32話「計算の更に先へ」
純粋な技術勝負と力勝負ではやはりドロシーはナインに勝てなかった。
辺りからは爆発や、その音が聞こえる。周りの心配は必要ないだろう。
対策は充分取って来た。今は
「ふぅ~…良かったぁ、気付いていないみたいだ」
「そうですね。しかし素晴らしい分身体です」
別空間に閉じこもって分身体とナインの戦いを観戦していた。
この分身体はエミリアが作り出したのだ。素晴らしい術だ。
欺くことに特化しているらしく、エミリアは他と比べて
ナインの存在に薄々感づいていたという。長い間、ナインを
騙し続けて来た女王。
「暫くはこのまま。最終手段を引っ張り出してから“これ”で
決める」
「使えるのですか?」
ナハトの言葉に対してドロシーは「フッフッフッ…」と小さく
笑ってから
「私を誰だと思ってるの?この魔法を作ったのは私で、扱えるのも
私だけだよ」
「おっと、そうでしたね。私としたことが、すっかり忘れていました。
さて、私も仕事を果たしてまいります」
「うん、頑張ってね」
別空間を出て行くナハトの背中にドロシーはその言葉を投げた。
内心ではヒヤヒヤしている。バレたらどうする?と。
「悪魔が勇者に従っているとは珍しいな」
「ヒュペリオン、神族までいるとは驚きですね。そうは思いませんか?」
影から現れたサルビアは出会い頭にクナイを投げつけた。
ヒュペリオンと呼ばれた男はそれを剣で叩き落とした。
「ふむ…貴方はどうやら戦い向きでは無いようですね。如何です?
こちらも無駄な労力を使うのは面倒なので、休戦するというのは」
「どういうことかな」
「簡単な事です。私たちの戦いの決着は主同士の戦いの決着で、
というのはどうでしょう?」
「それは…俺の志に反してしまうな!」
煙。サルビアの部下たちがバタバタと倒れていく。
この煙は眠気を誘う煙。眠りを必要としない悪魔である
ナハトには効果がない。しかしサルビアはやせ我慢をしているように
見える。
「どうしたんですか?どうやら我慢しているようですが」
「戯け。俺がこの程度で倒れるわけが無いだろう」
「そうですね。しかしどうやって切り抜けるつもりですか?」
「お前、出し惜しみしてんじゃないぞ」
それは何かを間接的に伝えようとしている言葉に聞こえた。
あぁ、そう言う事ですか。ナハトは察して魔力を解放する。
「そうですね。出し惜しみはよくありませんね」
離れたところに控えていた男はその魔力を頼りに仲間の
居場所を把握し、風魔法を発動させる。煙が消え去り、
辺りが良く見えるようになった。
「この糸は…!?」
「ドロシー様が操る時属性を付加した糸。神であったとしても
動けまい。全てはあの方の予想通りだ」
「…素晴らしいな。人間でここまで読み切って動いていたか」
「ドロシー様の勝利を確信している。何故なら全てが彼女の
予想通りだから。計算の更に先を見越した計画だ」