31話「剣聖、拳聖」
こちらは少し混戦状態だ。
フィネストラ公国より助っ人にやって来た剣聖シモンと
背中を預けて戦っているのは拳聖シリウス・ヴェール。
「嬉しい限りだよ。拳聖と共に戦えるなんてね。頼りにしている」
「それはこっちのセリフだ剣聖」
シリウスの拳は多人数との戦いにも使える技が存在する。
そうなると威力は落ちるのでは?と思いがちだがそこはシリウス。
生まれつきの怪力を持つ彼の拳は例え力が分散しても十分に
凶器だ。
そしてシモンと共に戦うには相性がいい。シモンが実力を
発揮するとき魔素は全て彼に吸い寄せられる。シリウスは
魔素では無く闘気というものを操っているので対して
問題が無いのだ。
「厄介ねぇ…どうしてこうも上手くいかないのかしら」
ルエルは忌々しそうに舌打ちする。彼女の操る人形は核を
含めて粉々に砕けていた。
「これが元魔王か。バルカン殿の方がもっと強かったな」
「お前、戦ったことあるのかよ」
「いいや、一目見ればある程度の実力を測ることが出来る。
君もそう思ってるんじゃないのか?」
「…否定しない」
どちらも余裕綽々の笑みを浮かべていた。その顔がルエルを
より苛立たせる。剣聖だろうが拳聖だろうが負けるつもりは
毛頭ない。自分は魔王、人間という脆弱な種族に負けるわけが
ないと断言できる。
それにどちらも魔法を使えないと見た。これはチャンスだ。
「良いだろう。私の力を特別に見せてやる。精々足掻けよ、人間!」
『ルエルっていう魔王についてだが何も恐れる必要はねえよ。
シリウス、お前は全力でやればいい。殺す気で行って来い』
バルカンの言葉だった。彼はルエルはシリウスの敵ではないと
断言した。ルエルと言う魔王は魔法に頼り切りな部分がある。
肉体があるのなら打撃は充分に通る。
シリウスの手から受け取った剣をシモンは鞘から抜いた。
「凄いな。しっかりと鍛えられている剣だ」
「こっちの自慢の鍛冶師が作ったからな。それで精神体諸共
斬る。俺の場合は殴り飛ばす、になるだろうがな」
シリウスは構え方を変える。
「(馬鹿め。人間が頑張ったところで私を倒せるわけが無かろう)」
「―とか思ってんだろ。だったら魔法でも何でも使ってみろよ。
目が覚めるぜ?」
「何?自分から白旗を上げたところで私はお前たちを殺すことを
やめたりしないが」
「もしかして時間稼ぎ?俺と友だちになってくれるのか?」
「ふざけるな!良いだろう。そんなに見たいのなら見せてやる!!」
魔力により膨れ上がっていく魔力弾が突如弾けた。
それに魔法も発動しなくなってしまった。気が付けばシリウスは
何時の間にか自身の目前に迫っていた。
―ヴェール流拳術奥義「白虎」
「か、かふぅ…!!?」
視界が歪んでしまうほど大ダメージを受けた。何故?魔法が
使えないはずなのに。
「俺が使ってるのは魔力じゃねえ。だから影響を受けねえんだよ」
「これで、終わりにしよう―」
天まで伸びた光が振り下ろされて、ルエルの精神体すら細切れにした。
元魔王ルエル、絶命。