23話「情報共有」
バルカンも離れた場所で話し合いに参加していた。
式典のメインも終了して、サルビアやジェラートたちから
今回の戦いの発端を知らされる。
「枢機卿がいましたね。元よりこの国はリコリス正教会から
特例で国として認められていました。ですが彼は独断でこの国へ
武力行使を促しています」
「え、それって大丈夫なの…?」
「大丈夫な訳ないわ。組織の方針を身勝手にも私利私欲で
外れたのよ。上の許可を得ずに、それも戦争よ?もうとっくに
彼は正教会の牢獄に繋がれてるでしょう」
教会のルールに反した、一人の大罪人と言うことで
投獄されたようだ。
「…教会についての話は彼にしていただきましょう」
黒い服を着た男。天秤が胸元に刺繍されている。背中には
正教会を示す白百合を模した紋章が描かれている。
「リコリス正教会直属執行部リリウム所属、コリン・ハートと
申します。二代目国王の継承、おめでとうございます」
コリンは深々と頭を下げた。
「執行部リリウムって…何?」
「簡単に言えば教会内で不祥事を起こした聖職者を断罪する
権限を持つ組織です」
「あーなるほど!」
ドロシーは手を叩いた。学校で言うところの風紀委員みたいな
ものだ。別で言えば警察。
「此度の件は我らの監督不行き届きです。申し訳ありません。
聞いてもらいたい話があります。ドロシー様、貴方はフィネストラ
公国より手紙を貰って自国を出たと申しておりましたな。
その件について、枢機卿は関わっていなかったというのです」
「えぇ?でも、エミリアさんも出した覚えは無いって…国王が
いたら邪魔だから、相手が偽物の手紙を使ったのかと…」
「エミリア様も、そして彼女の従者たちも一切関わっておりません。
嘘を吐いた形跡も無し。つまり、第三者が関わっているということです」
エミリアたちが開く集会の日程を知っていて、尚且つドロシーの
家庭内事情を知っている存在。そして他にもデフテラ王国が
オズの富を欲していることも察していた人物、もしくは集団か。
「そうなるとやはり…私の勘が当たっているのかも…。手紙を
出す出さないは我が国に本部を置くギルドのグランドマスターが
決めることが出来ます」
鋭い者はそれで誰が容疑者なのか察しが付くだろう。
「最年少でギルドマスターという地位を築き上げた人間…
ナイン・クラストス、彼が一番妖しいかと」
『それだが少し俺も推測を述べたい。今回の戦争…まぁ戦いを
行えばどちらも力が大幅に削げる。そして大量に人が死ぬ。
俺の大胆な予想だが、そのナインという少年はデフテラ王国と
オズの力を削ぐと同時に人間の魂を集めたかったのではないか?』
口を挟んできたバルカンの推測は少し行き過ぎているように
感じられるが筋は通っている。二つの狙いを同時に達成できる。
「中々に大胆だな。そう考える根拠はあるのですか」
ユベルは彼に聞いた。
『デフテラ王国はそれなりに大きな国だ。何かしらナインにとって
邪魔になるんだろうな。それならばオズも一緒。強い魔物を
抱えている。両者をぶつけて死者を出す。そしてその魂を集め
ナインと繋がっている魔王を更に強化する』
「えぇ!?魔王までいるの!?」
『俺が魔王になれるぐらいだからな。それだけの量があったという
事だ。相手にとっては計算外の事ばかりが起こっただろうな。
俺も含めて』
全員が沈黙した。
『俺は本来ならばこうやって動いていなかった。例の魔王により
種族は食人族へと変えられ、オズにやってくる人間を貪る
怪物になるはずだった』
「…それは」
『だが俺は人を食ったりしない。いや、うん…つい最近食ったけど…。
まぁ良い。あの男は慢心してたのさ、人間ならば欲に負けるに
決まってるってな。だが俺は人間であって人間では無い。欲など
とうの昔に捨てた』
魔王のちょっとした過去の不手際が今になって彼らにとっての
計算外を招いたと言う事だ。そしてこちらにとっては好転するための
キッカケにもなったと言える。
『その魔王もそろそろ焦ってるんじゃないか。自身の過去の不手際に
気が付いてな』