残る荷物係の山羊も恐れをなして逃げ出した。


 男はなおも旅を続けた。諸国を巡り、アルバムの嵩はどんどん増える。


 数年後。男は国に帰った。すべての国民が彼の写真を見たがった。



「あれ? 写したのは景色だけかい?」

「何だか風景ばかりでつまらないなぁ」



 国民たちは男の写真にそっぽを向いた。

 そこで男は気づいた。ともに旅をした従者たちの顔を思い出せない。



 楽しかった事も。嬉しかった事も、辛かった事も。苦しかった事も。

 何も残していない。自分を『父』と呼んでくれた彼らの事を。


 喰われた野豚は成仏できただろうか。逃げた山羊は今も元気だろうか。灰狼は罪に苛まれて苦しんではいないだろうか。男はそんな事ばかり考えるようになった。


 それから数十年後。男は不運にも事故に遭う。こと切れる寸前に彼はこう呟いた。



「美しいアルバムの中にではなく、撮る事の出来なかった写真にこそ私の人生があったのだ」



 人嫌いの写真家の葬儀には皮肉にも遺影はなく、参列する者もいなかった。

 

 事故現場には花一つ添えられなかったという。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ