30話「ハートを射抜いて」
「また撃って来たわね…!」
「はい。相手からは私たちが見えているみたいですね!」
結界を盾にしてその銃弾が何処から放たれているのか
見極める。グリンダの絶対領域は今やこの国全体が範囲なのだ。
遠くから狙い撃ちしているスナイパーは舌打ちする。
「埒が明かない…あんなに頑丈な結界があるの…?」
スナイパー、エトリア・ロイス。メイド二人と戦う。ここは
スナイパー同士の戦いが繰り広げられる場所。ここでは銃撃戦が
繰り広げられている。
パンッ、パンッと何度も銃声が聞こえる。
「やぁ、遅れてすまなかったね」
「遅いわリーベ。後3分は早く来なさい」
「こんな時でも相変わらず辛口だな…折角スナイパーの居場所を
調べたのに」
リーベの頭にエトリアは狙いを定めた。隙だらけ、そして
守られていない人間の急所。そこならば楽に撃ち抜ける。
そうして迷わずトリガーを引いてしまったのだ。
「わっ!わぁ!?だ、大丈夫ですか!?」
ベアトリスはリーベにそう声をかけて近寄る。だが彼は
ケロッとした顔をしていた。そうだった、彼は魔導人形で
脳みそなど無かった。
「人間のスナイパーらしいよね。銃に愛着を持ってるみたいで、
すぐに分かったよ。だからちょっとだけ、意地悪をしようかな―」
リーベの視線の先にはスナイパーが驚きつつ、銃を構えていた。
スコープ越しにエトリアに向けてリーベは何かを告げる。
「?」
エトリアは視線を落とした。何故だろう、この銃を…人殺しに
使うことを躊躇ってしまう。愛しい、私の銃。愛銃に私は人殺しを
させているの?いつの間にか私は外道になっていたのね!?
と、いう馬鹿げた変な愛情はリーベの能力によるもので湧いている。
愛特有の能力。ラージュが怒りを増幅させることが
出来るようにリーベは愛という感情を操ることが出来る。男女だけの
仲で生まれるものだけでなく、友を大事にする友愛なども。
「さぁ、そろそろ見えるんじゃないかな」
リーベの両脇で射手とスナイパーはそれぞれ武器を構える。
遠くの木に身を隠していたエトリアが何やら顔を赤くして
立ち上がり、銃を頬に擦り付けていた。
「馬鹿らしい事をしているわ」
「酷いな。ただの愛情表現だろ?」
「そうね。貴方からすればそうでしょうけど、あれだとただの―」
矢と銃弾がそれぞれエトリアの急所を射抜いた。
「―変態ね」
「もう、言い過ぎですよカーラ!もっとオブラートに包んで」
「じゃあ…御変態ね!」
「何も包んでないじゃないですか!!」
ベアトリスは長い溜息を、カーラは言ってやったと鼻で笑い、
リーベは参ったなぁ…と言いたげな苦笑を浮かべた。
国を狙うスナイパーは完全排除完了。
彼女たちは引き続き国の防衛に勤しむことになった。
「ドロシー様には後で礼を言わなくては、ね」
「はい。特殊弾を用意してくれたおかげで対応できたので!」