25話「勇者と魔王」
この魔王の力はどうにも弱い。
これで魔王なのか、他の魔王に会った時は
油断しないようにしよう。とは言ってもこの魔王に対しての
油断は禁物。
「波打つ知性の星―水星!」
握られたのは杖。ドロシーは器用にそれを回し、前に突き出す。
放たれたのは水の攻撃だ。ただの水では無く、魔物に効果的な
聖属性が加えられている。
「小癪な…!」
「それは特大ブーメラン。―水星杖!」
杖で円を描き、前に突き出す。水は宙を、地を駆けていく。弾丸の
ようにも見えるだろう。これは知性の星の力。敵の動きなど最初から
お見通し、情報収集をおざなりにし、相手を見下す者が
互角に戦うなど不可能だ。
「ぐぅぅわっぁぁぁ!!!!?」
弱くても魔王。まだまだ粘っている。本性を現し紳士的な振る舞いを
彼は捨てた。
「悪足掻きですね」
カーラが呟いて周りは頷いた。
杖を手放し、別の得物をドロシーは披露した。
「沈黙する破壊の星―土星!」
「何だ…この空気は…!?これは―」
「言ったでしょ。破壊の星、と…」
死神が持っているような大鎌をドロシーは既に
振り上げていた。ジェガルはバルカン(ストリウス)のような
不死性があるわけでは無い。しかし彼は半永久的に生きることが
出来るのだ。彼にとっての本当の死は魂の―
「貴方の死は魂の消滅。この鎌で斬られた者は魂諸共
消滅する。それがこの武器の力だ」
「そんなはず…脆弱な人間に負けるわけが―」
「―土星鎌!」
恐怖で硬直した体では防御も出来ず、切り裂かれたジェガルの
体はサラサラと砂になって消えた。一先ず敵討ちは成功だ。
残っている人物とはしっかりと決着を付けなくてはならない。
「帝国が動き出すようですよ」
戦いから1ヶ月後。サルビアはジェラートと仲を深めていて
彼を通じてフィネストラ公国と協力しながら他国の内情を
探っていた。
その報告通りだった。帝国に新たな最強の戦士が
現れたという。名前もナインと名乗っている。全ての事件と
繋がりがある悪党がついにこの国に牙を向く。
「で、帝国はこの国を滅ぼす気満々ってことか」
「そうです。強大なデフテラ王国を倒した強国を倒し
領地にすれば帝国は更に強くなる。彼等の強みは軍隊です。
強さだけがものを言う」
力のカースト制。強い者だけが昇進していく制度か。
そんな帝国だからこそ様々な人材を保有している。
剣姫と呼ばれる女もいるらしい。
「こっちもそれなりに準備を整えて行かないとね」
「驚くほどに楽観的だね」
「そうでも無いよ、リーベ。これでも余裕が無いから。
でも、この戦いで全部の事を終わらせることが出来ると思うんだ」
勇者とぶつかるは純粋な悪。
そんな純粋な悪からこちらに連絡が入ったのだ。
『ジェガルの討伐おめでとう勇者ドロシー。僕はナイン・クラストス、
勿論知ってるよね?だってフィネストラ公国と仲が良いし』