12話 【正義】
僕が泣き終わったとき、そこにはまだあの人がいた。お兄さんの首を切ったあの人が。
「終わったか?」
その言葉を聞いて僕は、思わず気持ちをぶつけてしまった。僕の本当の本音を。
「終わった?うん終わったよ!お兄さんの人生が。まだ生きられたかもしれないのに!どうして?式神を、妖を無条件で殺そうとするやつが生かされて、式神を大切にして妖の話を聞こうとするやつが死ななきゃいけないの?それのどこが共存なの?陰陽師の、僕らの正義は、妖たちとの共存じゃなの?今のままじゃ、憎しですべて殺す祓魔師と同じじゃないか!どこが違うっていうだよ!?」
「そうだな。同じだな。俺は変えられない。法皇じゃなきゃ変えられない。」
「法皇?」
疑問で一旦怒りが飛んだ。
「そうだ。法皇は知ってるだろ。」
「もちろん。法皇とは、陰陽師のtop。絶対的な存在。」
「そうだ。だから、今の制度を変えるには法皇じゃなきゃいけない。」
「それもそうだ。でも、今は法皇がいないんじゃ。」
「だからだ。工藤優君。君が法皇になれ。そして今の陰陽師を変えろ。」
「僕が…?無理ですよ。だってお兄さん一人も助けられなかった。」
「それは違う。助けようとしたことが重要なんだ。誰も生成りを助けようとしない。それに、君はきっと成長する。陰陽師試験を見て思ったんだ。この子は誰よりも強く、そして優しくなれると。だから誘った。」
「でも。」
「君じゃなきゃ変わんない。頼む。」
そう言って男の人は頭を下げた。一回りも二回りも年下の僕に。それを見て僕は、
「わかりました。」
言った。
「ありがとう。それで、法皇になるための試練なんだが。」
試練。あると思っていたが本当にあるとは。
「半年以内に十二神将以上の奴ら全員の忠誠を集めること。それと、推薦者の忠誠は一番最後にすること。それだけだ。」
「そうですか。」
大変だと思った。なんせ、十二神将以上の人たちは個性が強く、到底まとめられないといわれるほどだ。そんな人たち全員から忠誠を集める。しかも半年以内で。
「それでは、明日から始めよう。そうだった。俺の名は、芦屋 道希だ。よろしく頼むよ。工藤優君。」
芦屋道希。それは、今代陰皇だ。武器のエキスパートでもある。そんな人がここにいるなんて、と少し驚いていると、
「明日、陰陽学園においで。案内するから。」
「わかりました。」
「敬語はダメ。年上だからって敬ってはいけない。その年上たちを動かす立場を目指すならなおさら。」
「わかった。」
「うんそれで良し。じゃあ、君は帰るといい。この子の式神登録はしておくから。」
「ありがとう。」
そう言って、芦屋さんと別れた。もうすぐ日が昇る。帰らなくては。




