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自由

作者: ハシモト

「禁忌を犯した大罪につき、汝、ヘルムート・カバインを追放の罪とする」


 大人って奴はなんて面倒なやつらなんだ?


 追放するならさっさと追放しろ。さっきの一言を言うだけでも半刻(1時間)だぞ。これだと追放されるまでに昼時を過ぎてしまう。お昼は出してくれるのか?


「お前の犯した罪を反省し、みそぎの日々を送るのだ」


 追放しておいてまでさらに何か要求するつもりか?そんながんじがらめな事やっているから、俺みたいな先見の明のある若者って奴が出て行ってしまうんだろうが。ちっとは足元見て考えろ。こちらとしてはすでに準備万端、さっさと柵の門を開いてくれと言う感じなんですけどね。


 結局、昼頃まで訳の分からん説教を続けられた挙句、俺はやっと解放された。この説教とか、教会のじじいのしけた面から神の偉大さなどを説かれなくて済むと思うとなんて心晴れやかなんだろう。


 追放するまでの監視役とかが何人か引っ付いているが、心配するな。こっちとしてもさっさと出ていきたいのだから何も問題は無い。そもそも追放するんだろう。監視なんているか?


 俺以外誰も住んでいない、廃屋のような我が家の前までくると幼馴染のヘレンとグレンが心配そうに俺を見ている。こいつらとも会うのもこれで最後か。いいやつらだが、やはりこの村同様に退屈な奴らでもある。


「ヘル、本当に行っちゃうの?」


 ヘレンが、涙を浮かべた目で俺を見る。いや別れが悲しいのは分かるけどどうして捨てられた子犬を見るような表情で俺を見るんだ?


「お前、本当に後悔していないのか?」


 あのなグレン、すでに追放が決まった奴に言う台詞か?本当に後悔していたら傷口に塩を塗るような台詞だぞ。


「ああ、後悔なんかするわけないだろう。こんな退屈なところとはこれでおさらばだ。とりあえず鍛冶屋の親父がこっそり作っていた剣やらバックラーに、野営道具も一式あるしな」


 そもそも鍛冶屋だった親父がこんなものを隠し持っていた時点で、奴も出る気満々だったんだ。一度酔っぱらった親父がお前が出来ちまわなかったらなとかうっかり言っていたのを聞いた。


 それを聞いて、ヘレンがいくら俺の腕を組んで胸を俺の腕に押し付けてこようが、祭りに薄化粧して現れようが、絶対に手を出したりしないと心に決めた。親父と同じ失敗は出来ないだろう?


 だからグレン、お前は俺に感謝しろ。何なら土下座してもいいぞ。お前がヘレンと何人子供作るか分からないが、人並みの人生の苦労という奴は俺の分も全部お前に背負ってもらう。


 これ以上、こいつらと話をしても時間の無駄だ。それに朝から出るつもりだったのが、昼をとうに過ぎってしまったじゃないか? 今日中に街には着かない。俺に対する最後の意趣返しか? 


 俺は、二人に手をふると、監視役が開けた柵の門から外に出た。後ろではさっさと門がしめられる。大きく胸を開いて深呼吸。これが自由の香りだ。しまった、もうちょっと先でやるんだった。ここだと柵の中の肥やしの匂いがしてさっぱり気分が上がらない。


 とりあえず、街までの道筋はほとんど一本道だのはずだ。村にきた巡回商人の話ではそのはずだ。一本道なら道に迷う事もないだろう。暗くなったら無理せずそこで一晩明かしてから移動すればいい。どうせ夜は街には入れないだろう。


「おい、起きろ小僧」


 せっかくよく寝てたのに誰だ邪魔をするのは?ヘレンか、それともグレンか?勝手に家に入るなとあれほど言っているのに……。


「寝ぼけているのか?」


 なんだ、知らない男の声だぞ。慌てて目を開ける。覆いをしたランタンの明かりが目に刺さった。


「起きたか?」


 慌てて体を起こそうとしたが、何かに掴まれて動けない。声を上げようとしたが誰かの手に口を押さえつけられる。


「おい、おい騒ぐなよ。野犬なんか来ると面倒じゃないか。来たらお前を餌にして俺たちは逃げちまうぞ」


 自由になる目で辺りを見渡す。ランタンのかすかな明かりの映る影。何人かの男達に周りを囲まれている。視線の先にあるランタンの明かりを黄色く映しているのは、俺に声をかけて来た男が持つ短剣だ。


『盗賊?』


 頭の中に言葉が浮かぶ。手が震え、喉が渇く。なんだ最初の夜だぞ。なんで最初の夜にこんな目に会うんだ?


「びびるな、小僧。おとなしくしていれば、すぐに殺したりはしない」


 その言葉に自分がすごくほっとしていることに腹が立つ。それでも手の震えは一向に止まらない。俺はこんな弱虫だったのか?


「役に立ちますかね?」


 別の奴が短剣を持つ男に声をかける。


「人手は大事だよ。この前の襲撃で二人いっちまったから、大赤字だ。こいつを立たせろ」


 男達の手で乱暴に立たされる。


「いいか、俺たちはこの辺りを仕切っている黒狼団だ。お前に選択肢はない。俺たちの仲間になって働く。以上だ」


 盗賊団? 何でおれが――。


「ぐはっ」


 体を支えていた男の拳が鳩尾の下にめり込む。息がとまり、痛みに体をよじるが男達に掴まれた体はその自由すらない。


「返事は?」


「はい」


「最初からそう言えば痛い目にあわないんだ。分かっているか、返事、礼儀が出来て初めて一人前だ。誰かが命じた事は必ず復唱する。分かったか?」


 これ以上拳をねじ込まれるのはごめんだ。


「はい」


「では、俺達の基本的な約束事を説明するぞ。ちなみにこの辺りの水場は全部俺たちが抑えているから逃げるのは無理だ。まず第一条、仲間同士の喧嘩は――」


 男が守るべき規則を滔滔(とうとう)と述べていく。それにいちいち復唱を返す。


 あれ、俺は一体何から逃げて来たんだ?

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