7話「星座結束」
「聖属性、雷属性、耐物理、耐魔術を付加!」
四つの同時付加。そう簡単にできる術ではない。
細い糸の鳥籠、その糸が紅く染まった。元より
硬化だった糸が更に硬化する。
「暴れてるな…」
「四つも付加をしました。私でも長くは持ちそうに
ありません…!それに、ユベルさんも…」
ベアトリスはユベルに目を向ける。何かを堪えている
ように見える。ユベルは心なしか荒い息をしている。
ユベルの視線はテュポーンに向けられていなかった。
その視線の先には魔力を溜めるドロシー。
彼女はゆっくりと目を開く。
「夜に瞬く小さき星々の光―!
―星座結束!」
星の力を収縮し、放たれた魔術。テュポーンは過去に
この技で倒された。その時は相手もこの大技を
扱えるだけの才が無く、消滅には至らなかったが今回は
違う。本能的に感じた危険。
人間である目の前の少女にテュポーンと言う怪物は
恐怖を抱いていた。自分を優に超えてしまう力がある。
その危機は確かだった。様子を眺めていた神父風の男も
驚いていた。
「人間の身で、何のリスクも負わずに星座結束を最高火力で
放てるのか…!」
「確かに勇者としての素質は0では無いな」
新たな勇者誕生の予感。それはつまり、新たな魔王誕生の
意味もあるのだ。大技を放ったドロシーの元に全員が集まった。
「よし、全員無事だね。一先ず」
「そうですね。で、貴方は?」
「大丈夫!元気です!」
ユベルの問いかけにドロシーはハッキリと答えた。
ドロシーはボーっとユベルを見つめた。
「…ユベルは、大丈夫だったの?」
「?」
「さっき、何かを我慢してたみたいだから」
ドロシーには遠目に見えていたようだ。ユベルはそれを
上手く受け流した。
「大丈夫です。そうだ、カーラから連絡があります。どうやら
先に見た少女は孤児院の子どもらしく、操られていたようです。
後、オルビスがその子どもを取り返しに来た人物と戦闘中だと」
「戦闘中…!?」
「気にする必要は無いかと思いますよ。一先ず、少なくとも
貴方は休むべきだと思います」
オルビスの実力はある程度理解しているつもりだ。だからこそ
ユベルの言葉を受けて今は体を休めることにしようと思った。
一方、エニフとオルビスの徒手空拳による戦い。互いに実力は
互角だった。
「ホントにただの人間かよ。あんな大技使って、まだ生きてるみたいだぜ」
「それを知ることが出来ただけでも充分だ」
「俺も、これだけ楽しめたから今は満足だ」
エニフは迷いなく撤退した。彼の気配が完全に消えたことを確認してから
オルビスは遅れて帰還する。
「あら、遅かったわね。こっちは準備が完了しているわ。驚く準備でも
しておきなさい」
「驚く…?」
帰ってきて早々にカーラの言葉に彼は首を傾げた。ベアトリスと共に
姿を現したのはメイド服を着たヤナだった。顔を真っ赤にしている。
「あのね、ドロシーお姉ちゃんがここに住んでて良いよって!」
「当たり前よ。ドロシー様は海と空ぐらい広い心の持ち主だから」
「このメイド服は…?」
「だって、私もお仕事したい!そう言ったら、じゃあメイド見習いから
始めたらどうかってなってね」
衣食住の完全完備、その代わりにしっかりお仕事を覚えましょう。
それがドロシーの条件だ。それをヤナは受け入れて今に至る。