20話 【かっこいい人】
お兄さんが去ってから僕はまた歩いていた。さっきの人が四天王の一人ならもう帰ろうかな。そう思い始めた時、霊移の兆候が見えた。霊移はたいてい過剰霊力がある。その過剰霊力が教えてくれる。此処に今から人が現れますよ、って。
「君が工藤優君?」
現れたのはお姉さんだった。忍者みたいな恰好をしてとてもかっこいいお姉さんだ。
「そうです。」
「うん。私は、徳井 幸榎四天王の一人だ。」
やっぱりかっこいい。」
「かっこいい?」
「はい!かっこいいです!由岐さんとはまた違ったかっこよさがあります!」
「あるよね!私にもかっこよさ!」
「あります!」
「や、やった~!」
お姉さんは喜んでいた。喜ぶ姿は何かかわいかった。
「君いい子!もう合格だよ~!」
「はい!…え?」
「だから、合格!いい子だもん!」
「え、え~~!!!」
「はあ、こんな素直ないい子が法皇候補になってくれるなんて!」
「あ、あの!」
「な~に?」
「試練は?!」
「私がいいって言ってるんだからいいんだよ。」
「でも基準は…」
「それはもともと満たしてたよ。」
「え?」
「私の基準は、式神と仲良くしてることだから。式神や妖と仲良くできない法皇は要らないからね。」
「でも、まだ僕の式神と接する姿を見てないじゃないですか!」
「知ってるんだもん!由岐から聞いたの。こういう情報共有も大切だからね。」
なるほど、由岐さんから聞いたのか。
「それに、女の子ってだけでポイント高いんだよね!だって女だからって見下さないでしょ?同性だもんね。」
「もちろん!僕だって見下されないように僕に直したんですから!」
「私はそうじゃなくて、十二神将以上になって見返してやったな。だって強いと意見が通るんだもん。」
その手もあったのか!
「それに、本来は呪術は女のほうが得意なんだよ?女は陰の気が強いからね。でもね、歴代の法皇の中に女はいないんだよ。歴代って言ってもまだ2人しかいないけどね。」
そうなんだ。
「ふふふ、頑張ってね。後2人かな。」
「いえ、あと一人です。」
「?だって今日は私と羅威しか会ってないんでしょ?」
「いえ、名前は教えてもらってないんですけど。たぶん、三倉さんに会いました。」
「三倉家の!?」
「は、はい。」
「合格できたの!?」
「はい?」
どうかしましたか?と続けようとした。けど、幸榎さんが遮って
「あの腹黒に認められた優ちゃんてほんとはもっとすごい子?」
三倉さんって腹黒なのかな?そんな感じはしなかったけど。
「あ、そうそう。なら、あと一週間くらいはこっち来なくても大丈夫だよ。」
「どういうことですか?」
「最後の一人、賀茂君は今、長期任務中だからね。頑張ってもあと一週間はかかるから。」
たまには遊びな。そう続けられた言葉は僕には入らなかった。僕は期待と不安と安堵がごちゃ混ぜになった気分に陥ったからだ。会えるかもしれないって期待。認められないかもしれないって不安。理志たちをごまかすのがそろそろきつくなってきたから良かったっていう安堵。それから、まだ、昨日の答えが出せてないんだ。一週間の間に出さないと。せめて、会う前には整理しておきたい。陰陽師になるって決意させてくれた人だから。中途半端なまま会いたくない。
「頑張ります!」
「頑張る?何を?」
「では!」
「あ、ちょっと!」
何か聞こえたけど、振り返らずに走った。僕は答えを出せるのかな?それだけが心に残っていたから。




