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四『新たな疑心』

「キャアアアァァァァ!!」


 1台のワゴン車が嶮しい山道を登ったり、降りたりと、さながらジェットコースターのように走る。


 ここは秋田県の中央に位置する山奥の道。運転手の鈴村は、車一台がどうにか通れるような道を無理矢理運転する。

 助手席に座っている黒石は、もう限界なのか、ビニール袋を手に青ざめている顔を下に向ける。


「黒石、臭いが充満するからまだ吐くなよー」


 鈴村がそう警告するが、黒石からは返事がない。


「す、鈴村さん…、後、どれくらいですか……?」


「う〜ん、後10分くらいかな」


「さっきも…、そう言ってませんでしたか…?」


「そうだったけ?」


 限界なのは1人だけではなかったようだ。後藤も左手で口を押さえ、胃から込み上げてくる物を押し戻していた。


「ま、目的地まで後少しなのは変わらないからね。ラストスパート、飛ばしていくわよ!」


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


「ふ〜、漸く着いたわね」


 やっとの思いで目的地に辿り着き、校庭に車を停めると、黒石と後藤が足元をふらつかせながら外の新鮮な空気を求めて車内から出てきた。


「2人とも貧弱ね」


 鈴村は、自分が運転していたと言う事もあって、出発した時と全く変わらない表情でケロッとしていた。


「着きましたか…」


 ミーナも、黒石達と同じように今にも吐きそうな表情でフラフラになりながら車から出てきた。ミーナは商談等で車以外にも様々な乗り物を乗ってきたので、乗り物酔いをしない自信は相当あったのだが、この様である。それ程までに此処までの道のりが嶮しく、そして、鈴村の運転がどれだけ荒かったのかが明らかだった。


「お、来たわね」


 鈴村が酔い潰れたミーナの肩を持ち、此方へ来る人物に手を大きく振った。


遥々(はるばる)東京からご苦労様でした。私は、校長の室井と申します」


「こんにちは、室井さん。S&Uプロダクション代表の鈴村です」


「そちら、お連れさんですか?確か、3人いると聞いていましたが、後の2人は?」


「向こうで潰れてます。暫くしたら来ますよ」


「そうですか。では、御二方だけ先に我が校を案内します」


 鈴村の目線の先には、膝をついて倒れている2人の姿があった。


「百合香ちゃん、此処は何処なんですか?」


「此処は、学校法人私立クレアベルト学園。秋田県の山奥にある高校よ」


 酔った表情で顔を上げると、眼前には学校とは思えない程外観が整えられ、ヨーロッパにある教会を思わせるような見た目の建物が建っていた。


「凄い…。これ、本当に日本の高校なんですか?」


「ええ、勿論です。我が校は開校から85年の歴史を持つ、伝統ある学校です。最も、今我々の目の前に建っている物は20年前に新しく建てられた物ですがね」


「と、言いますと」


「此処から少し離れた所に新校舎が建つ前に使われていた旧校舎があります。そちらは、お世辞にも綺麗な所とは言えませんが、今回の件では使えるかもしれませんよ」


「…そのようですね」


 鈴村達が何をしに来たかと言うと、例の心霊写真について調べるために来たのだが、普通ならそのような理由で見学の許可が降りる訳がない。何か、別の理由をつけて鈴村達一行はこの学校に来たようだ。


「百合香ちゃん、今回の件ってなんですか?」


「後で話すと思うから、今は気にしないで」


 ミーナが耳打ちで聞くが、鈴村はハッキリとした答えは返してくれなかった。


 その後、ミーナと鈴村は室井に案内され、学校中のあらゆる場所を見学した。だが、2人が探している例の心霊写真の手掛かり等は見つからず、気付けば、1階の来客室に着いていた。


 2人は、来客室にあったソファーに座り、お茶とお菓子を出されて少しだけ身体を楽にした。それもその筈、長時間、車に揺られていたという事もあり、肩の荷が降りたようにリラックスできた。


 それから、体調を戻した黒石と後藤も合流し、室井が今回の件について話を始めた。


「鈴村さん、我が校はどうでしたか?」


「そうですね…。此処もいいけど、やっぱり、次の映画に使うとしたら例の旧校舎の方が良いかもしれませんね」


 そう、鈴村がこの学校を取材兼、見学に来た表向きの理由は次回のホラー作品の映画を作るための撮影場所にしようと事前視察に来ると言う理由だったのだ。


「映画撮るんですか?」


「そうよ。断られるかと思ったけど、室井さんが了承してくれたのよ」


 ミーナが室井の方を見ると、室井は目を輝かせながら鈴村の手を握り、笑顔で感謝の気持ちを伝え始めた。


「私、『THE・ゾンビ』の大ファンなんですよ。鈴村監督が作る作品に我が校を使ってくださるのならば、いくらでも使ってください」


 『THE・ゾンビ』とは、鈴村が映画監督として最初に制作したデビュー作品である。この映画は、1970年代アメリカの低予算映画を思わせるような出来で、少しだけだがマニアなファンができ、鈴村にとって始まりとも言える映画となった。


「ありがとうございます。まだ企画段階なので、この作品がどうなるかは分かりませんが、精一杯頑張らせていただきます」


 鈴村は営業スマイルだった。ミーナ達がよく知る、あの荒々しい鈴村はこの場には何処にもいなかったのだ。黒石と後藤は、そんな鈴村にちょっとした畏怖を覚えていたが、中学からの付き合いであるミーナだけは、この時の鈴村が照れ隠しで笑っている事に気付いていた。


「では、そろそろ旧校舎に行きますか?」


「…そうしたいのですが、私とミーナはちょって疲れてしまったみたいなので、黒石と後藤を同行させます。私達は、此処で待ってますので」


「分かりました…。40分程で戻って来ると思いますので、ゆっくりしててください」


 室井は、鈴村が行かないと言うので少し残念そうな表情をしていたが、それでも、2人の体調を心配してか言われた通りに黒石と後藤を連れて退室した。


「…さて」


 鈴村は、室井達がいなくなったのを確認するとスマホを取り出し、LINEで黒石にメッセージを送った。


 鈴村《何かあったら直ぐに連絡して》


 黒石《了解っす》


 黒石からの返信を確認し、鈴村は席を立ち上がった。


「ミーナ、私達は此処をもう少し調べるわよ」


「──あっ、うん!」


 どうやら、新校舎の方をじっくりと調べるために室井を離したようだった。


「あの人がいたんじゃ調べたい物も調べられない。とりあえず、二手に分かれて──」


 鈴村は焦燥感に駆られながら来客室のドアを開けようと引き戸に手を掛けた時である。


「──え?」


 反対側から引き戸がスライドされ、お盆に乗せた茶菓子を持った、織田信長のような髭を生やした男が来客室に入って来た。


「ああ、すみません。校長に言われて……、こちら、お食べになってください」


「は、はぁ」


 ミーナがお盆を受け取り、お茶を溢さないよう机の上に慎重に置く。


「何もない所ですが、ゆっくりしていってください」


「あ、あの!」


 男が部屋を出ようとすると、ミーナが声を掛けて男の足を止める。


「最近、此処で何かありませんでしたか?」


「ほう……」


「ちょっとミーナ!」


 ミーナの口から発した言葉に男が面妖な反応をし、鈴村は多少の焦り見せてミーナと男の間に入ろうとする。


「ああ、すいません。友達が変なこと聞いちゃって……」


「いえ、いいんですよ。何かあったかと言われればあったんですから」


「え?」


「私、教頭の三河(みかわ)と申します。以後お見知り置きを」


 三河に案内され、2人がやって来た場所は、校庭の隅にあるプレハブ小屋だった。


「ここは……」


 その野卑な見た目と古臭さにいかにもな雰囲気を醸し出している平屋を前に鈴村とミーナは息を呑んだ。


「確か、鈴村さんは映画監督をなされているんですよね?」


「はい」


「それで、次回はホラー映画を撮るために我が校を取材していると」


 そう言いながら、三河が錆びついたプレハブ小屋のシャッターを力一杯持ち上げる。すると、喧しいくらいに響く金属音と中から擦れ落ちる埃や砂等の細かい砕屑物が宙に舞う。


「ここは、30年ほど前まではサッカー部の部室として使われていたんですよ」


「そんなに昔から……。取り壊したりしないんですか?」


「逆にお伺いしますが、あの山道を入れる重機があると思うんですか?」


「ですよね〜」


 ミーナが小屋の中を覗き、中を見渡す。中は、埃を被ったロッカーや、棚に飾られているトロフィーや表彰状、何故か足下に散乱しているガラス片、そして、一つのサッカーボールが置いてあるだけだった。


「それで、此処で何があったんですか?映画の題材に使えるかもしれないなら、それなりの事が起こってないと困りますよ」


 1人の映画監督として、鈴村が三河に言葉を投げかける。


「……あまり言いたくはないのですが、この場所で昔、1人の生徒が自殺をしてしまったのですよ」


「それで?」


「はい、その翌日からこの小屋周辺で奇妙な事が起こり始めたんです。小屋の中の物が動いたり、小屋の周りを誰かが歩いている足音が聞こえたり……、遂には、謎の人影を見たと言う報告も受けています」


 三河の証言は、映画の題材にするにはもってこいの内容だ。だが、今回の目的は30年も前に起きた事件ではない。井村浩人に似た人影の情報を集めに来たのだ。


「……言いたくなかった事だったかもしれないのに、態々(わざわざ)ありがとうございます。それと、此処で聞くのもなんですが、最近、井上修と言う、昔活躍していた俳優に似た人物を見ませんでしたか?」


「井上修…?ああ、少し前までテレビに出てた……。確か、心臓麻痺で亡くなってしまったんでしたっけ?」


 鈴村は意を決して、三河に聞いてみた。


「残念ですが、井上修に似た人は見ていませんね。彼に似た役者を探していたのですか?」


 だが、返答は鈴村達が求めているものではなかった。その結果に、鈴村は肩を落とし、愛想笑いを浮かべて、


「ええ、そうです。今回の作品の主役には彼に似た人物が最適だと思って、今、いろんな所で探してるんですよ」


 心にも思っていない事を口走った。咄嗟の返答とは言え、これは故人である井村への侮辱に過ぎない。

 勿論、鈴村もその事は分かっている。だから、今はこの言葉を心の奥底にしまい、二度と出すまいと決心した。


「あれ?何ですかこれ?」


 すると、小屋の奥の方でミーナが薄汚れているロッカーの中で何かを見つけたようだ。


「どうかしましたか?」


「なんですかねこれ?何か液体が入ってます」


 ミーナが持ってきたのは牛乳瓶より少し太いくらいの外側が経年劣化で黒ずみ、半透明の液体が入った瓶だった。


「これは、昔のポカリの瓶ですね」


「瓶!?ポカリって瓶だったんですか!?」


「ええ、そうですとも。私が若い頃はこの瓶に入ったポカリをよく飲んだものです」


 ポカリは、1980年に缶で発売され、その5年後である1985年に瓶で発売された。今でこそ、ポカリはペットボトルの物が有名であるが、当時はガラスとして再利用が出来る瓶が主流だったのである。


「よくそんな物見つけたわね」


「はい。なんか、あのロッカーの奥に置いてありました」


「ふ〜ん。まあ、これは今となっては貴重な物だし、三河さんに預けたら?」


「そうですね。昔からあった物として──」


 ガタッ


「え?」


 静かな自然の中、風の音も聞こえないこの場所で不可解な物音が小屋の奥から鳴った。その音に、ミーナだけは反応し、小屋の方を振り返る。


「どうしたの?」


「いえ…、なんか音が聞こえたような」


「音?」


 ミーナは、音がした方向へ歩き、またプレハブ小屋の中に入っていった。

 しかし、中に入っても最初に入った時と中にあった物の位置も変わっていないため、気の所為と言う事で結論付ける事にした。


「すいません。なんでもなかったみたいです」


「そう。驚かせないでよね」


 ミーナが小屋の中から出てくると、それと同時に旧校舎に方に行っていた室井達も戻ってきた。


「皆さん、何をしているのですか?」


「ちょっと、映画の小道具に使える物がないかと思って、三河さんにこのプレハブ小屋を開けてもらっていました」


「そうですか。使えそうな物はありましたか?」


「そう言うのはなかったんですけど、貴重な物が見つかったので、結果オーライと言った感じです」


「それで、その貴重な物とは?」


「はい。ここに……」


 ポカリの瓶を持っていたミーナが前に出て瓶を掴んでいた右手を出す。


「あれ?」


 だが、右手には何もなかった。


「どうかしましたか?」


「どうしたのミーナ?」


 ミーナは自分の身体のあちこちを触ったり、鞄の中も見た。だが、ポカリの瓶は何処にも見当たらない。


「ありません……。瓶がありません」


「え?どう言うこと?」


「さっきまで確かに持っていた筈なのに……」


 ミーナは渡そうとした三河の方を見るが、三河は首を横に振り、持っていないとアピールをする。


「消えた…?」


 鈴村達3人、瓶を見た者は一斉に息を呑み、同時に背後からの寒気と緊張感を感じた。


(何?この感覚?後ろを振り向けない)


 鈴村は冷や汗を流し、意識を保てるよう親指の爪を皮膚に押し付け、痛みで恐怖を抑えていた。


「室井さん、黒石、後藤、あのプレハブ小屋に何かいない?」


 鈴村は思い切って、プレハブ小屋の方を向いている3人に何かいないかを問うが、3人からは返答はない。ただ、3人とも一点を見つめて直立不動で身体を動かそうとしなかった。


「校長……?どうかしましたか?」


 何十秒も微動だにしない室井に向かって三河が声を掛けるが、室井からの反応はない。


「これって…、この感覚は……」


「──っ!!ミーナ、三河さん、ここを離れましょう!!」


「は、はい!」


 鈴村の指示で後ろを振り向けない3人は直立不動で意識を保ったまま動かない3人を分担して1人ずつ担ぎ、校舎の中へと避難するために走り出した。


「絶対に後ろを振り向いちゃ駄目だよ!」


 何故かは分からなかったが、鈴村の言う通り3人とも後ろを振り向かなかった。いや、振り向けなかった。振り向いたら、終わる気がしたから。


 そして、プレハブ小屋から少しずつ離れていった時、鈴村に担がれた黒石から小さな声が聞こえた。


「黒石!?目が覚めたの?大丈夫?」


 その声に鈴村が反応し、黒石に向かって意識があるか問いかけるが、黒石からの返答はない。ただ、ケタケタ、ケタケタと笑っていた。


「──ひっ」


 その笑い声に恐怖を感じ、鈴村の足は止まってしまう。


「百合香ちゃん!」


「鈴村さん!」


 突然足を止めた鈴村にミーナと三河が心配になって駆け寄ろうとするが、その直後、2人が担いでいた室井と後藤もケタケタと笑い始めた。


 突然狂ったように耳元で笑い始めた後藤の異常さに滅入り、ミーナは腰が抜けてしまい、その場で気絶してしまった。

 三河も、室井の笑い声を聞いた瞬間、足が震え、鈴村の元へ駆け寄ることが出来なかった。


「はあ、はあ……」


(此処で立ち止まるのはまずい。何かが、私達を見ている)


 息切れ以外の声が出せず、思考する事しか出来なかった。それでも、ここを離れなければいけないと思って足を叩き、無理矢理身体を動かした。


 その間も、ケタケタケタケタと狂ったように笑う3人の声が校庭中に鳴り響いた。


(三河さんも動けないみたいだし、私1人で全員を運ばなくちゃ……)


 歯を食い縛り、前を向いて先ずは気絶したミーナの元へ向かおうと歩き出す。

 すると、何処からともなくバサバサバサといった鳥の羽音が聞こえ、気付いた時には鈴村の目の前に4羽のカラスがいた。


「…カラス?」


 カラスの内の一羽が鈴村の方を向くと、首を傾げ、プレハブ小屋に向かって飛んで行った。


 その時に、校舎の硝子に反射して見えたのが謎の黒い靄に一羽のカラスが鳴いている姿だった。


「なんだかよく分からないけど、今しか逃げるチャンスがない」


 鈴村は、これを好機と思い、三河と共に4人を引き摺りながら校舎の中へと逃げた。校舎へ連れて行く間に、笑い声は既に止まっていて、眠ったように気絶していた。


 それから1時間くらいで気絶していた4人は目を覚まし、記憶が飛んでいる事に困惑していた。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


「この度は、本当に申し訳ございませんでした!」


 校長の室井が帰りの車に乗ろうとする鈴村達に向かって頭を下げて謝ってきた。


「我々の所為で皆様に大変なご迷惑をお掛けしました。この事をどうお詫びすればいいのか……」


「いいんですよ。元はと言えば、あそこに入った私達が悪いんですし」


 鈴村は作り笑いで責任は校長に無いと諭した後、車の中へ入り、急いで学校を出て行った。


 事の顛末を全て説明し終えた時、校長は青い顔をしながら鈴村達に土下座した。どうやら、あのプレハブ小屋の事について何か知っていたみたいなのだが、本人は話す事が出来ず、映画撮影の話も無かった事にしてくれと言われた。

 実際、この映画の企画自体は考えていた物だったが、こんな事になってしまっては撮影なんて出来る筈もない。


「可笑しな事はありましたが、結局、井村くん達のことは分かりませんでしたね」


「そうね…。収穫は無かったけど、命を失わずに済んだ事を今は幸運に思うべきかもね」


 帰りの車は、黒石と後藤が交代で運転をする事になった。理由は、鈴村の運転が荒すぎて事故を起こしてもおかしくないと言う常識的な理由だった。


「黒石、変なの憑いたかもしれないし、東京に戻ったら取り敢えずお祓いに行くわよ」


「分かったっす」


 嶮しい山道の中、鈴村達の車がでこぼこ道で車体を揺らしながら進んでいる時、車の横を4台の自転車が通り過ぎた。


(あの制服、さっきの高校の……)


 ミーナは、すれ違った4台の自転車を目で追い、制服を着た4人の生徒が山を下って行くのを見届けた。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 2021年 8月23日 千葉県市川市八幡、八幡の藪知らずと呼ばれる場所で謎の焼死体が発見された。


 警察が総動員で死体の場所まで出動し、近隣の住民は避難を余儀なくされた。その警察達の中に金子と滝沢もいた。そして、死体解剖をしたところ、その死体が石垣篝のものと言うのが判明されたのだった。


「滝ちゃん、今回の(ほとけ)が石垣のもので間違いないんですか?」


「はい。自分も検視に立ち会いましたが、DNA鑑定の結果から間違いないと思います。それと、気になる事がもう一つ出てきて……」


 滝沢はファイルの中から一枚の書類を取り出し、それを金子に手渡した。


「これは……!」


()に調べさせた結果、遺体の状態から、仏の死亡推定日が2011年8月21日というのが分かりました」


「すると…、つまりは、3月9日にあの2人が石垣と会っているのは不可能と言うことか……?」


「自分も目を疑いましたよ。あの2人が嘘を吐いているとは思えませんし、この結果にも納得はしていません。なので、自分はもう少し検視に立ち会おうと思います。金子さんはどうしますか?」


「……私は、(しばら)く個人で動きます。もし、私がいなくなっても詮索はしないでください」


「分かりました……。気をつけてくださいね」


 金子は、重い足取りで滝沢の元を離れ、警察署を後にした。

 その数日後、滝沢の元へ汗まみれの金子が帰って来た。金子は息を切らしながら、途切れ途切れに張り詰めた表情で怒鳴った。とんでもない事が起こったと。


         続 カラスはなぜなくの 《完》

【次回予告】

 山奥の人里離れた学校。そこで始まる新しい惨劇。覗くのは虚ろな眼差し。聞きたいのは戸惑いの足音。次回、『カラスはなぜなくの 望』


【作者のコメント】

 『続 カラスはなぜなくの』をここまでご愛読いただき、ありがとうございました。続編は今年の夏に投稿する予定です。よければ、是非お読みになってください。

 先週、5000pvを超えた【勇者の弟】も読んで頂けたら幸いです。下記にURLを載せておきます。

https://ncode.syosetu.com/n4501he/


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