11話 【やさしさ】
向かった先にいたのは、あの時、陰陽師試験の時式神登録を教えてくれたお兄さんがいた。お兄さんは、初めて会った時のようにやさしい感じではなくて、黒い靄がかかってる感じだった。その靄は妖の気配と同じ気配を発していた。
「何で、あなたに妖の気配が…」
「こんばんわ。式神は元気?」
「答えてください!」
そんなことを言ってる間に、僕たちを追いかけてきたのだろう2人が追い付いていた。
「お前は、」
上級陰陽師の男、斎藤が何かを思い出すように考え出した。
「あの、狼女の邪魔もの!何でこんなとこに出てきてるんだ?お前は永久に前線には出されないはずだ。なんてったって、殲滅任務を邪魔したんだからな!」
僕は、まさかと思い、お兄さんのほうを見た。そのお兄さんはハクのことを凝視していた。
「そういえば、あの時の狼女は、お前に似てるな。」
「お前が、お前が美咲を語るな!」
お兄さんの感情に影響されているのか、ものすごい突風がふいた。立ってるのもやっとなくらいの風だ。僕たちは僕の霊力をまとうことで何とか耐えているが、下級陰陽師はもう飛ばされていった。
「お前が殺したくせに!また式神を殺そうとしてるのか!」
「式神?それは、式神登録をしてるやつらのことを言うんだよ!」
「ハク?」
「お前が、姉貴を殺したのか。」
「妖の兄弟?もしかして妖の里でもあるのか?」
そう言うと斎藤は高笑いをしていた。
「何なら、お前を俺様が直々に飼ってやろうか?あの女の代わりに!」
「テメェ!!!」
「ハク!」
「もういい。お前は絶対に許さない!!妖を、式神を大切にしない奴らみんなみんな殺してやる!」
そう言ってお兄さんの周りにあった黒い靄がお兄さんの中に入っていった。どんどん禍々しい気配になっていくのを僕たちは見てることしかできなかった。
お兄さんの姿が、生成りへと変わっていった。お兄さんの額に白い一対の角が生えていたのがその証拠だ。
「そんな。」
お兄さんは僕たちには目もくれず、斎藤上級陰陽師に向かって行った。僕はそれを結界で阻んだ。
「邪魔をスル…ナ」
「嫌だ。お兄さんに人殺しはさせない!」
僕は、絶対にどかない。そんな意思を見せた。その間に、斎藤は、泣きべそをかきながら逃げて行った。ここらどうすれば、生成りの意思を戻させられるかわからない。けど、助けたかった。ハクのお姉さんの主なら、ハクの家族だから。優しくしてくれたから。お兄さんは優しい人だから。
此処には僕たちとお兄さんしかいない。だから邪魔は入らない。僕は僕なりの信念で行動すると決めた。だから、絶対に誰も死なせないし、殺させない!そう思ってたのに、
「こんな事になってるとは。」
そこにいたのは、陰陽師試験の時に客席にいた人だった。
その人は、止める間もなく持っていた刀を抜いた。そして、すぐに、お兄さんの首を切った。
お兄さんは倒れ、集まっていた霊力も霧散していった。僕は、お兄さんの近くに寄った。
「お、お兄さん?」
「ごめんね。美咲みたいな式神をもう作りたくなかったんだ。巻き込んでしまったね。ごめんね。」
「違うよ。お兄さんのおかげで、コンが攻撃されることなかったんだ。だからありがとう。」
「そっか。」
そう言ったお兄さんの体は徐々に、崩れていった。まるで、体自体が砂でその砂が崩れていくような感じだった。僕はもう泣いていた。生成りでも、首を切り離されたら死んでしまうと知っていたから。そんな僕を見てお兄さんは、
「後ね、復讐に生きるのはやめてね。虚しいだけ、だか、ら、ネ」
そう言ってお兄さんは完全に消えた。角だけを残して。妖や生成り、妖憑はそうなると知っていたけど実際みるとどうしても悲しくなってくる。涙が止まるまで僕はそこで、泣き続けた。




