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三『卒業式』

「私たち、その日に石垣先輩と会っています」


 部屋内に静寂が走る。金子は瞳孔を開き、ミーナの方を見る。


「それは、本当ですか?」


「間違いないね。私もその日に石垣先輩と会ってる」


 鈴村もミーナと同じように石垣と会っているとミーナと同じように賛同する。


「その時のお話をお聞きしてもよろしいですか?」


「いいわよ。あの日は私達の──」


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 桜の蕾が開花し始め、在校生が作ったアーチの中を卒業生達が潜る。


「卒業おめでとうございます」


 校庭の端で眼鏡を掛けたおさげの女子生徒と長い金髪を靡かせた女子生徒が青木、井村、ひまり、美雪、鈴村、ミーナの6人に1人ずつ花束を渡し終えた。


「ありがとう。頑張れよ。新部長、新副部長」


「はい!」


 青木が2人にエールを贈る。


「いい、(ようや)く私達の活動が学級新聞に載って、活動が認められてきたんだから、これからはもっと注目されるよう気張(きば)っていきなさい!」


「はい!」


 鈴村も青木に続いて、2人にエールを贈る。鈴村の声は、少々涙声になっている。どうやら、下唇を噛んでどうにか涙が溢れ出るのを堪えているようだ。


「2人は、私達のように危険な事はしないようにね」


「ちょっと!お姉ちゃん、私達は危険な事をやってナンボの部活じゃないですか!」


「まあまあ、サイゴにコワイオモイをしましたからね」


 片言だったミーナの日本語が少しだけだが、上手くなっている。


「…俺から言える事は特にないかな。まあ、新入生に優しくな」


 井村は苦笑いをしながら、2人の前に一歩詰め寄った。


「分かってますよ。女誑(おんなたら)し先輩」


 辛辣な態度と冷酷な目。それは、女性が男へ向ける敵意、いや嫌悪と同じくらいの視線だった。


「おい」


 井村が本名をバラしてから数ヶ月。学校中の女子生徒に告白されまくり、その結果、井村に付いたあだ名が『女誑し』。男からは妬まれまくった。


「別に俺は誰とも付き合ってないし、不純な事もしてねえよ」


「はい嘘」


「──いっ!?」


 金髪の後輩から膝にローキックが飛び、井村は右膝を抱えて地面に転がる。


「井村先輩が不純な事してないのは分かってますが、誰とも付き合ってないのは嘘ですよね〜」


 その言葉にひまりが頬を赤裸める。


「お姉ちゃん、まさか……」


「し、知らない!私は何も知らない!」


「おやおや〜」


 ひまりを逃すまいと美雪と鈴村がひまりの肩を掴み、どう言う事か聞き出そうと迫る。


「俺からひまりに告った」


 井村が地面から立ち上がり、追い詰められているひまりを見過ごせず告白した事を打ち明けた。


「それで、どうなったんですか?」


「二つ返事でOKされたよ」


「やるじゃないですかお姉ちゃん!まさか、私達に内緒で井村くんと付き合ってたなんて!」


 ひまりが恥ずかしそうに下を向いて何も言えずにしていると、井村が赤い顔で強がり、力ない笑みでひまりと手を繋ぐ。


「なんか面白い事してるね〜」


 すると、6人の後ろから聞き覚えのある声がした。


「石垣先輩!」


「みんな久しぶり。何十年ぶりだっけ?」


「冗談はよしてください。精々2年ぶりですよ」


 和やかな表情で青木達の前に来た人物。彼の名は、石垣篝。心霊・オカルト研究部の創設者にして、元部長。青木達とは2つ上の先輩に当たる。


「今日はナニをしにキたんですか?」


「おっ、日本語上手くなったなミーナ。──まあ、今日はお前達の門出を祝いに来たんだ。改めて、卒業おめでとう」


 石垣は部長の座を渡した青木に花束を渡し、全員に喝采を送った。


「石垣先輩も、この後打ち上げに来ませんか?」


「……悪いけど、この後は野暮用が入ってんだ。先生達に挨拶してから帰るとするよ」


「そうですか…」


 石垣はそう言うと、校舎の方に向かって行った。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


「……なるほど、3月9日は貴女方の卒業式の日でしたか」


「はい。あの日もなんら変わりない、普通の日でした。あの状況から、石垣先輩が行方不明になるなんて有り得ません」


 ミーナは卒業式の日を思い出し、今とは違う全員が揃った日常を思い出しながら、その日の石垣の姿を記憶の中でなぞった。


「そうね。あの先輩が行方不明になるのなんて可笑しい話だし、きっと、あんた達が追っているマンションの事件とも関係がない筈よ」


「……そうですか」


 金子は眉を顰め、一度目を瞑ると席を立ち上がり、ミーナに名刺を渡した。


「情報提供感謝します。また何かあったら、私達に教えてください」


 金子はそう言い残し、部屋を退出した。


「では、失礼します」


 滝沢も金子の後をついて行くように部屋を出て行った。


「……漸く出て行ってくれたわね」


「…はい。ですが、石垣先輩が行方不明って、本当の事なのでしょうか?」


「あり得ないわね。あの人の事だから、日本にいないだけじゃないの?」


「そうですよね」


 2人は、自由奔放な石垣の性格を思い出し、彼が行方不明ではない事を結論づけた。


「はあ、さっきは邪魔が入ったけど、ミーナを今日、此処に呼んだ理由を話すね」


「──あっ、はい」


 1時間前に話そうとしていた本題の事をミーナはすっかり頭から無くしていた。


「これを見てくれる?」


 鈴村はそう言うと、もう一度スマホの写真フォルダを開き、一枚のスクリーンショットをミーナに見せた。


「この写真は…、なんですか?」


「偶然SNSで見つけた写真よ」


「これが何か?」


「ここをよく見て」


 写真は、大自然を背景に2人の老人が屈託のない笑顔で野菜を持ち、その場所をアピールする地域写真だった。鈴村は、その写真の中央にある建物の2階の窓を指さした。


「これは……、えっ…?これって…」


 ミーナもそこを見た瞬間、その影がある人物と重なった。


「この人影、多分だけど、井村……、いや、私達の知っている井上修と同じに見えない?」


 その人影は、ミーナと鈴村、そして、部活メンバーであった同級生しか知らない井村のしていたポーズ。それが、窓に影としてくっきりと写っているのだ。


「確かに…、そう見えます」


「だから、私達で調査しに行かない?」


「え?」


「入ってきて!」


 鈴村がそう言うと、談話室の扉が開き、廊下から2人の男女が部屋に入ってきた。


「紹介するわ。大学の後輩の──」


「黒石(のぼる)っす!」


「後藤有希(ゆき)です!」


 談話室に入ってきたのは、長身でガタイの良い糸目の男と、小柄でお団子ヘアーの若い女だった。


「この2人には霊感があってね、ホラー系の作品を作る時に、2人の勘を頼りにさせてもらってるんだ」


 鈴村が2人を後ろに立たせて、あたかも、上司と部下のように振る舞う。


「大学の後輩さんですか?」


「そうっす!自分は、鈴村さんとは大学の映画サークルからの付き合いっす!」


「今は、鈴村さんのとこで音響と照明の仕事をやらせてもらっています!」


 本当に上司と部下の関係だった。その所為か、鈴村が得意気になっている気がした。


「ところで、調査と言うのは何ですか?」


 ミーナが逸らされかけた本題を鈴村に聞く。


「言った通りよ。今から、この建物に行って、この人影の正体を調べる。今の私達には、資金も人脈もある。この場所にも、既にアポは取っているから、()()の準備も出来ている。…こういうの、久しぶりでしょ?」


「…はぁ、仕方ありませんね。面白そうなので、その話に乗りますよ」


「よし!そうとなれば、早速行くわよ!」


「えっ?行くって何処に?」


「決まってるでしょ!この建物がある場所、秋田県よ!」


「え?」


 ミーナと鈴村は、この瞬間だけ、あの時に戻れた気がした。ただ純粋に突っ走っていたあの頃に。

 今回出てきたキャラクター


水浦若菜

 眼鏡を掛けたおさげの女子生徒。鈴村達の1つ年下。特技は人間観察。


ペトラ・マーティーン

 金髪でロングヘアーの女子生徒。フランスから来た留学生。水浦とは同じクラスメイトで、日本語も流暢に喋れる。特技は腹話術。


黒石昇(24)

 俳優を目指している糸目の男性。鈴村とは大学のサークルで知り合い、今はカメラマンとして鈴村の仕事の手伝いをしながら、演技の練習をしている。特技はダンスと山登りで、趣味は特撮鑑賞。


後藤有希(23)

 お団子ヘアーの小柄の女性。主に音響や照明の仕事をしている。趣味はシミュレーションゲームで人間を生身で宇宙に飛ばすこと。

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