2話 【妹】
今日、卒業式が終わった。これで、もう3人そろって学校へ行くことはなくなる。やっぱり寂しいな。
そう言えば、あの時貰った黒い石。あれは肌身離さずに持ってる。あれを持っていないとあの黒い炎が出てきてしまうんじゃないかって不安なんだ。俺は臆病だ。俺だけが傷つくならいい。でも、兄弟たちや父さんまで傷つけたらどうしようって不安なんだ。
「兄さん。今日は一緒に帰ろう。」
「優。おう、最後かもしれないしな。」
3人で父さんが待つ家へ帰る。これが最後にならなきゃいい。そう思う。なのに何でだろう。そうはならない。そんな確信もある。…今は、この時間を楽しもうか!
「それにしても兄さんは気が早いよ。姉さんが関西のほうに行くのはまだ先でしょ?なのに最後って。」
「え?そうか?だって、3人で学校に行って3人で父さんの待つ家に帰るってのは最後だろ?」
「それは、そうだね。」
「兄さんがそんなこと思っててくれるのは僕は嬉しいな。僕が関西に行ってもさ、兄弟っていう縁は途切れないんだからまたいつか会えるよ。」
「ま~た優が小難しいこと言ってるよ。」
「そうかな?僕は姉さんの言った意味が理解できたけど?」
やっぱり2人はすごい賢い!そんな賢い理志とまた同じ学校なんてついていけねえ。やっぱりあの事断らなきゃだな。
「兄さん、帰るんだろ。」
「おう。」
俺らは、帰りながら沢山話した。次に行く学校の不安や期待。主に俺が聞いたからな。理志の不安は、無いようだった。でも、俺は心配だ。勉強のことは心配してない。人間関係のことだ。いじめられやしないか、仲良くできる人ができるか、とか。聖学への期待もないって言っていた。普通進学するときは不安や期待ってものがあるんじゃないのか?お兄ちゃんは心配です。そんなんではぶられやしないか、ちゃんとやって行けるのかどうか。
優は、不安も期待もあった。不安のほうは、優なら大丈夫じゃないかって思ってる。だって、仲良くできるかどうかなんだぜ?大丈夫だろ。期待は、いろんな人と話してみたいなだって。それを聞いた時笑っちまった。だってさ、不安と期待が矛盾してるんだぜ?笑うだろ。笑って待ったら優が拗ねちまって、その後のご機嫌取りが大変だったぜ。あ~あ、これから一週間優の好物を作らなきゃな。でも、これくらい可愛い我儘だろ?俺の兄弟たちすっごくかわいいだろ!優と理志は正反対みたいだけど同じなんだぜ?例えばさ、俺がけがした時とかは、何も言わなかったりもするけど顔が心配してます!って顔してるんだぜ、2人ともが!後な、俺に隠し事するとかそっくりだ。気づいてないと思ってんのかな?…でも、俺は待ってるんだぜ。2人から話してくれるの。いいお兄ちゃんだろ。俺だけ仲間外れだと思うだろ?でもそれが違うんだよな。優は俺が何か知ってるのを知ってるし。それを黙ってることも気づいてる。だって、この前、ありがとうって言われたんだもん。何の前触れもなくだぞ。それに、“今は言えない。でも大人になったら言う”って言われたりもしたしな。そう言ってくれるだけでも嬉しいんだぞ。まあ、でもその時は、何のことだかって言ってごまかしたし。でも、理志は気づいてない。俺や、優が隠し事について知っているっていうこと。父さんも一緒に隠してる。でも、2人ともわかりやすいんだよな。それに、鈍いし。だってさ、優の隠し事なんも知らないだよ。隠し事してることさえ気づいてないんだ。あんなに怪しい時があったのに。それに、俺も隠し事作っちゃったしな。俺は3人を守りたくて、心配かけたくなくて隠してるんだ。3人もそんなことを考えて隠してるのかもしれないって思うとなかなか聞けないんだ。だってそうだろ?罪悪感がこんなにあるのを何年も耐えて隠してたのに俺の質問でそれを無に帰すとなるって考えただけどいやな気持になる。だから聞かない。本当は今日聞こうと思ってたんだ。でも、聞けなくなった。あの出来事のせいで。隠し事も作っちゃったしね。だから今日も知らないふりをする。何も気づいてない馬鹿なふりを。そうすれば少しは安心して過ごせるだろ。俺は、俺の気持ちより兄弟たちの気持ちを優先したいからな。
卒業式から月日がたち、4月2日。今日は、あの、ジンとかいうやつとの約束の日だ。そして、今日の午後に優が関西に向けて出発する。だから、午後には帰ってきていたいんだ。
「兄さん。どうしたの?今日は姉さんが寮に行く日だよ。」
「ああ、ちょっとな。優が家を出る前には帰ってくるさ。」
「そう?ちゃんと帰ってきてよ。」
「おう。」
俺は、スマホで聖学の道を調べながら歩いた。少し急ぎ目に。でも、9時に出れたから大丈夫じゃないか?出発は4時頃だったはずだし。断るだけだしな。
此処か。でっか!こんなに大きいのか?進学校ってやつは。家何個入るかな?
「来ましたか。こちらですよ。」
そう声が聞こえてきた。声の聞こえるほうへ行けばいいのか?…にしても、姿もないのに何で声が動いて聞こえるんだ?俺は探した。何かしらあるだろうから。何もない…?
「怜君。此処ですよ。まさか気づいてないとか言いませんよね。」
そう、聞こえて顔を上げてみれば火の玉があった。火の玉から声が聞こえる。
「どういう原理だ!!!」
「は~あ、着いたら説明しますよ。それまで静かについてきてくださいね。」
そう言い終わる(?)と火の玉はふよふよと動いて行った。俺はそれについて行った。説明してくれるって言ってたからな。
「この部屋ですよ。」
火の玉は、建物の中へ入って、ある部屋の前で止まったかと思えば急に消えた。それに驚いていると中から声が聞こえた。火の玉から聞こえていた声と同じ感じの声だ。
「入ってください。」
俺は何も言わずに開けた。こいつに遠慮なんかする必要を感じなかったからな。
「ちょっと!失礼しますの一言も言えないんですか!?」
「うるせえ」
「まあいいです。では説明しますね…」
「ちょっと待ってくれ!俺は寮に入らない。学校には入ってもいいけど寮には…」
「それなら、君を処刑します。…まあ、説明を聞いてから考えても遅くないのでは?」
急に処刑と言われて驚いた。それに極端だなとも思ったな。
俺は説明を聞くのは賛成だったからコクリとうなずいた。
「では、我々は悪魔です。」
俺はすぐさま口を出そうとした。だって、俺も悪魔に数えられていたから。それを見抜いた人に先手を打たれてしまった。“話は最後まで。説明が終わるまで質問はしない。訂正もしない。”と。
「ゴホン!では、続けます。私は炎をつかさどる悪魔です。だから君のことを炎で誘導したでしょう?それは力のコントロールができている証拠ですがね。君は、もっとたちが悪い。君の実の父親は悪魔の王、サタンなのだから。サタンとは、すべてを飲み込む悪魔の王。全てを灰と化す死の化身。サタンの力の証は黒い炎。黒い炎は、すべてを、灰さえも燃やし尽くす。黒い炎を消す方法はまだ見つかっていません。だからこそ、君は危険なのですよ。半魔なのに黒い炎を受け継いでいるのですから。普通は生まれてこれません。魔神の力の証に飲み込まれます。母親と一緒に。でも生まれました。それが不思議でならない。母親を燃やしたのでさえ3人が生まれ切った後でしたから。その様子を見る限り、生まれる前からブラコンだったようですが。君は、奇跡の子であると同時に不幸の子でもあります。君には死か、利用される道しか残っていないのですから。」
その話を聞いて俺はぞっとした。俺が兄弟たちを殺していたかもしれないなんて。俺が利用されることなんてどうでもいい。俺が兄弟たちを殺していたかもしれないってことのほうが重要だった。利用されるならりそれすらも利用するだけだ。兄弟たちのためなら俺は悪にでもなれる。
「さて、質問は?」
「兄弟たち、優と理志には、力は受け継がれていないのか?」
受け継がれていないといい。そうすれば処刑なんて言われないだろうからな。
「ええ。君だけです。言ったでしょ?黒い炎を受け継ぐことさえ奇跡なのだと。」
「そうか。」
「それだけですか?」
「ああ。」
俺には兄弟たちしかいない。だから兄弟たちのことを聞けたらそれでいい。
「では、寮に入っていただくということでいいですね?」
俺はうなずけなかった。やっぱり理志がいる家に帰りたいから。
「じゃあ、聞きますけど、隠せますか?親兄弟に、祓魔師になる訓練を受けていることを。それに、祓魔師になる訓練を受けてる子供たちはみな寮に入っていますよ。君だけは要らないのはひいきが過ぎるのではないかと。」
俺は考えてみた。今の隠し事だけで手いっぱいなのにもっと増えるなんて。それに、ひいきはよくないな。
「わかった。いつからだ。今日からとかは無理だからな。」
「わかってますよ。そうですね。5日くらいにしましょうか。」
「わかった。」
「ではまた、5日に。」
「ああ。」
俺は急いで帰った。早く2人の顔が見たかった。早く、あの穏やかな家に帰りたかった。
「お帰りどうしたんだ?」
父さんだ。寮のことなんて言おう?こう言うか。後でばれてもまたごまかせばいいか。理志には家を出ることだけ言っとこうかな。
「父さん。3日後にここ出てくことになった。それじゃ。」
「おいおい、どういうことだ!」
「どうだっていいだろ!」
「お前、学校にも行かないんだろ?」
「仕事見つかったの。その仕事場に住めるところあるからそこに住むの。」
「そ、そうか。仕事は何をするんだ?やっぱり料理関係か?」
「内緒。」
嘘は言ってないぞ。学生という身分のうちは勉強が仕事だろ?
「あとで教えろよ。」
それに答えないで部屋へ戻った。何も言わなきゃ教えなくてもいいだろ?だって教えるって言ってないんだから。
3時50分になった。優がこの家から離れる時間になった。
「じゃあね。兄さん。理志。父さん。」
「ああ、連絡しろよ!」
「わかってるよ兄さん。」
「姉さん。健康に気を付けてね。」
「うん。理志もね。」
「頑張れよ。」
「うん。父さんはお酒控えるんだよ。」
「ウッ!」
3人で顔を合わせて笑い合った。父さんの反応が面白くて。
「じゃあ行くね。長い休みの日には帰ってくると思うから。帰る前に連絡するね。」
そう言って優はこの家を離れた。覚悟してたけどやっぱり寂しい。今日は理志に頼んで一緒に寝てもらおう。そうすることができるのもあと少しだから。今は甘えてもいいよな。もうすぐ俺も、ここを離れなきゃいけなくなるしな。
4月8日
『新入生代表、工藤理志君。』
「はい」
俺は、聖学に入った。裏口ではあるけど。それまでがなんか大変だった。




