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一『再会』

 どうもドル猫です!今回は短編ではなく、連載という形で続編を執筆することになりました。まず最初に、前作の『カラスはなぜなくの』を読んだ方のみ、この作品をご覧になってください。

 そして、読者様の殆どが『正答率0%』とはなんだ。と今の段階で思っているでしょう。

 実は、前作の『カラスはなぜなくの』を家族や友人20人に読ませて、結末を予想させた結果、誰一人として、正解を予想出来た人がいませんでした。なので、タグに『正答率0%』と付けさせていただきました。

 長くはなりましたが、前置きはこれくらいにしましょう。それでは、『続 カラスはなぜなくの』をお楽しみください。

 ──真っ暗な部屋の中、明かりはない。誰もいない。何処に何があるかも分からない。床すら見えない。

 

 ──だけど、その中でアナログテレビが一つ、何の脈略も無く突然動き出した。


「────ざ、行方不明者を多数出したと言われる、呪われた廃マンション『エメラルド』。その取り壊しの工事が今、始まろうとしています」


 数秒の砂嵐の後、突然、真っ暗だったテレビの画面がニュース番組に変わった。どうやら、LIVE中継でマンションの取り壊しの生放送をしているようだ。


「いやぁ──、ようやくこのマンションも壊されることになりましたね。噂では、このマンションに入った人達は行方不明になったり、意識不明になったり、更には死者も出ているんですよね?その事についてはどう思いますか?怪奇現象専門家の沼田さん」


「はい。その件について私は──」


 テレビの映像がLIVE中継からスタジオに変わり、20代の美人女性アナウンサーと40代前半くらいのチョビ髭を生やした専門家が討論を始めた。


「──と思っています」


 不毛な解説を終えて、再びLIVE中継に映像が切り替わる。マンションは半分程クレーンで壊され、原型が殆ど無くなっていた。


 ──プツン


 ここでテレビの電源が落ちた。真っ暗闇の中に灯されたブルーライトの光は忽然と消え、部屋は再び闇に閉ざされた。


 ──このテレビがもう一度電源を点けることは、もう二度となかった。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 飛行機のエンジン音が止まり、中にいるキャビンアテンダントがドアを内側にスライドさせ、ドアの上部が左斜めになる。斜めになったドアが開口部を通過して外に開く。

 飛行機のドアが全開になり、機体の中からサングラスを掛けた金髪の女性が出てくる。


「日本……、ようやく戻って来れた」


 女性はサングラスを取り、温暖化によって更に地表を照らす太陽を見上げる。


「こっちも暑いわね……」


 彼女の名前はミーナ・スミス。編入したアメリカの大学を卒業し、親の建てた会社の一つを引き継いでから約3年の時間が経過した。

 そして今、鈴村に呼ばれて3年ぶりに日本へ来日した。


「ミーナ社長、お車の準備は出来ています。すぐにでも出発できますよ」


「──ん、ちょっと待って。今、友達に連絡するから」


 荷物を抱えたボディーガードが空港の外に止まっている車を指差して移動するよう呼びかける。

 ボディーガードの呼びかけに答えたミーナは、車に移動する前に鈴村に連絡しようとスマホを取り出し、メールでメッセージを送る。


ミーナ《今、日本に現着しました!荷物をホテルに置いたらすぐにそっちに向かいます!》


百合香《分かった!楽しみに待ってるからね!》


 メッセージを送って()ぐに鈴村から返信のメールが届いた。どうやら、彼方(あちら)も楽しみで仕方なかったらしい。

 その返信の速さに、ミーナは少し驚きながらも、「ふふっ」と微笑んで、空港の出口に向かって歩き出した。


 空港を出発して2時間。道中、渋滞に巻き込まれながらもミーナは快適なドライブを楽しみ、ホテルに荷物を置いた後、鈴村のいる映画制作事務所に着いた。


「やっと…着きましたか」


「貴方達は車で待機していて。今からは私と百合香の水入らずの時間なので」


「分かりました。終わりましたら、連絡してください」


 ミーナはボディーガードにそう命じて、車が見えなくなるのを確認し、入り口の横に付いているインターホンを鳴らした。

 ピンポーンと音が鳴り、「はーい」と言う聞き覚えのある声が返ってくると、1分後に鈴村が入り口の扉を開け、ミーナを出迎えた。


「久しぶりねミーナ!何年振りくらい?」


「お久しぶりです百合香ちゃん。会うのは3年振りくらいですかね?」


「こんな所で話すのもなんだし、遠慮せず入ってよ」


「お邪魔しまーす」


 2人は再会のハグをした後、エレベーターを使って事務所の5階にある談話室まで場所を移動した。


「お茶持って来るから、そこら辺で(くつろ)いでいて」


 鈴村がお茶を取りに談話室を出て行ったため、ミーナは1人、談話室に取り残された。その間、談話室にある装飾品等を眺めていた。

 すると、棚に飾られている写真立てを見つけ、顔を近付ける。


「ふふっ、懐かしい」


 写真に写っていたのは、中学校の卒業写真だった。卒業式が終わった後、3年生の部員全員が集まり、後輩に撮ってもらった写真である。6人全員、涙のせいで目が赤くなっていたが、笑顔を浮かべて満面の笑みで写真に写っている。ミーナはその時の記憶を思い出し、少し涙ぐんだ。


「みんな……、ヒーくん、また会いたいなぁ」


 ハンカチで涙を拭う。ミーナと鈴村以外の4人は既に故人だ。ここにはもういない。


「お待たせ、お茶持ってきたよ──って何見てんの?」


 温かい緑茶を持ってきた鈴村が、涙を浮かべながら写真を見つめるミーナを見て、同じように写真を覗く。


「………中学生の頃の」


「──ぐすっ、はい」


「あの頃はみんな生きていたのよね」


「──はい」


 ミーナは涙を出しては拭い、出しては拭いを繰り返した為、既にハンカチは濡れ雑巾並に水浸しになっていた。

 鈴村も瞼を潤わせながらも、瞬きをし、涙を堪えた。自分は泣いては駄目だと思ったからだ。

 あの日、美雪が殺される2時間前まで、鈴村は美雪と映画を観ていたのだから。それは、ひまりが死んだ後、心の平穏を保てなかった彼女がようやく、一歩を踏み出した直後の出来事だった。

 もしも、あの日に夕食も共にしていたら、もしかしたら美雪は死んでいなかったのかもしれない。もしも────


 鈴村は美雪の葬儀が終わってからというもの、自責の念からかそんな事を毎晩考えるようになってしまった。


(だから、私に泣く資格はない。特に、ミーナの前では泣いちゃいけない)


「ミーナ………」


「なんで……、なんでみんなは死んじゃったんですか?………ヒーくんの嘘吐き。まだお返事を貰ってませんよ。ひまりんの嘘吐き……、研究のレポート写させてくれるって言ったじゃないですか。美雪の嘘吐き……、孝明くんの………、嘘吐きっ!!嘘吐きっ!!!」


 ミーナは泣き崩れた。こんなに泣くのは、最後に美雪の葬儀をした時以来だ。涙を流し、しゃっくりが止まらない。感情を抑えられない。一度爆発したそれは、もう止まらない。涙は堰を切ったように溢れ出し、微量の塩分を含んだしょっぱい水でメイクが滴り落ちる。


「大丈夫!大丈夫だから!」


 そんなミーナを鈴村が宥める。


「私がいる!私がまだ生きている!あんたより先には死なないから!」


 鈴村は大声を出して、背後からミーナに抱きつく。それはまるで、泣きじゃくる赤子をそっと抱っこする母親の様だった。


「本当…ですか?」


 ミーナは真っ赤にした顔で鈴村の顔を見る。


「本当よ。約束する」


「……約束、しましたからね」


 それから、ミーナは泣き止んだ後、手洗い場で顔を洗い、涙を全て流してから、ようやくお互いに落ち着いて話が出来る体勢になった。


「お騒がせしましたね……」


「──いいのよ。気にしないで」


 ミーナの涙で水浸しになった床は、事務所にいた映画スタッフが拭いてくれていた。


「早速本題に入るけど、今日ミーナを呼んだのは、ビジネスの話をするためよ」


「ビジネスですか?」


 鈴村は腹を決めて、5枚の書類をミーナに手渡した。


「これは………」


「これは、今度制作する映画の重要な書類よ」


 ミーナに手渡したのは再来月に撮る、新作映画の計画だった。


「そこで聞くわ。ミーナ、貴方の会社がこの映画のスポンサーになってくれない?」


「スポンサー……ですか?」


 突然言い渡されたスポンサーの話、ミーナは一瞬、迷うように表情を渋らせたが、


「分かりました。その話、受けましょう」


「本当!?」


 難なく承諾した。


「資金は惜しみなく出しますよ。その代わり、どんな映画にも負けない、そんな大作を作ってくださいね!」


「ありがとう!ミーナの力があれば百人力だよ!」


 お互いに握手を交わし、ビジネスの交渉は成功した。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△


「────ミーナ……」


「なんでしょうか?」


 商談が終わった後、鈴村は少し目を逸らしながら、口を開けた。


「実は、もう一つミーナに話さなくちゃいけないことがあるのよ」


「?」


 鈴村はそう言うと、ポケットからスマホを取り出し、写真のフォルダに入っていた一枚のスクリーンショットをミーナに見せる。


「これは?」


「言いたくはないんだけど、実は────」


 ピンポーン


 2人の会話を遮るように、インターホンが鳴った。


「誰か来たみたいですよ」


「おかしいわね、今日はミーナ以外に来客はいない筈だけど」


 鈴村はそう言うと、スマホをポケットに戻してから席を立った。


「誰か対応しといて!急用なら通していいから!」


「分かりましたー!」


 少しボリュームの上げた声で壁に付いている社内用電話で、そう社員に呼びかけた。


「ごめんミーナ、私もちょっと行ってくる」


「私の事は気にしなくて大丈夫ですから」


 鈴村は談話室を出て、1階に向かって行った。


 ミーナは、静かになった談話室で1人残された。また、泣いてしまうかもしれなかったが、鈴村が今、何か対応に追われているのなら、彼女の手を煩わせる訳にはいかないと、棚に飾ってある写真から目を逸らした。


「────ですか?いい加減にしてください!」


 突然、廊下から鈴村の声が聞こえる。何か焦っているようにも感じるし、呆れてるようにも感じる。

 その声は少しずつではあるが、この部屋に近付いてくるような感じがした。


 そして、談話室の扉が勢いよく開かれた。


 ミーナの目に映ったのは、鈴村と白髪混じりの髪で60代くらいの男性と、スーツを着た20代くらいの細目の男性だった。


「何度言ったら分かるんですか!?私はもう話せる事は話しました!!それに、あのマンションも解体されたじゃないですか!!」


「いやいや〜、そう言う訳にはいかない事態になったんですよ〜」


 60代くらいの男は独特な言葉使いで鈴村と強気に言い争う。


「百合香ちゃん、その人達は……?」


 ミーナは慌てて、訳も分からないまま質問を問いかける。


「おんやおや、先客がいましたか。私は江戸川区警察署所属の金子です。どうぞよろしく」


 60代くらいの男は金子と名乗り、警察手帳をミーナに見せた。


「ん〜?貴女はミーナ・スミスさんじゃあありませんか」


「これは運がいいですね」


 金子はミーナを見ながら、独特な笑い方をした。それに続いて、隣にいる20代くらいの若い男も相槌を打った。


「──ちっ!」


 鈴村は、分かりやすいように不機嫌になりながら舌打ちをする。この状況に、ミーナだけが付いていけなかった。


「これでようやく、役者が揃いましたね」


 金子がミーナと鈴村を見ながら、頬を上げる。



 カァ、カァ、カァ


 外ではカラスが鳴いていた。窓辺の向こうに映るその景色。そこに、4羽のカラスが翼を広げ、何処かへと飛び立っていった。

 どうもドル猫です。今回は短編ではなく、連載として投稿することになりました。よければ、ご感想と評価をしてくれると嬉しいです。

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