6話「拳聖の場外乱闘」
「ごめんよ」
少女を気絶させるとオルビスは彼女が握っていた杖を折る。
そこまで頑丈には作られていなかった。加えてこの杖を持っていた
少女は魔素をほとんど持っていない。本当の意味で一般市民だ。
「(こんな少女を無理矢理…)」
貧しい場所で生まれ育ったのだろう。細く、薄い麻布の服を着ている
少女が目を覚ました。
「大丈夫か」
「…うん…ここ、何処?お兄ちゃんは誰なの?」
警戒しているようで一刻も早く離れたいと思っているのだろう。
体が小刻みに震えていた。
「オルビス・エルンスト。ここは勇者見習いの人が王様をしている
国にある森だ」
「勇者…勇者様!?」
俺じゃないけどね、とはにかんだような笑顔を見せると少女は
ホッとしたようだ。
「君は悪い魔法を掛けられてしまったようだ。君は孤児か?」
「うん。ママもパパも、もういないんだって…ずっと一人だって…」
ぐずり出した少女を抱き上げてオルビスは歩き出した。
体には青痣がある。良い環境で育ってきたわけでは無いのは明白。
「お兄ちゃんはオルビスって言うの?オルビスって凄く強い拳聖の?」
「そうだね。俺は拳聖、かな。君の名前も聞きたいな」
「私はヤナっていうの」
ヤナは自己紹介をした。彼女はオルビスに心を開いてくれたようだ。
すっかりオルビスに懐いている。
「無冠の拳聖。ついにここに辿り着いたのか。これも必然かね?」
オルビスは素早く後ろに後退した。確実に殺しに来ていた。
「いやぁ上がうるさくてな、小物の癖に。孤児は使えるから
もう一度連れて来いってさ」
「この子に何らかの術を掛けて操っていたんだな」
「勿論、俺じゃなくて仮の上司がな。2対1か」
オルビスの他にいるとすればヤナだが、彼女が戦えるはずもない。
だとしたら誰かがここにいるのか?
そう考えていた時に耳をつんざく発砲音が聞こえた。
「子どもを連れ去る悪い男にはお仕置きが必要ね」
メイド服を着たエルフの女性。長い紫髪を白いリボンで一つに
まとめて、それが尻尾の様に揺れる。銃を構えるのはカーラと言う
メイドだ。彼女はオルビスのところに降りてくる。
「話は聞いたわ。私、こうやって面と向かった戦いは得意じゃないから
その子を渡しなさい。国に入ってしまえば、守り切れるわ」
「あぁ、任せるよ」
「オルビスお兄ちゃんは?」
「大丈夫。すぐに戻るから、それまで待っててね」
ヤナを抱えて走り去るカーラを相手は追うことが出来ない。
何故なら彼の前に立ち塞がっているのは拳聖オルビス・エルンスト。
「情報収集のために一応名前を聞いておこうか」
「冥途の土産って奴か。俺はエニフ、さてやろうか拳聖!」
エニフは嬉々として拳を突き出す。オルビスは一切笑みを浮かべず
引き締まった表情で彼と対峙する。エニフと名乗った男と同等に
戦えるかどうか相手の技量の底が分からないのだ。