3話「解放される魔獣」
「なんと!オルビス殿、一体どうして…いや、悪いとかでは無く
純粋に貴殿がドロシー殿の下に入る理由が知りたいのです」
帰り際の使者たちが目を丸くしていた。当然だ、彼らもまた
人間の国で生活する普通の人間。オルビス・エルンストの話なら
聞いたことがあるに決まっている。
「ドロシー殿から勇者の片鱗を見たからですよ。魔物たちも彼女を
心から慕っている。それだけ彼女が素晴らしい人格者であるという証拠です」
「なるほど…良い話が聞けました。では我々はこれで。何時でも
我々を頼ってくだされ、ドロシー殿」
「はい。今回はありがとうございました」
使者たちを見送り、再びドロシーはフゥ…と息を吐いた。
客人に対して慣れていないので異様に力が入ってしまう。
「さて、皆にもオルビスさんを紹介しないとね」
「あの…さん付けはしなくても良いんですよ?」
「いいえ!これだけは絶対に譲れません!!」
珍しくドロシーは強気に言った。その勢いに負けた
オルビスはただただ苦笑していた。
ドロシーの指示でリーベはオルビスの案内役を引き受けることに
なった。
「魔導人形か。それにしては随分と表情豊かだな」
「製作者の一部と繋がっている。人形と言っても限りなく
人間に近いんだ。俺と他四人は感情人形なんて
呼ばれてる」
リーベも作られたばかりの時は何の感情も持っていなかった。
制作者である先代国王は様々な術に精通しており、自分を通して
リーベに感情を学ばせた。
「ドロシー様が生まれてから創られたんだよ。俺たちは」
「外見では上だけど、実年齢は彼女と同じって事か」
先代国王曰く、容姿は全て若い。その理由はドロシーの兄弟の
ように見せるためだという。
何かがあってもドロシーが哀しい思いをしないように…。
「先の国王…ドロシー様の父上は…」
「生きてるかもしれないし、死んでいるかもしれない…
俺たちにもイマイチ分からないんだ。アンタは、どうなんだよ。
さっきからこっちにばっかり話を振って」
オルビス自身の話も聞かせろと言う事らしい。
「そんなに良い話は無いがな」
「なら、聞かせてくれないか。さっき、少しだけ言った
勇者の片鱗って奴をさ」
「俺の直感だ。ああいう人を人間は選ぶ…魔物の国で生まれ育った
異端な勇者の誕生は近いのかもな」
答えになっていないような答えを出されてリーベは釈然としなかった。
他国の客人も無事に自国に帰った。そして事も一段落した。
だがそう長く平穏無事は続かないようだ。
ここは元々魔物のみが暮らす森。それ故に危険な魔獣も眠りに
ついている場合もある。
「ここか…確かに厳重だな。一体何重の結界を張り巡らせているんだ」
神父のような恰好の男が二人。彼等の視線の先には結界で厳重に
封じられている洞窟。その奥地に彼らの目的がある。
「それでも解くのは簡単だね」
「これらの封印を解いてやれば勝手に暴れるだろう」
男が手を差し出す。
封印は簡単に解けて眠る怪物がついに目を覚ました。
その気配をいち早く察知したのは森に住まう高位精霊、ドライアドたち
だった。彼女たちは新たな国主ドロシー・マーテルのもとへ
急ぐ。