8話「竜王の使者」
テュポーンと言う怪物も倒して今は一週間が経過している。
元の生活が戻って来ている。
「悩んでおられるのですか。ドロシー様」
リーベが声を掛けて来た。
「一体誰なんだろうなぁって。何か恨まれるような
事をした覚えは無い気がするし…」
「私利私欲のために喧嘩を吹っ掛けていると考えることも
出来るのではないでしょうか。国同士故、そういうことも
あり得ないとは言えませんよ」
その辺りは難しい。個人同士だけの小さな喧嘩ならば当人たちだけで
解決しようと思えば出来る。国同士となると駆け引きがある。
国主だけの問題では無いのだ。
今回の出来事もあって他の国にもまた違うようにこの国が見えている
かもしれない。
「―テュポーンの復活、そして消滅。その真相を探って来い。
テュポーンを討伐した奴がこの国と同盟を結ぶに相応しいか」
別国。玉座に座す竜王の子、人の姿を手に入れた王レイザード。
彼の率いる軍は皆、竜を先祖に持ち、その力を引き継いでいる。
そのうちの二人を使者として送った。彼らの様子を
レイザードは眺めるだけだ。
「あの男の娘だろうな。二代目国王…」
国の敷地内に入って来た二人組にヤナは声を掛けられた。
「俺たち、他の国から来たんだけどここの王様の居場所を
知らないかな?こっちの王様の命令で来たんだよなぁ」
口を開きかけたヤナがフリーズする。
『良いですか?このメモ書きにある国はオズと同盟を結んでいる国です。
迂闊に居場所を喋らない。まずはその人たちが何処の国の人なのか
しっかり把握しましょうね』
ベアトリスとカーラから色々な事を学んでいる。ヤナは
彼女たちに教えてもらったことを実践する。
「えっと…何処の国の人たちですか」
「竜皇国オルドヌングの双竜アルゴ」
「同じくライザ。それで、教えてくれるかな?新しい王様の
居場所」
二人に迫られて震えながらヤナは言った。
「え、えっと…あ!」
ヤナの視線の方向に二人は目を向けた。ヤナたちとドロシーも
目が合った。ヤナは駆け足でドロシーの元に行くと彼女の耳元で
彼等の事を教える。
「お前が、ここの新しい王様?冗談、か?」
「いや、申し訳ないけど私が二代目の国主ですけど…」
高まっていく妖気にヤナは驚き、ドロシーの背後に隠れる。
「不満があって当然かもしれませんが、ここで荒事は止めていただきたい」
「そうだよアルゴ。ここ、オズの領内だよ」
二人の言葉で冷静さを取り戻したようだ。
「話は、ゆっくりと聞かせていただきます。客人と長話をするのに立ち話も
ちょっと、ね?」
ヤナとドロシーの後を追う。アルゴとライザはドロシーを観察する。
普通の人間だが魔素量は常人とは言えない。
「(この人間が、テュポーンを討伐したのか…)」
「あ、そういえばベアトリスたちに伝えるの忘れてた!」
「大丈夫だよ。ドロシーお姉ちゃん。私から伝えたよ」
「え?ヤナちゃん、そんな手段あったの?」
「ベアトリスお姉ちゃんたちにね、教えて貰ったんだ!」
ヤナの言葉にドロシーは納得した。
到着した屋敷の中は綺麗に掃除されていた。
「ようこそ、国主ドロシー様のお屋敷へ」
二人のメイドによる出迎え。それに幹部たちも揃っていた。
その中にはドロシー同様常人以上の力を持っているであろう
人間もいた。