26話「一ヶ月後の宣戦布告」
笑顔を浮かべているが、その心のうちは悪だけだ。
『そんなに警戒しないでよ。これはゲームだよ。僕と勇者、どっちが
世界を統一するか』
「残念だけど、私はちっぽけな国で手一杯」
『意地悪なこと言うなよ。テュポーンの件も全部僕が仕込んだ
事なんだよ?でも後半になって突然狂っちゃったんだよねぇ…
バルカン…いや、ストリウス・マーテル。君のその呪いは予想外
だったんだ』
サラッと彼はバルカンの正体を告げた。バルカンが激昂したり、
怒鳴り散らすことはない。
『あ、そうだ!君の恋人を殺したのも僕なんだけど』
「そんなに怒らせたいのか?そんなことはとっくに知っているさ。
あの人の事だ、いちいち相手にしないでって言われるかもな」
オフィーリアの事を言われても尚、彼は乱れない。やがて
ナインが諦めて話を変える。
『僕はね、世界を支配したいんだ。良いと思わないか?だけど
その一番の障害が君なんだよね』
彼は画面越しにドロシーを見据える。父も父なら娘も娘。
感情を大きく動かすことはなかった。
『戦いは一ヶ月後。その時になったら僕は帝国軍と共にオズを
襲撃する』
一方的な宣戦布告をして彼との通信は終わった。
一カ月という言葉が引っかかった。彼は何かあるんじゃないか?
何かしらの準備があるのかもしれない。
「…なら、こっちもいっちょやってやりましょーか!」
立ち上がってグッと拳を握るドロシー。
それを呆然と眺める彼女の配下たち。ドロシーは彼らに
指示を出した。
「サルビアはジェラートとアイコンタクトを取って、それと
内密にね?」
「承知しました」
具体的な内容を言う前に仕事に向かってしまった。流石、仕事が
出来るイケメンはかっちょいい。
「リーベ達は帝国軍の人間がいないかどうか警戒しておいて」
リーベ達は魔導人形。そして偽装を見抜く特殊な目を持っているのだ。
敵に情報を知られないように気を付けなくては。
「他に手を回すべきことはあるかな…?」
「いや、あまりに多くの事を一度に進めるのはオススメしない。
今日やるべきことはサルビアの件が最低限の事だ。こっちも
休もう」
バルカンの言葉に全員が頷いた。最後まで部屋に残っていた
バルカンはドロシーに声をかけていた。
「知っていたのか、俺の事は」
「うん。お母さんに教えてもらった。でも黙ってた方が
良いのかなって…」
背中を向けていたドロシーは振り返り、バルカンに…ストリウスの
胸の中に顔を埋めた。
「会えて、よかった~…!!!」
「心配をかけてしまったな、ドロシー」
それは叔父と姪では無く、父と子の再会だ。だがあくまでも
今のストリウスはバルカンと言う魔王。それだけはどう頑張っても
覆すことは出来ない。それでも彼らはようやく腹を割って再会を
喜ぶことが出来た。その様子を他の部下たちが静かに見守っていた。