28話「初手、勝利」
グリンダが作り出した巨大な結界内から敵を狙撃する
カーラとベアトリス。二人はそれぞれスナイパーライフルと弓を
構えた。
「大丈夫かな…お姉ちゃんたち…しっかり帰ってくる?」
「心配はいりませんよヤナ。ここは魔王と勇者に守られ、そして
竜にも愛される国。みんな、無事に帰って来ます」
グリンダは寝たままで答える。彼女の手をヤナはギュッと握っている。
「それに早く終わるかどうかはドロシー様にかかっています」
「あらぁ?誰かと思えばダンピーラじゃない」
長い金髪の美女は刃をペロリと舐めて笑みを浮かべた。
「剣姫メルティ・エイゼル、か…何が参考程度に、だ。当たってんぞ、
ドロシー様の予知」
ドロシーの指示でメルティの相手をユベルが担当することになっていた。
その場所も時間帯も全てドロシーの予想通り。
ユベルはうわ言の様にバルカンの名を呼ぶ。
「…?空が、暗くなってきたわね」
メルティは辺りを見回す。これは幻覚?にしてはかなり現実味がある。
それだけ強い幻覚、もしくは結界を―。
推測に浸っている場合では無かった。紙一重で完全に避けたつもりが
僅かだが頬を斬られた。
「凄いわ~。びっくりしちゃった~」
「やっぱりお前もか?」
「え?―」
ユベルが軽く手を振るうと一滴ずつ滴り落ちていた血が
滝のように流れてユベルの手元に集まる。彼は血を操る力も
あるのだ。
「剣姫といえども、そんなに厄介な相手では無いな」
「舐めてますの?舐めてますわね!?血を抜かれたぐらいで私が
動揺するなんて思っていますの!!?」
そんな虚勢を張る彼女の剣は鈍っている。ユベルは冷酷な
目を彼女に向ける。
「あーあ、沢山吸ったなぁ…?」
膝をついたメルティの背中を踏み付けたユベルは
笑みを浮かべた。
「な、んなの…何なのよ。こんなの聞いてない!あの人から!
ナイン様から聞いてないわ!!」
「信用がないんだろうな。自分しか大事にしないタイプだ。
っと、短い時間だから教えてやるよ。俺の作った毒、今度は
良い人生が送れると良いな」
メルティは必死に手を伸ばすも届かなかった。そして内心、ナイン
という少年を憎悪した。
あの少年は悪魔だ、死んでしまえ。死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ
死んでしまえ死んでしまえ―死んでしまえ―!!!!
「はい、一人仕留めましたよ。中々ブラックって事だけは
分かりました―」
『お、おお…そんな内事情まで分かったのか…うん、でも
お疲れ様』
夜の空が崩れて、ユベルは息を吐き、大木に背中を預ける。
「こんなところで休むのか。平和ボケでもしているのか―」
鈍い音。鈍器で殴られたような痛みを感じながらユベルの体は
力を抜いて倒れた。
テュポーンの封印を解いた神族、タナトス。
不意打ちを喰らい倒れたダンピーラにとどめを刺そうと―。