5話「開戦、vsテュポーン」
「これから初陣かい?ドロシー様」
「トワ!」
鍛冶職人、鬼人のトワがやって来た。男勝りな彼女は
武器を持っていた。それに目を向けると彼女はドロシーに
それを差し出した。
「アンタ専用の武器さ。何か持ってた方が良いだろ?」
「ありがとう。でも良いの?凄く良い剣に見えるけど…」
ドロシーでも振りやすい軽い剣。隅々までこだわって
作られているようだ。
「実は前々から作ってたんだよ。どうだ?軽いだろ。
刃毀れしたり、折れたりしたら何時でも持ってきな。幾らでも
修理してやるから」
「大切にするよ。本当にありがとう、トワ」
「おう、ちゃんと帰って来なよ!」
トワの剣の切れ味は高い。そして刃毀れしにくい。
気が付けば風はどんどん強くなっていた。少し気を緩めたら
吹っ飛んでしまいそうだ。
「何故でしょう、ドロシー様が誰よりもすぐに飛ばされてしまいそう…」
ベアトリスはクスクスと笑っている。こっちは笑ってる場合じゃない。
「それだけテュポーンの近くに来ていると言う事だろう。もしくは
相手からこっちに近付いている、とかな」
どちらにせよ近付いているということだ。
「サルビア、準備は良い?」
念話での会話だ。サルビアは短く返答した。準備はよし、テュポーンは
真っ直ぐこちらに進んでくる。予想通りだ。恐らくテュポーンは強い
魔素に引っ張られるように進んでいる。ドロシーを含め、
多くの魔素がここには一点に集中しているので怪物はこっちに目が行く。
足元には割と古典的な罠。極細の糸が張り巡らされている。
サルビアがタイミングを見計らい操ると脚が―ということだ。
遠くからでも見えるぎらついた目。奴が来た。
「サルビア―!」
『承知!』
サルビアが糸を引いた。巨体が前のめりに傾いた。だが上手く
持ち堪えたのだ。
『…ッ!切れない!!』
サルビアも動揺している。
「ううん、こっちも考えてたよ。多分、何かしら核があるんだ。
体全身を魔素で覆って頑丈にするための核」
そこが分かれば良い。だがそこはテュポーンにとっては最大の
弱点と言える。守るのは当然だ。それを探すのに時間が掛かるのだ。
「(もしも…過去とほとんど変わらないなら…)」
数十分前にユピテルは自身が知っていることを彼女たちに伝えていた。
テュポーンの犠牲になった人間は数えきれないほど。倒せた理由は
テュポーンの再生能力の源となっている核。それはテュポーンの
第二の心臓と言える。場所は右目。
時属性の魔術・クロノスタシス。動きは停止に近い速度になり、
テュポーンは弱点を曝け出す。
「―貫通属性を付加!!」
ベアトリスの付加術。その対象は投げられた赤い槍だ。その正体は
ユベルの血槍。名前の通り、彼の血で作られた槍だ。手元から離れても
遠隔操作が自在にできる。
その槍は見事、怪物の右目を貫いた。
「(きっと、付加術が無ければああも簡単に貫くことは出来なかったでしょうね)」
ベアトリスは悶絶し、悲鳴をあげるテュポーンに目を向けながら
そう考える。念には念を、ということで出された指示だった。
これで本気で怒ったようでテュポーンは赤く目をぎらつかせた。
「そろそろ夜ね。吸血鬼が喜ぶ時間よ…テュポーン」
同じようにユベルの目も赤い光を帯びていた。