閑話「小さなメイド見習い」
ぎこちないリズムを刻む音の正体は包丁で野菜を刻む音だった。
「そうそう。上手よ、ヤナちゃん」
ベアトリスとカーラがパチパチと小さく拍手する。
ヤナは小さなメイド見習いになって日々精進している。
ベアトリスとカーラにとっては妹のように彼女が見えているの
かもしれない。ヤナも彼女たちを姉の様に慕っている。
「よし、ヤナちゃん。何時も頑張っているか今日は休暇に
しましょう!」
「え、え?でも私、何もできてない…」
「大丈夫!しっかり休むこともメイドの仕事です!オーケー?」
ヤナは頷いた。
「そうだ。カタリナにヤナちゃんの服を作っといてって頼んでたんだった!
ベアトリス、カーラ」
「はい。既に彼女は到着しております」
「え、早い!?」
扉が開き、大きな袋を抱えたカタリナがやって来た。
カタリナもベアトリスたちと同様にエルフの女性だ。
「話に聞いていた通り、愛らしいメイドさんですわ。そんなメイドさんに
こんな洋服は如何かしら?」
ドサッと置かれた洋服を目にしてヤナは目をキラキラと輝かせていた。
「流石カタリナ。センスが違うわ!」
「当たり前ですわ。それ、全部あげますわ」
「良いんですか!?」
ヤナは目を丸くする。
「当たり前よ。何かを貰ったら~?」
ベアトリスとカーラがヤナを見た。
「えっと…あ、ありがとうございます」
「よくできました」
ベアトリスとカーラとカタリナに撫で繰り回されている
ヤナは笑っていた。
良かった。オルビスさんの話では彼女が過ごしてきた場所は
劣悪な環境で、暴力も振るわれていたのではという話だったし…。
ヤナ自身、オルビスに凄く懐いている。
オルビスの腕は確かだし、誰かが面倒を見ることが出来なかったら
彼に任せよう。
夜になった。部屋はそれぞれ個別にあって何かあったときのことも
考えてヤナの部屋はオルビスの部屋の隣に用意した。彼女の部屋を
覗いてみるとベアトリスたちが作ったであろうぬいぐるみが幾つか
並べられている。可愛い♡
「ヤナちゃん?」
彼女が向かったのはすぐ隣の部屋、オルビスの部屋だ。
「あのね、一緒に寝たい」
幼い彼女らしい願いだった。
「良いよ。こっちにおいで」
オルビスは少し横にずれて隣に来るように促した。
電気も消えて真っ暗。ふと二人の視線が合い二人は
小さく笑った。
「オルビスお兄ちゃんは兄妹とか、いるの?」
「いた、かな。妹が。だけど体が弱くて死んじゃった。
親もすぐに死んじゃってヤナちゃんと同じように
孤児院で育ったんだ」
「そっか…」
ヤナはうつらうつらと瞼を閉じ掛ける。眠る前に
聞こえた声。
「おやすみなさい」
ヤナが目を閉じたことを確認してからオルビスもまた
眠りに就いた。
オルビスにとってヤナちゃんは実の妹と同じように
見えているのかもしれませんね。