19話 【基準と目標】
おはよう。昨日は考え事をしながら寝たからいつ寝たのかわかんない。でも、頭はすっきりした。今日は由岐さんが連れてこれたら連れてくるって言っていたから今日も学園に直行かな。
「姉さんおはよう。昨日はごめんね。」
「うんうん大丈夫だよ。でも、もうやめてよね。」
「それは了承しかねるよ。」
「してよ。」
「できないことは約束しない主義なんだ。」
「も~!」
「ほら、ごはんだよ。姉さん。」
「は~い!」
まったく、都合が悪くなったら逃げるんだから。…それは、僕もか。
「あ、理志。学校行く前に言うことあるから少し待ってろ。」
「はい。父さん。」
「じゃあ、先に行ってるぞ理志。」
「うん。先に行っててよ。」
理志も隠し事してるくせに。僕だけ問い詰めるんだ。不公平だと思うんだよね。でも、されて嫌なことはするなって父さんも言ってたから僕は問い詰めないよ。いつかは話してくれと思うし。
「「行ってきます!!」」
「行ってらっしゃい。」
「父さん。」
「お、悪い悪い。」
父さんと理志の2人の隠し事が多くなったのはいつからだっけ。兄さんは能天気だからまだ気づいてないと思う。本当に言ってくれるのか少し不安になる。
「行くぞ優!」
「あ、待ってよ兄さん。」
今は学校のほうに集中しよう。放課後は学園のほうに行かなきゃいけないんだから。
今日の学校もいつも通りつまらなかった。僕には妖たちが見える。歴史なんて妖たちが教えてくれるのに。それに、他の教科だってコンやハクがいるからわかってるのに。
まあ、今日は僕のほうが先に帰りのかいが終わったんだ。先に行ってよう。
「ごめん。もう行かなきゃだからさ、兄さんたちが来たら言っておいてくれない?」
「いいけど。」
「ごめんほんとありがとう。」
「いいって。じゃあね。」
「うん、またね!」
これで大丈夫なはず。さあ、行こう!
あ、危なかった!何で分かったの!?あそこの路地もう使えないじゃん!兄さんもこういうときだけは鋭いんだから!それに何で追いつけたの?僕走ってきたよね?も~!疲れた!
「あ、来たね。」
「こんにちは。由岐さん。」
「昨日ぶりだね。今いるのは、四天王の一人、小路羅威。後からもう一人来るから頑張って!」
「う、うん!」
「じゃあ頑張ってね!」
「え、由岐さんは来ないの?」
「この後任務なんだ。大丈夫。2人の試練なら君なら乗り越えられるから。」
「任務じゃ仕方ないね。」
「じゃあ、いい報告待ってるから。」
由岐さんはすぐに去っていった。僕だけで本当に行けるのだろうか。でも、今までは一人でできたんだ。ならできるはず。頑張ろう。僕の中で気持ちが固まったから行くことにした。さあ、此処からだ。
「君だね。法皇候補君。」
「は、はい!工藤優です。」
「君は、……大丈夫だろう。」
「はい?」
「僕の試練は合格だよ。」
「え、でもまだ何も。」
「君は神聖だ。少しの邪気はある。だけどそれを上回るほどの神聖な空気があるんだ。だから大丈夫。」
「そ、それだけ?」
「そうだね。もし、君の空気が人並みだったらこんなにすぐ合格は出さない。…知ってるかい?法皇候補を審査する前にそれぞれが基準を決めておくことを。滅多なことがない限りそれを満たしてなければ認められない。君は、僕の基準を上回ってる。だから合格なんだ。僕は、君が法皇になるとき忠誠を誓うよ。」
「そうですか…」
「君を見に来ただけだから。じゃあね。優君。」
なんか、一番あっさりしてた気がする。そうなんだ、基準がそれぞれあるんだ。その基準は知らせない、と。なんか怖いな。
僕は敷地内を歩いていた。そうしたほうがいい気がして。歩いていると誰かを見つけた。その人は大人で学園の先生かもしれない。そう思って僕は挨拶をしようと準備をした。
「初めましてだね。法皇候補君。」
それを聞いた時僕は驚いた。それを知っているのは十二神将以上なはずだから。強いと思える空気がなかった。まるで弱いよう擬態してるようだった。何で擬態が必要なのかわからなかった。
「私は君を認めるよ。その反応速度はいいと思うしね。」
「え?」
「ひとつで聞いてもいいかね?」
「ど、どうぞ。」
「今、一番の目標は何かな?」
「かっこいい陰陽師になること。」
「かっこいい?法皇になることじゃなくて?」
僕はそう聞かれてそういえば、と思い返した。一番の目標はって聞かれたら条件反射みたいに答えちゃったけど、今法皇になるための試験中なんだった。でも、本心で思ってるからいいよね。ちゃんと質問にも答えなきゃだよね。
「はい。だって、まだその目標に達成してないから。」
「何をもってかっこいい陰陽師なのか聞いても?」
「人を守れる陰陽師。」
「それだけじゃないよね。だってそれだけならもう達成してるんだから。」
「それと妖をも守れる陰陽師。それが今の一番の目標です。」
「妖も?」
「はい。そんなかっこいい陰陽師になるためにはまず変えなくちゃいけない。そう思ったから法皇になろうとしているんです!だから、法皇は目標ではありません。そこからが僕が頑張りたいところです!」
「そうか。うん。」
今までの綺麗な笑みを消してこう言った。これからよろしく、工藤君。と。それからそのお兄さんは消えた。予備動作の無い霊移だった。過剰霊力もない綺麗な霊移だった。
「まだ、名前聞いてないのに。」




