18話 【2つの夜】
あの後、理志の質問を何とか乗り切り、やり切った感と疲労が残った工藤優です。とても疲れた。
「大丈夫か、ゆう。」
「大丈夫だよ兄さん。」
「ム、そうか。無理だけはするなよ。」
「何さ、兄面しちゃって。」
「兄面って、兄ちゃんだからな!」
「数分の差じゃん。」
「だとしてもだ!俺はお前らの兄ちゃんだから頼ってもいいんだぞ。」
「うんありがとう。でも、本当に大丈夫だから。」
「そうか。」
兄さんは、僕の頭なでた。髪の毛をぐしゃぐしゃにするように豪快に。まるで、父さんみたいに。
「いつでも言えよ。」
「だから!本当に何でもないんだよ。」
「でもな、理志がお前のこと心配してたし。」
「なら、理志のほうを説得してよ。僕が疲れてるのは理志のせいなんだからさ。」
「う~ん。そうかそうか。わかった!言ってみる。」
理志が心配、か。父さんや兄さんにも心配かけちゃってたかな?
「じゃあ、おやすみ優。」
「うん。おやすみ兄さん。」
僕は一人部屋だ。僕だけが女の子だから。僕が男の子だったらまだ一緒に寝れたのにな。そこが少し残念かな。でも、任務に行きやすいし、良いこともある。でも、たまに寂しくなる。まるで僕一人だけが取り残されたような暗闇に無音。僕にはコンとハクがいる。だけど隠形をしてるから僕にも見えないし聞こえない。それがまた怖かった。コンとハクなんて式神が居なくて、陰陽師を知らなくて、僕だけ異物なんじゃないかって。でも、そんな思いは最近はしてない。それは忙しいのもそうだけど、認めてくれた人がいたからだ。僕の世界に家族以外がいるなんて小さい頃は予想付かなかったよ。陰陽師になってから僕の世界は広がった。いてもいいんだって思えたんだ。だからこそ、陰陽師たちに恩返しをしたい。それの第一歩だと思うんだ。法皇になることは。陰陽師の最初の正義、妖たちとの共存。それを実現できたら恩返しになると思うんだ。
最初は憧れから始まった。今は、恩返し。陰陽師でいることで気持ちがどんどん変わっていく。僕にとってはとても嬉しいこと。どんどん大人になっていくみたいで。でも、本当にいいのかな。僕は中途半端だ。守りたかったお兄さんを守れなかった。こんな僕に法皇になる資格があるのかな?法皇は絶対。間違いは犯さない。そんな法皇になれるとは思わない。何で、道希さんは僕を推薦してくれたんだろう?もっといい人がいると思うのに。この問いの答えを見つけられなければいけない気がする。何でだろう。そういえば、“僕じゃなきゃ変わんない”って言われたような気がする。どういう意味なんだろう。他には何か言ってたかな?“優しくなれる”…?
法皇になる。そう決意する前なのになんだそんなこと言ったんだ?まるで優しさが大切みたいに言っていた。も~わかんない!
でも、・・・僕じゃなきゃ変わらない。なら、僕は僕らしく行こう。それが推薦してくれた道希さんの意思なら。それが、法皇になる近道なら。
「そういえば、君があの子を推薦したのはなぜなんだい?」
「それは、危なっかしいからだな。」
「おや、変えてほしいからではなかったのかい?」
「あの子は俺が推薦しなくてもいつの日にかは法皇になっていたさ。ただ俺は、時期を早めただけだ。」
「へえ~、だから推薦したのか。あの子を助けたくて。」
「おいおい。私情で推薦したと思ってんのか?」
「違うのかい?まあ、一番の難関は賀茂君だろうね。」
「ああ、そうだな。」
「彼は、一度のチャンスしか与えない。その一度のチャンスまでにちゃんと法皇の覚悟を身に着けてくれるといいのだけどね。」
「身に着けてくるさ。あの子は法皇になる。」
「はあ、土御門君はわからないと答えたそうじゃないか。なのにどうして言い切れる。」
「かんだ。」
「君の感はたまにだけど未来視を越えてくるからね。」
「でも、賀茂と会うのはまだ先だろうな。」
「そうだね。今は長時間の任務中だからね。」
「期間中に戻ってくるだろうか。」
「それは大丈夫だろう。彼は意地でも戻ってくるさ。」
「それもそうか。」
陰陽学園の一室で話された内容を僕は知らない。だけど、なんとなくもうすぐ会える気がした。憧れだった人。今は越えなきゃいけない人に。




